第1章ー1 ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”本領発揮
「あのよ。こういうのって良くあんのか?」
風姫の護衛兼侍女の彩香とアキトが、周囲が騒々しく剣呑な雰囲気の中、冷静に話をしている。
「大丈夫ですよ」
「どういう意味だ?」
「慣れますから」
「いや、慣れたくないぜ」
「以前に王都にいた時、お嬢様は年に6回ぐらいパーティーを主宰していましたが、3回に1回ぐらいの割合でしたよ」
「年に2回は多いだろ」
「仕方ありません。お嬢様はトラブルテイカーなので未然に防ごうとせず、そのまま武力で対処するのです。ジン様は武力による制圧を肯定的なのでトラブルインクリーザーとして騒動が大きなるのです」
「彩香さんが諦めてどうするっ! もうパーティーなんて呼ばれても、オレは来ないぜ」
「今のお嬢様は大学生なので誕生パーティーぐらいしか主宰しないですよ。なのでアキトは絶対参加です。それに年1回だから、多くて年1回で済みますよ」
今日は3月31日。
ルリタテハ王立大学の入学式を4日後に控え、風姫の大学入学と惑星ルリタテハへの帰還を祝ってのパーティーが催された。
そのパーティーに、オレはムリヤリ招待されたのだ。
翌日の4月1日、ルリタテハ王立大学にエレメンツ学科新設の記念パーティーがある。流石にそのパーティーには出席しなければと考え、風姫主宰のパーティーは断っていた。しかも3度も。
1度断った後は、再度招待状が送られてきた。2度断った後は、風姫からコネクトに連絡があった。それも断ったら、研究室に風姫とジン、彩香さんがやってきた。王女と現ロボ神、その後ろで物騒な雰囲気を醸し出している護衛兼侍女の姿を目にして、諦観と共に招待を受諾したのだ。
だが、その判断は間違っていた。
「普通はさ。護衛が肉壁となって警護対象を護るんじゃねーか?」
「お嬢様の前に立ちはだかるとは、身の程知らずですよ。それにジン様がフォローしています」
「なるほど・・・護衛はロボ壁か」
まあ、そうだな。風姫の前に人が立ったら、攻防の邪魔になる。
だがジンなら、壁としても武装としても適任だぜ
セキュリティーチェックの厳しいパーティー会場に武器の類は持ち込めない。ならば必然的に肉弾戦か、会場にあるモノを凶器とするしかないのだ。
フォークとナイフで美味しく風姫を処理しようと、男2人が左右から襲いかかかる。
刹那。男2人の両手首が切断された。
攻撃力を喪った男たちは次の瞬間、膝下から片脚も切断される。そのため2人とも転倒し、順々に鮮やかな風姫の蹴りを喰らった。
風姫はドレスの裾が翻し、踊るように空中を舞う。
全く危な気ない。
風姫がホントに危険な状態になったら、ジンか彩香が対処するだろう。しかし、ジンは風姫から少し離れたところで格闘を愉しみ、彩香はアキトと大人しく会話している。
襲撃が開始されてから約5分で騒ぎは収束した。
パーティー出席者の中に紛れ込んでいた襲撃者7人が、床をベッド変わりにして転がっていた。
「それじゃ、オレは帰るぜ。風姫には、大変だったなとでも言っておいてくれよ」
「何を言っているのですか?」
「はあ?」
「普通にお嬢様とお話すれば良いでしょう」
「こんなんになったらパーティーは終了で、風姫は安全な場所に退避するんだろ?」
「想定内です。隣にもパーティー会場を用意してあります。危険人物の排除は完了したので、ゆっくりとパーティーを愉しめますよ。ほら、他の出席者の皆さんもスタッフの案内で移動しています」
どうやら風姫主宰のパーティーに招待されている客は慣れているらしい。こういうトラブルがあってもパーティーに出席するのは、色々な意味で風姫の支援者たちなのだろう。
初めての参加者には、こういうこともあり得ると、必ず事前説明している。そう彩香さんがオレに説明してくれた。オレは事前説明を受けていないが・・・。
まあ、事前説明を受けたら絶対に参加しなかったけどな。
ルリタテハ王立大学はルリタテハ王国内で規模、設備、研究実績、卒業後の起業成功数など様々な指標で1位を獲得している。まさにルリタテハ王国で最高の大学である。
しかしルリタテハ王立大学は、国公立でなくルリタテハ王家が設立している。それにもかかわらず、授業料や設備費用が無償である。王家はルリタテハ王国における人材育成が、国力を向上させる着実な道だと確信しているからだ。
今日4月1日は、ルリタテハ王国の国王”一条千宙(いちじょうちそら)”の主宰したパーティーが催されている。
アキトの認識では、ルリタテハ王立大学の年初式典と、エレメンツ学科新設の記念パーティーだった。しかし、毎年ルリタテハ王立大学の年初式典の後は、国王主宰のパーティーと決まっている。そのパーティーの催しの中に、エレメンツ学科新設記念の紹介が組み込まれていたのだ。
立食形式のパーティーで、アキトと史帆、お宝屋が一ヶ所に集まり談笑している。仲良しだからだけでなく、他に知り合いがいないからだ。それに、いくら変人が多くても理知的な雰囲気の出席者たちと比べて、物騒な雰囲気を醸し出すアキトたちに話しかける者はいない。新設学科の教授陣に対し興味津々ではあってもだ。
パーティー開始から30分経ち、主賓が挨拶のため登壇した。
華やかで豪奢なドレスに身を包んだ金髪碧眼。
圧倒的な風格と覇気を纏っている可憐な美少女。
主賓は風姫だった。
「おい、ルリタテハの破壊魔だぜ?」
「いやいや、ルリタテハの踊る巨大爆薬庫さ」
「うむ、現ロボ神ジンも後ろにいるしな。いつでも参加するぞ」
「3人とも、驚いたからって当てつけのように悪名で呼ぶのは、アタシ酷いと思うんだよね~。あとゴウにぃ。トラブルへの参加は禁止なのっ!」
史帆だけが風姫を見ての感想を述べる。
「カゼヒメ・・・綺麗」
新設のエレメンツ学部の理事が一条風姫だから主賓として招待されていた。理事としてのスピーチのため、パーティー会場の壇上にあがったのだ。
王家が運営している私立大学であるルリタテハ王立大学は、学部ごとに一人の理事を置いている。新設学部は、その学部設立に尽力した王族が理事に就任するのが通例となっていた。エレメンツ学部はジンが設立した。しかし、世間一般には存在しない人物である一条隼人・・・現ロボ神のジンを理事にはできない。そこで風姫に白羽の矢が立ったのである。
因みに、複数の学部の理事に就任している王族もいるが、ルリタテハの私立大学の理事とは出資者としての側面もある。故に自分が興味のない学部の理事に就任する者は少数である。その少数の者が理事に就任する理由は、義理と王族としての義務からである。他の私立大学では、理事がいなくなると2~3年で学部がなくなってしまうのだ。
「ここには国王がいるんだ。襲撃なんてあり得ないぜ」
「うん、そうなのか? アキトは昨日のパーティーで暴れたんだろ? なら、今日も大丈夫という保証はないぞ」
「オレは暴れてないぜ」
「いやいや、ゴウ兄。国王のいるパーティー会場で襲撃はないね。それこそ、どこの政情不安定国なのさ」
「あのね、ゴウにぃ。機能は風姫主宰のパーティーだったからなの。それにトラブルと強固な友情を結んでいるから、仕方ないんだよね~」
最後までトラブルなくパーティーは終了した。
エレメンツ学部に興味津々の出席者は、理事である風姫の所へと集まり、アキトたちの元へは誰一人として訪れなかった。