ブロロッサムの木の下にはね…… その2
この世界でのコンビニおもてなしの営業は朝の7時頃から夕暮れ時までとなっています。
と、いいますのも、日が暮れると城門が閉鎖され外部との交流が全て遮断されるこのガタコンベでは、閉門と同時に街中を出歩く人々の姿も激減するためなんです。
日が暮れてから出歩くのは酒を飲みに行く人々ぐらいでして、一般の人々は皆家でのんびりして早々に寝入ってしまいます。
ブラコンベには大規模な飲み屋街がありまして、娼館なども存在しているので夜でもそれなりに賑わっている一角はありますが、こじんまりとした酒場が数軒しかなく娼館もないガタコンベの夜はホント静かの一言なんですよね。
それでも、ほぼオールナイトで営業しているおもてなし酒場の店内はいつも賑やかな声とお客様でいっぱいになっています。
提供しているスアビールの味の良さももちろんですが、イエロとセーテンがいつも賑やかに客達と語らっているもんですから、その会話を楽しみにやってくる人々がかなりいるわけです、はい。娼館行為はもちろんしてませんよ。
元いた世界では、他のコンビニに負けてしまい倒産寸前だったコンビニおもてなしですが、まさか異世界でこうして順調に売り上げを伸ばせるなんて夢にも思っていませんでした。
これには、スアをはじめとしたこの世界の皆さんに本当に感謝してもしきれないと、いつも思っている次第です。
◇◇◇
そんな感じで日々頑張っていると、週末の休日がやってきました。
この世界は周に1度、僕が元いた世界で言うところの日曜日はほとんどのお店がお休みします。
なので、コンビニおもてなしもそれに合わせてお休みしているんですよね。
ちなみに、この日はスアのアナザーボディが店内を徹底的に掃除してくれていますので、週明けには店内はいつもぴっかぴかなんです。
で、今日の僕達は、先日計画したとおりブロロッサムの木が群生しているところへお花見に行くことにしています。
「パパ! これを魔法袋に入れたらいいですか?」
厨房で料理を作っている僕に、パラナミオが元気な声をかけてきます。
「うん、そこのお重はもう出来てるから入れてくれるかい、あ、それから……」
僕は、そう言うとパラナミオを手招きしました。
「パパ、どうかしましたか?」
怪訝そうな表情を浮かべながら駆け寄ってくるパラナミオ。
そんなパラナミオに、僕は焼き上がったばかりのウインナーを一本、差し出しました。
「みんなには内緒だぞ。熱いから気をつけてお食べ」
「はい!」
僕の言葉に、パラナミオは嬉しそうに微笑みながら、僕の差し出したウインナーを頬張っていきました。
このウインナーですが、タテガミライオンの肉を使っています。
普通に焼くだけでも超美味なタテガミライオンの肉ですからね、このウインナーも超美味なんです。
コンビニおもてなしでも、焼きウインナーとして提供してますけど毎日すぐに売り切れる超人気商品なわけです、はい。
そんなウインナーですからね、パラナミオは頬を緩ませながら、
「パパ、これすっごくおいしいですぅ」
美味しそうにそれを頬張っていました。
僕は、そんなパラナミオを笑顔で見つめながら、
「お弁当にもいっぱいいれてるから、楽しみにしておきなさい」
そう言いました。
それに、パラナミオが元気に返事をしたのですが、いつの間にかその後方にリョータとアルトの姿が出現していました。
で、2人は物欲しそうに僕の顔を見ています。
この後、僕が2人にも一本づつウインナーをあげたのはいうまでもありません。
それを嬉しそうに食べてる3人の笑顔は、何物にも代えがたいですからね。
魔道船コンビニおもてなし丸は日曜も運航しています。
で、日曜は案内係を魔王ビナスさんがしてくれています。
魔王ビナスさんも、勇者ライアナと同じく分身魔法が使えますので適任ではあるのですが、先日みたいに内縁の旦那さんの仕事にいきなりくっついていく可能性がありますので、代わりになる人員を探しておかないといけません。
同時に、メイデンに変わる操舵手も……
「店長殿、それはいいではないですか。メイデンをこのまま終身雇用してくださっても、私は全然構わないのですよぉ」
僕の呟きを聞いていたらしい辺境駐屯地の隊長のゴルアがすごくいい笑顔でそう言うのですが……
「ってか、なんでお前まで来てるんだ?」
「昨夜おもてなし酒場で飲んでおりましたら、イエロ殿に誘われまして」
「うむ、知らぬ仲ではありませぬし、こういうのは人数が多い方が楽しいでござろう?」
僕とゴルアの会話を聞いていたイエロが、敷物を運びながら笑顔でそう言いました。
うん、まぁ、間違ってはない……間違ってはないんですけど、僕的にはどうにも納得し難い部分が……
とはいえ、来てしまった者を追い返すのもあれですし、一応身内のイエロが誘ったわけですしね、そんなゴルアも交えた僕達は、
僕とスア、それにパラナミオ・リョータ・アルト・ムツキ
イエロとセーテンの狩りコンビ
シャルンエッセンスは、先日同様に舞踏会にでも行くの?的なドレスで来ています。
これに、ゴルアが加わった総勢10名で出発することになりました。
魔道船は今日も運航しているため、現地にはスアの魔法の絨毯で移動します。
で、皆が荷物を積み込み終えて絨毯の上に乗ったところで、スアが水晶樹の魔法の杖を一振りしました。
すると、魔法の絨毯はすごい勢いで空に舞い上がっていき、僕達はあっという間に雲の上まで上昇していきました。
「すごいすごい!」
その光景に、パラナミオ達は大歓声をあげています。
その横では、イエロ・セーテン・ゴルアの三人は早くもスアビールで乾杯し始めています。
ま、今日はお花見ですしね、みんなで楽しく過ごせればいいやと思った僕もイエロからスアビールを受け取りました。
子供達がパラナミオサイダーを飲みながら眼下の景色を満喫していると、ほどなくして前方にピンク色の一角が見え始めました。
小高い丘の頂上付近を覆い尽くしているそのピンクの一角ですが、近づいていくとそれがブロロッサムの木であることがわかりました。
スアは、水晶樹の杖を振りながらそこへ向かって魔法の絨毯を操作していきます。
ほどなくして、僕達一向は目的地へと到着しました。
そこは、人どころか獣や魔獣もあまり出入りしていないらしく、自然そのままの状態でした。
そんな中、多数のブロロッサムの木が満開に花を咲かせている光景は、ホント圧巻の一言です。
「うわぁ、綺麗ですねぇ」
リョータが感動した声をあげ、パラナミオとアルトも、目を見開きながらその言葉に頷いています。
その横では、
「さぁ、敷物は敷けたでござる」
「簡易竈も準備出来たキ」
「酒なら並べたぞ」
と、まぁ、新酒飲み三人娘とでも言うべきイエロ・セーテン・ゴルアの3人は、すでに相当量酒を飲んでいるにも関わらず、テキパキと花見の準備を進めています。
うん、そこだけはホント感心します。
僕は、料理の入ったお重を敷物の上に並べていき、セーテンが作ってくれた竈に火をつけると、その上に網をのせて早速あれこれ焼き物を焼き始めました。
ウインナーや焼き肉なんかはお重にもいれてますけど、こうして焼きたてを食べるのも美味しいですしね。
ほどなくして、みんなが敷物の上に座ったところで、
「じゃ、みんな。今日はお花見ってことで楽しくやりましょう」
僕がそう挨拶し、皆がそれに笑顔で答え、お花見がスタートしました。
で、僕が焼いているウインナーや焼き肉はやはり大人気でして、パラナミオ達子供だけでなくイエロ達までもが竈の前で焼き作業をしている僕の前に列を作っています。
周囲には、焼き上がっていく良い匂いが充満しています。
次々にっさいだされてくるお皿の上に、僕は焼き上がったウインナーやお肉を次々とのせてあげていたのですが、次に出て来たその手にはお皿がのっていませんでした。
「おいおい誰だい、お皿を持ってくるのを忘れたあわてんぼさんは?」
僕は笑顔で顔を上げました。
で、その目が点になったんですよね。
そこに立っていたのは、見知らぬ女の子でした。
小柄で妙に色白で、キモノを思わせる服を着ているピンクの長い髪の毛の女の子……ですが、今日の参加者の中に、そんな女の子はいません。
唖然としている僕の目の前で、その女の子は、
「それ……妾も食べたいのじゃ」
そう言いながらウインナーを指さしつつ、その口から大量の涎をたらしていたのです。