12(終)
そして、旅立ちの朝が来た。
違った、エッザールたちは「旅陣」って言ってるんだっけ。
新しい馬車にたくさんのお土産と証した食料、それに俺のために鍛えてくれた、エッザールと同じ剣。
家族のみんなに「お前はもう我々の家族だからな、いつでもここに来ていいぞ」って、なんかちょっぴり泣きそうになっちゃった。
村に残るはずだったアスティさんも結局同行することになり、これで四人。パチャも一緒だ。
「当たり前だろ、お前と結婚してるんだし」なんて馬車の奥で相変わらずへらず口を叩いてる。
そう、パチャは村から体よく追放ってかたちになった。
未練なんかねーよ。ってパチャは言う。いろいろあったことは……とりあえず聞かないでおこう。
あと謎だったのが、パチャがアスティさんと話すときはなぜかすごい深刻な顔してるんだよね……二人ともなにを話してるかなんて知らないけど、まあいいか。
たくさんの人の声が背中に刺さる。
いつかはパチャもここへ戻ることができたらいいな……と俺は思ったんだ……が。
「まだ……寒くないですか?」
エッザールの一言に、アスティさんはあわてて日付けを確認した。
「ええ、まだリオネングに戻るには厳しそう……ですね」そうだ、リオネングここより北。暖かい季節になるにはまだ遠い。
そうして、馬の足が止まった。
「もう一回村に戻るのはナシだぞ」と、パチャ。
「分かってる、けどもう出てしまったからには、その……」手綱を握るエッザールの顔に焦りの色が浮かんできた。まさか……全然プラン考えてなかったとか?
「うーん……だったら寒くないところに行けばいいんじゃないの? 別に帰るとか考えずにさ」
つーかもうそれしかないし。俺もまだクソ親父のところに帰りたくないし。
「兄貴! だったらさ、あたし海が見たいな」
エッザールの肩越しにパチャが話しかけてきた。
「海……か。確かにそう遠くはない場所に港町があるし。パチャは海を見たことないはず」
「あ、俺も」
「ぼ、僕も……」俺もアスティさんも、海は見たことがなかった。リオネングは内陸だから、海ってどんなもんだか見てみたい気もするし。
「よし、ならば港町バクアに行きますか!」
「え、バクア……!?」その言葉を聞いたアスティさんの顔がみるみるうちに青ざめた。
「バクアは……うん、ちょっとこの服だと危険かも」
いつもの黒い服を脱ぎ、アスティさんは普段着に着替えた。
つーか、危険って……?
「あそこの人たちは海の神ファゾムを祀っている人が多くて。昔からディナレ教とは仲良くないんですよ」
獣人が嫌いなのではなく、あくまでディナレ教。いや他の宗教とよくケンカしてるみたい。そのファゾム教ってのは。
「アスティさん、大丈夫……?」
バレなければ平気ですとは言ってるけど、ちょっと不安。とにかくディナレ教だと悟られなければ。
だからアスティさんが牧師であるとか、そこら辺は言わないように気をつけなきゃ……ね。
こうして、俺たちは急遽港町バクアを目指すこととなった。
……そこでとんでもない騒動が起きるとは知らずに。