行方
さて……と。失神したロゥリィの口に縄を巻きつけつつジールは状況整理を始めた。
結局、黒幕のことに関しては言わずじまいだった。だがファゾム神はたしかに攻撃的なことはあれど、人に生贄を求めたり殺し合いを仕掛けたりする主義じゃないということは自分がよく知っていた。
「母さんがファゾム神のことよく話してたっけな」ふと、亡き母の思い出が口をつく。
とりあえずこの軟弱男への尋問は一旦おいといて、まずはチビの捜索、それとラッシュたちの行方を調べなければならない。しかし……
「私とマティエだけでなんとかなる……かな」軽く舌打ちが出てしまった。まだ傷も癒えてない自分たちにこの陰謀が阻止できるかどうか……
ロゥリィを尋問している薄暗い小部屋のドアを、コツコツとノックする音が聞こえた。
手じゃなく足の蹄で。二人だけの合言葉代わり……そう、マティエだ。
「どうだった、チビの方は?」
肩で大きく息をしている……相当走り回ってくれたのだろう。
「それが……妙なことになった」
「え……一体!?」
見つからなかった、じゃなく妙。聞くからに最悪の展開かもしれない。と彼女は思った。
「寝巻姿でうろついていたチビを何人かの人が見ていたんだ……ここからさほど遠くない船着き場のあたりで」
「って、まさか……」
「そこからが問題なんだ……チビが何者かにさらわれたのを通りがかりの人が見てたんだが、それが……」
言いにくそうな顔でマティエはカールがかった神をぼりぼりと掻く。
「どうも、エッザールによく似てるっぽいんだ……」
「え?」
ますます謎が深まった。あのトカゲ族の男とは確かまだ一回しか自分は会っていなかった。しかしラッシュのいい戦友だ。自分にはわかる、朴訥なラッシュにはそんなやましい考えを持った人なんて集まらないことを。
だが、なんでまたこんなリオネングから遠く離れた場所で……?
「ほ、他に仲間とかはいたのかな」
「ああ、エッザール似のトカゲ族の女性と、それと人間の大人と子ども。トータル四人……このバクアでは見たことのない、なんとも妙な組み合わせだったって」
そんな組み合わせとなると、やはりエッザールはどこかの黒幕の回し者……いや、そんなことは絶対信じたくない。
きっとファゾム教の連中が先回りしていたのだろう。そうと思っていたほうが。
「マティエはここ以外の宿屋を調べてみて。もしかしたら私達と同じ旅の連中である可能性もあるし」
無言でコクリと首を振り、また彼女は出ていった。
そんな背中を見送りながら、口癖にも似たため息が口から出ていく。
点と点が全く結びつかない。仮にエッザールとかいう男がラッシュの仲間だとしても。だ。
ならもう少しこの男に聞くしかなさそうだな。多少荒っぽい手を使ってでも。
「んんん~! んンんんんん!!」足元で倒れていたロゥリィの目が覚めた。だがその細い鼻先には縄が巻かれている。うかつに大声は出させない。
「さて、もう少しあたしとお付き合い願えるかしら。ただし今度は……」
「ンんん……?」
「答えるも答えないもあなたの自由……だけど覚えといて。ここで指の一本や二本切り落とすことくらい私には造作もない事だから」
「んんんんん!! んんんん〜!!!」
「それともチャームポイントの目? それとも耳がいい? 選択肢はいっぱいあるから、ね?」
そう、嘘っていうのはこういうときにつくものなんだ。