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3話

靴の加工が終わった合図を確認して、1度買い物を終えてから靴売り場へ戻る。
老紳士の店員さんは他のお客さんを対応していたが、こちらに気がついて一言入れてからやってきた。

「お待ちしておりました」
「あの方達は、良いんですか?」
「どれにするかじっくり考えたいとの事でしたので、少しの間なら。今お持ちします」

そう言ってまたバックヤードへ戻って行った。
すぐに、箱に入った靴とサンダルを持って戻ってくる。

「1度履いて確認して下さい。こちらのスツールをお使いください」
「ありがとうございます」

ニコをそのスツールに座らせて、受け取った靴を履かせる。

「キツくない?ちょっと歩いてみようか」

スツールから下りて、その周りをチョコチョコと歩き回る。
特に不具合は無さそうだ。
サンダルも同じく。

「うん、大丈夫そうです」
「それは良かった。どちらか履いてかれますか?」
「じゃあ、サンダルをこのまま履いてきます」
「では、靴は仕舞っておきましょう」

商品と引き換えに、白札を返却する。
売場を離れる時には、入口の外までやってきて、深々と頭を下げてお見送りをしてくれた。

「そろそろお昼の時間だね。混む前に先に済ましちゃおうか」

先程まで抱っこしていたニコは、今はココロの手を握って横を歩いている。
歩幅を合わせると、いつもよりゆっくり歩くことになるが、時折ココロを見上げて目が合うと、名前の通り、ニコニコな笑顔を見せてくれた。

フードコートのある階へ向かう。
混んではいないが、それなりにお客さんが行き来している。どうやら、同じ考えの人達のようだ。

このショッピングモールのフードコートは、日本のフードコートと全く同じ作りをしている。
が、システムは少々違うようだ。
まず目につく所で、調理場が無い。あるのは受付と受け渡し用のカウンターがあるだけだ。
その分、席が多く用意されている。間隔も大きくとられているので、人の多さを感じない。

「先に注文してこようか。何がいい?」

人混みに飲まれないように、色々なカウンターを見て回る。
店の種類自体沢山あり、あちこちに目が行ってしまう。
その内の一つ。他に比べて、子連れが良く並ぶ店が目についた。

「あ、あそこ見てみようか」

短い列に並んでいれば、待ち時間にメニューを見れるようにメニュー表が張られている。
どうやらこの店は、お子様ランチをメインに扱っていて、それぞれのセットと、同じ内容で量を多くした大人用のも売っていた。内容は同じと言っても、おまけのオモチャやよくある旗はついていないが。
つまり、子供が親の物を食べたがることを考慮しているという事のようだ。同じもの食べているなら満足できるから。
そのセットを選ぶ際は"親子ランチセット"と注文するらしい。

「おいしそうだね。ここにしようか」

コクコクと頷くニコを抱き上げて、どれにしたいか選んでもらう。
が、ニコはまだどれが何か分からないようで、きょとんとしている。

「ん-じゃあ、ママが選んでいい?」

頷いたのを確認して、メニュー表を眺める。
お子様ランチと言っても、かなり自由度が高い。
主食がご飯、麺、パンと選べるし、その種類も豊富だ。
おかずも子どもの好きなものがずらりと並んでいる。
どうやら、一つずつ好きなものを選んでオリジナルに近いものが出来るようだ。

「ニコが食べやすいもののがいいよね。それじゃあ…」

箸はまだ使えない。スプーンもまだ掬って食べるのは難しいだろう。
唯一使えるのはフォークだが、それでも刺すことぐらいだ。一番慣れているのは手づかみ(主におにぎりを食べていたから)だ。
体質的にも、食べられないものは無いと聞いた。知り合いの(目視で体質が分かる)医者に確認済みだそう。
そこから食べやすいものを選ぶなら…

「えー、チキンライスにハンバーグ、エビフライ、ポテトサラダ、コーンスープ。お飲み物はオレンジジュース、デザートにプリンでお間違いないですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。お子様のオモチャは後程お選びいただきます。では、こちらの札を持ってお好きな席でお待ちください」

注文を終えて、次の人に場所を譲る。
席はどこがいいだろうと見渡せば、まだまだ空席が目立つので、手近な二人用の席を選ぶ。
まずニコを座らせようとしたが、設置されている椅子では大人用で、キッズチェアは無いかとあたりを見回すと、エプロンをかけた人が近付いてきた。

「こちらをお使いください」
「あ、ありがとうございます」

探していたキッズチェアだった。
その後も、セルフで設置されている水や、手拭きなども持ってきてくれる。
周りにはそういう人が何人かいて、親子連れの手伝いをしている。そういう仕事をする人のようだ。
しばらくすると、両手にお盆を持った人が近付いてくる。

「お待たせいたしました。ご注文の親子ランチセットです」
「え、あ、ありがとうございます」

まさか持ってきてもらえるとは思わず、驚いた。
最初のころにも一度フードコートは利用したが、その時はブザーが鳴って取りに行ったが。

「お子様連れのお客様に、安心してご利用頂けるようにというのが、モール全体での理念となっております」
「そうなんですね。一緒に来たのは初めてなので、とてもありがたいです」

何と子供に優しいショッピングモール。靴売り場の店員さんも優しかったし。
ランチセットを、それぞれの前に置いて、最後に選べるオモチャの写真が載っている紙を渡してきた。

「この中からお好きなものをお選びください」
「分かりました、ありがとうございます」

それはひとまず伏せておいて、食べることにする。
頂きますと両手を合わせると、ニコもそれを真似している。
どちらも同じワンプレートだが、子供用は食べやすいように一口大に分けられている。これならニコでも食べられそうだ。
初めて食べるものばかりだから、最初は一口ずつ食べ比べている。


「はい、ごちそうさまでした」

食べ終えて、再び手を合わせる。特に嫌いな物はなく、綺麗に完食した。
片づける前に、オモチャを選ぶ。紙を見ると、たくさんの可愛いものが載っていた。

「ん-、どれがいいかな」

キラキラしたシールに、コンパクトケースらしきもの、ガラスビーズの小さなブレスレット等。
オモチャというよりは、小さなオシャレが出来そうな物の方が多い気がする。完全に女の子用である。

「何か気になるのある?」

少し悩んだ後、そっと指さしたのはコンパクトケースだった。

「コレ?」

こくりと頷く。
決めているのに気が付いたのか、店員さんがやってきた。

「お決まりですか?」
「はい、このコンパクトケースをお願いします」
「かしこまりました。こちらはお下げしますね。少々お待ちください」

空になったプレートを持っていき、すぐにおもちゃをもった戻ってきた。

「お待たせいたしました。こちらお持ちください」
「ありがとうございます」

ピンク色の袋に入れられているそれを受け取る。
長い紐が付いているあたり、子供の首にかけれるようになっているのが分かる。

「無くさないように、出すのはお家帰ってからにしようね。じゃあ、行こうか」

店員さんに最後のお礼をして、嬉しそうに袋を持っているニコを連れて、フードコートを後にした。

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