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テトテ集落大感謝祭みたいな その1

 勇者ライアナを魔道船担当者として雇うことになりました。
 魔道船の就航開始までの間は試用期間ということで、本店で僕と一緒に仕事を覚えてもらうことにしています。
 というわけで、翌日から勇者ライアナには店にやってきてもらいました。
 勇者ライアナには、魔道船ではおもてなし出張所の担当や、船内案内係などといった接客を主に担当してもらう予定なので、試用期間中は主にレジ作業を中心にやってもらうことにしています。
 で、肝心の勇者ライアナなんですが、
「え~、勇者のこの私が接客なんかるすのぉ?」
 って最初はちょっと……いや、すごく嫌そうだったんですけど、その度に魔王ビナスさんがその背後に寄っていってですね。
「旦那様にいいつけますわよ? ふふふ」
「や、やかましいわねちびっこ! わかったわよ!やるわよ!やればいいんでしょ!」
 とまぁ、そんな感じで魔王ビナスさんが脅しをかけて、それに勇者ライアナが屈するパターンで渋々仕事に入るのがパターンなんですよね。
「こりゃ、結構大変かもしれないなぁ……」
 って最初は心配していた僕だったんですけど、勇者ライアナはいざ仕事に入ると

「いらっしゃいませぇ」
「はい、こちらいくらになりますね」
「ありがとうございましたぁ」

 と、このうえない営業スマイルを振りまきながらレジ対応を完璧にこなしていくんです。
 その完璧ぶりに、僕も思わず感嘆の声をあげていきました。
「いや、勇者ライアナがまさかここまで出来るとは思わなかったよ」
 そんな僕を前にして、勇者ライアナは営業スマイルのまま
「全てはマイラバーのためですわ」
 そう言い、再び接客に戻っていきました。
 
 で、この、魔王ビナスさんが言っている旦那様と、勇者ライアナが言っていますマイラバーっていうのは、どっちも同じ人らしいんですよね。
 なんといいますか、いろんな意味ですごい人だなぁ、とは思いますけど、ま、スアと結婚出来て子供達にも恵まれている僕は僕で幸せだからいいんですけどね。

◇◇

 魔道船の準備が着々と進む中……
 今日のタクラ家は家族全員でテトテ集落へ向かっています。
 いつものように電気自動車おもてなし1号に家族みんなを乗せて山道を進んでいます。
 僕達の店のあるガタコンベの街からテトテ集落まではでこぼこの山道を進んでいくのですが、
「少しでもパラナミオちゃん達が来やすいように!」
 と、テトテ集落の皆様がすごく張り切ってくださってですね、石畳の道をどんどんどんどん延長してくださっていたんです。

 その結果……はい、とうとうつながっていたんです……

 ガタコンベからテトテ集落までの間の石畳の道が……完全につながっていたんです。
 これ、僕が元いた世界の距離で換算した場合、軽く50キロを越えてるはずなんですよ。
 それをテトテ集落の皆さんってば、全て人力でやり遂げてしまったんです、はい。
 先日、おもてなし酒場にテトテ集落の皆さんが集まっていたことがあったのですが、あれってその完成祝いをしていたらしいんですよね。
 気がついていればこの日の酒代くらい僕が全額お支払いしたんですが、ちょっと悪いことをしてしまったなぁ、と思うことしきりだったわけです。
 なので、今日はテトテ集落の皆さんにタクラ酒とスアビールを差し上げようと思いまして、結構な数を魔法袋につめて持って来ています。
「パラナミオ、リョータ、アルト、向こうに行ったらよろしく頼むね」
「はいパパ! 任せてください! 集落の皆さんにお酒をお渡しすればいいんですね!」
「パパ、僕もがんばります!」
「あ~!」
 子供達は皆笑顔で僕に答えてくれました。 
 ちなみにムツキは相変わらずお眠モードでして、スアに抱っこされて気持ちよさそうに寝息をたてています。

 で、お気づきになられた方もおられるかと思いますが、リョータはついに常時少年化出来るようになりました。
 以前からムツキのように成長体になれるように、と、スアに魔法の特訓をしてもらっていたリョータなんですが、今のリョータはスアをもっと若く幼くしたような……えぇ、男の子というよりも女の子のような可愛い感じの少年姿になっています。
 で、リョータは
「パパ! 僕もようやくここまで大きくなれました」
 って、すごく嬉しそうに微笑みながら僕の腕に抱きついてくるんですよね。
 なんかちょっとスキンシップ過剰な気がしないでもないんですけど、まぁ、可愛い息子ですしね、それくらいは多めにみようと思っている訳です、はい。

 そんな事を考えていたら、テトテ集落の砦が見え始めました。
 物見櫓には、いつものように
『歓迎!パラナミオちゃん』
 から始まって、リョータ・アルト・ムツキ・スアの名前が書かれている垂れ幕がしっかり見えています。
 で、僕の名前もあるにはあるのですが、垂れ幕が長すぎるもんですから僕の名前の部分だけは地面の上に横たわっているもんですからまったく見えないんですよね。
 えぇ、いいんですよ別に。いつものことですからね。
 で、すでに砦では紙吹雪が舞っています。
 ほぼ集落の皆さん全員が集まっているらしいそこで、皆さんが笑顔で手を振りながら紙吹雪を巻きまくっています。
 そんな中に、僕らのおもてなし一号が砦の中へと入って行きました。
 いつもの、おもてなし商会テトテ集落店のありますリンボアさんの家まで車を進めていくと、それによりそうようにして集落のみなさんがぞろぞろついてきています。
 そんな皆さんに、パラナミオやリョータ、ムツキは窓を開けて笑顔で手を振っています。
「皆さん、いつもありがとうございます!」
「こんにちは!皆さん、お出迎えあいがとうございます!」
「あ~」
 そんな子供達の笑顔に、集落の皆さんも嬉しそうに笑顔を返してくれています。
 で、感極まって子供達の手を握ろうとする人が出てこないように、と、ここテトテ集落の自警団として活動していますミミィさんや、魔法使い集落から通ってきている用心棒をしている魔法使いのみなさんがおもてなし1号の周囲を適度に警護してくれているので僕は安心しておもてなし1号を操縦することが出来ています。

 ほどなくしておもてなし1号がおもてなし商会に到着しました。
 車を降りると、テトテ集落の長のネンドロさんが僕達を出迎えてくれました。
「タクラ店長さん、ようこそいらっしゃいました」
「いえいえ、こちらこそ今回もよろしくお願いします。あと、これ」
 僕はそう言うと、魔法袋の中からタクラ酒とスアビールの詰まっている木箱を取りだしていきました。
「石畳の道の開通祝いってことで、みなさんで飲んでください」
 そう言った僕の前には、かなりの量の木箱がならんでいます。
 で、それが僕からのお祝いだと知って、集落の皆さんは大歓声をあげていきました。
 で、その木箱をですね、パラナミオ達が開けていきまして、
「では、パラナミオ達がお配りするのです」
 そう言いながら、酒を手に持ち始めました。
 すると、集落の皆さんは、即座に子供達の前に列を作っていきました。
 さすがは、毎回パラナミオにあ~んしてもらうために行列を作り慣れているだけのことはあります。
 瞬時に、かつビシッ一直線に並んだ皆さんを前にして、僕は感嘆の声をあげていきました。

 で、パラナミオ達が集落の皆さんにお酒を配っている間に、僕はおもてなし一号の脇に机を並べて、そこに商品を並べてはじめまいた。
 とはいえ、こっちにお客さんが回ってくるのには、まだまだ時間がかかりそうではありますけど、集落の皆さんが喜んでくださっているんですし。まぁいいかと思った次第です、はい。

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