神の祠
古びた小道を進んでいくと、そこには小さな祠と洞窟があった。
身をかがめればどうにか俺でも通れる大きさだ。
「ナウヴェルってやつはこんなとこに住んでんのか?」双子に聞くと、そうだよってあっさり返してきた。
どう見たって人が住めるような場所じゃねえし。罠……なんて思いたくもねえしで。結局俺は一人でこの洞窟へ入ることとした。タージアまでこんな場所行かせたくないしな。
土の肌にはところどころ光る苔が生えていて、人間が入ってもおそらく大丈夫だろう。
しばらく進むと、突然光の差す高い屋根の部屋へと出た。
この前パデイラでチビと飛ばされたあの変な場所をふた回りくらい大きくした感じだろうか……とにかくさほど大きくはない。だが天井はめちゃくちゃ高い。ちょっとした山の中をくり抜いた、そんな感じすらした。
目の前にはチビと同じくらいの大きさの、小さな像がぽつんと置いてあるだけ。
つまり、この像が例の神様……?
「それがバシャニー様の像だよ」
突然背後から予期せぬ声が。驚いてふりむくと、そこには双子とタージアが。
「ずっと前にね、この島にナウヴェルが流れついてきたの」
「その人が最初に教えてくれたのがバシャニー様なんだよ」
二人はそう言うものの、肝心のナウヴェルは一体どこにいるっていうんだ。
「もういないよ。死んじゃった」
「え……死んだ!?」
なんてこった……鎧の人っていうからどんな奴だか知りたかったのに、死んだら何も分からないじゃねえか!
だが双子はナウヴェルから教えてもらった様々なことを俺に伝えてくれた。
流れ着いた時にはもうかなりの年だったという。そしてこの村で介抱してもらった時、この島の神の伝承を聞いた彼は、像として残そうとしたのだと。
そのうちの一つが……俺そっくり、いや俺そのものの姿だったんだ。
「ナウヴェルが大きな戦いに出て死にそうになった時、助けてくれた人がいたんだって。それがバシャニー様って言ってたそうよ」
側に置いてある小さな像を見ると、粗雑な作りだが確かに獣人そのものだ。手足の尖った爪に、ちょこっと伸びた鼻先。さらにはくっきり刻まれた十字の跡!
決定的に違うのは、この像がディナレ特有の引きずるくらい長い僧衣を着ていなかったこと。この像が身につけているのは……革鎧だ。
なんなんだこりゃ……この像、俺と瓜二つじゃねえか。つまりは俺を知ってる何者かが俺らしき獣人をモデルにここで彫ったってことか? いやそんなバカな!
「ラッシュ様……過去にそういったお知り合いはいましたか?」
タージアはそう聞くものの、鎧を着たやつでずっと以前に俺と知り合って、さらには命を助けたなんて、全然記憶にない。つーか俺の人生で人を助けるなんてまったくしたことすらねーぞ。
最初は別にどうでもよかったこと。しかし今はとにかく知りたくなった。
神様以前に、ここには俺の知らない過去を知っている存在がいたということを。
……ここに来て正解だったってことか。