2話
靴売り場へ足を踏み入れて、辺りを物色する。
サイズ別に、小さな靴が棚にたくさん並べられていた。
「あ、最初にサイズ調べないと」
ニコも、先程に比べてグンと人が少なくなったのを感じてか、ソロソロと顔を上げて靴を眺めている。
「気になるのあったら服引っ張ってね。あ、すみません」
店員は居ないかと探せば、棚を整理している人を発見する。
ココロの声に気がついて、パッと顔を上げた。
優しそうな表情の、初老の男性だ。
「いらっしゃいませ。申し訳ございません、すぐ気が付かなくて。何をお探しですか?」
「この子の靴が欲しいのですが、サイズが分からなくて」
「畏まりました。少々お待ちください」
頭を下げてバックヤードへ足を向ける。
この場で待っていようと思ったら、服をクイクイと引っ張られた。
「いいのあった?」
指さす先にあったのは、サンダルのコーナーだった。
これまた小さくて可愛いサンダルが並べられている。
「どれ?」
指し示す場所を探して少しずつ移動する。
会話が出来ないのは不便だ。
ようやくどれを指しているのか判明した。
「コレ?」
「!!」
薄桃色の、足首を固定できるタイプのサンダルだ。
甲の部分には花型の飾りが着いている。
「お待たせ致しました」
「あ、ありがとうございます」
何かを持ってきた初老の定員さんに、ニコはビックリして再び腕の中に。
「これは失礼致しました。小さなお嬢さん、ご無礼をお許しください」
穏やかな老紳士の声に、恐る恐る顔を出すニコ。
そのニコを見守る目は、孫を見るような優しい目をしていた。
目が合うとニコリと微笑まれて、今度は恥ずかしそうに顔を隠した。
「これはお可愛らしい。…娘さんですかな」
「はい、そうです!」
ほっほっと笑いだしそうな顔で問われて、迷うことなく肯定する。
…では何故、靴が無いのかと、問われることは無かった。
老紳士は気がついているだろう。けれど、事情があるということも察し、詳しくは聞いてこなかった。
「まずはサイズを測りましょうかな。これを、娘さんの足に嵌めてください」
「あ、はい」
受け取ったのは、靴のような物だった。
形は靴そのもの。けれど硬い上に、履き口は広い。ココロが履いてもすぐ脱げてしまいそうだ。
「こう、ですか?」
それをニコの足に触れさせれば、硬かったはずの靴らしき物は小さくなっていき、ニコの足をスッポリ包んでしまった。
目の前の現象に目を丸くする。一体何が怒ったのだろう。
「はい、もう宜しいですよ。カカトの所に解除ボタンがあるので、触れてください」
見えないので手探りでボタンを探し当てる。触れれば元のサイズに一瞬で戻った。
「えっ、と…今のは一体…」
「足のサイズを測定しました。当店では、脱ぎ履きしやすいピッタリな靴をご用意致します」
「そ、そうなんですね。…でも、小さい子ってすぐ大きくなるんじゃ…」
「ご安心ください。特殊加工により、購入後より1年間は足の成長と共に靴のサイズが大きくなります。1年後、継続してお使い頂くなら当店でのみ、加工のし直しが可能です」
「へぇー」
その加工とやらは、恐らく能力持ちが関わっているのだろうというのが、安易に想像ついた。
老紳士の店員さんではなさそうだけど。
「では、このサンダルと…靴も見てきても良いですか?」
「勿論でございます。ご案内致します」
すこし場所を移動すればたどり着いた。
当然だけど女の子用。可愛い靴ばかりで目移りする。
どんなのがいいだろうと見ながら移動していると、クイッと服を引っ張られる。
「ん?」
視線を向ければ、白地に青の花の絵が書かれたスニーカー(マジックテープのヤツ)を指さしている。
「これがいいの?」
コクコクと頷くのでそれに決定した。
どっちも花がある。花が好きなのだろう。
「じゃあ、これ2つお願いします」
「畏まりました。加工のお時間頂きます」
「はい。その間、子供服見てきてもいいですか?」
「ええ。それでは、この白札をお持ちください。加工完了致しましたら、靴の模様が浮かび上がりますので、目安になさってください」
「ありがとうございます」
料金は先に払って店を出る。
隣の子供服売り場へと向かう。
今居た靴売場は角にあり、逆側には男の子用の靴があった。
店としては1つだけど、見やすいように区切ってあるようだった。
その角以外は全て服売り場となっていて、種類ごとに分けられていて非常に見やすい。
カジュアルな服もあれば、小さいながらにフォーマル服のコーナーもある。
フォーマル服は現在不要なので、そこへは行かないが。
「んー。肌着は少し多めにあったほうが良いかな」
これから暑くなる時期なので、汗をかいたらすぐに着替えれるように用意しといた方がいいだろう。
そう考えて、靴下含め、肌着は少し多めに購入する。
それから服。
上下で着易かったり、一緒に着せても変にならないような組み合わせを選ぶ。
「ん?これはイヤ?」
時々表情を見れば、良いか悪いか、分かりやすく変わっていくので、意思表示を確認するのも忘れない。
服の中には、汚れても構わない用(外で遊ぶ時とか)の物もカゴに入れた。
ワンピースもいくつかあってもいいだろうと数着選ぶ。
軽く羽織れるカーディガンも忘れない。
最後にパジャマ。肌触りの良い物を3着。
「これぐらいかな?靴は…まだみたい」
会計を済ませて店を出る。
このフロアでの買い物は終わりだ。後は靴の完成を待つばかり。
「他のところも見に行こうか」
1度靴売り場へ行き、フロア移動しても良いかと尋ねたら問題ないとの事だった。
移動して最初に目に付いたのは、家具売り場だった。
服をたくさん買ったので、それを仕舞うタンスが必要だ。
それから、食事用の椅子。今あるのは大人用の大きい物しかない。
その2つは、1度妖精達に作って貰おうかと考えたが、ニコが使える物を考えると、木のタンスは重くて使いにくいだろうからやめた。
「わー、ココもカラフルだね」
プラスチック…は確かこの世界には無いはずだけど、それに似た何かで作られているようだ。
基本は白だけど、引き出す為の丸い取っ手が段ごとに違っていたり、内側がそれぞれ別の色をしているのか、透けて見える。
「少し大きいのが良いかな、季節ごとに増えるだろうし。あとはハンガー掛けれるタイプのも…」
収納面と利便性から考えて、3つ選んだ。
三段で下二段は二等分に、一番上は三等分に別れてになっているタンスと、小さなハンガーラックハンガー付き。
それと、リビングに置ける小さなチェストだ。
それから椅子も一つ。
それらを選び終えた頃に、靴の完成を知らせる模様が浮かび上がったので、購入して靴売り場へ向かった。