おもてなし診療所 その3
「あれ? なんか小さくなってる?」
ダマリナッセ・ザ・テリブルアも、やっぱそのことにはびっくりしたらしくて、自分の体を見回しながら困惑気味の表情を浮かべていました。
すると、そんなダマリナッセにスアが言いました。
「……魔力は抜いた、よ。そしたら、そうなった」
「え~、まじなのぉ」
スアの言葉に、テリブルアは露骨に嫌そうな表情を浮かべていきました。
とはいえ、これはスアの判断が正解でしょう。
なんせこの世界を滅ぼすとか言って魔力をバンバン使っていたテリブルアですからね。
これぐらいは当然の措置と言えます。
で、幼女な姿になったテリブルアにスアが魔法薬の内容をあれこれ説明していたのですが、
「パパ、ただいま帰りました!」
ちょうどそこにパラナミオが学校から帰ってきて、僕に抱きついてきました。
で、パラナミオはですね、スアの横に立っている幼女なテリブルアを見ると、
「あれ?ママのお友達ですか?」
そう言いました。
うん、まぁ、スアと話をしているわけだからパラナミオがそう思うのも無理はないんですけど、スアと今のテリブルアはパラナミオよりも若干小さいくらいなんですよね……
スアと今のテリブルアが、パラナミオと一緒に学校に行っても違和感ないんじゃないかな、ってつい思ったりしちゃったわけです、はい。
で
パラナミオにですね、
「この人はテリブルアさんだよ。いつもはあの招き猫の中にいるんだ」
そう説明したんですが、するとパラナミオはぱぁっと顔を輝かせました。
「いつもお話をしてくれているお姉さんなのですね! いつもありがとうございます!」
パラナミオは嬉しそうにテリブルアの手をとってそれをブンブン上下に振っています。
「い、いやぁ、それはほら、あ、アタシも楽しませてもらってるしさ」
テリブルアってば、パラナミオに握手してもらえてうれしいみたいでして、なんか照れくさそうな笑顔を返していました。
と、まぁ、そんなこともありながらも、スアの魔法薬の説明も無事一通り終了しました。
ちなみにですね
「テリブルアも魔法使いなら魔法薬とか作れるの?」
そう聞いてみましたら、テリブルアはなんか明後日の方向を見つめながら
「あ、あのさ……ほら、人には得手不得手っていうか、長所短所ってあるじゃない? まぁそういうことなのよ」
そう言いながらどこか乾いた笑いを浮かべ続けていました。
要するに、魔法薬作りは苦手ってことですね、はい。
◇◇
店の方の買い取り作業はエレエが手を回してくれたおかげで、2日ほどで全て完了しました。
店内は、大きく分けて診療室と待合室になっています。
診療室には、問診用のスペースと、横になってもらうためのベッドがあります。
待合室にはソファの他に薬を陳列しておける棚もあります。
テリブルアが、ここから薬を取ったり、患者さんも欲しい薬があればここで手に取れるようになっています。
と、いうわけで、早速僕とスア、それにブリリアンとテリブルアの4人で魔法薬を待合室の棚と診療室の奥にある在庫置き場の棚に並べていきました。
こういうと、なんかみんなですごく大変な作業をしたように見えますけど、実際はですね、スアが魔法で棚の中に魔法薬を綺麗にならべていったので、作業そのものはわずか5分ほどですべて終了してしまったんです。
で、ブリリアンは
「さすがスア様! すごいです!」
って、感動しきりな様子でスアに拍手を送り続けていただけです。
テリブルアは、スアが並べた薬の内容を、スアが作ってくれた説明書きと照らし合わせながら確認をしています。
……と言うわけで、特にすることがなくなってしまった僕はホウキとちりとりを持って店の周辺を念入りに掃除しておきました。
◇◇
翌日、いよいよコンビニおもてなし本店の向かい、ルア工房の隣におもてなし診療所が開店しました。
ここでは、テリブルアが患者さんの話を聞いてから薬を処方というか販売します。
で、場合によってはマッサージをすることも許可しています。
最初は、スアが魔法で監視をすることになっていますが、テリブルアは
「大丈夫だって。アタシだってやるときはやるんだからさ」
そう言って笑っていました。
もちろん、店の方にもいままでどおり薬を置いてはいます。
で、店の入り口と薬売り場に、
「おもてなし診療所オープン」
のミニポスターを貼っておきました。
診療所の前でテリブルアが白衣を着てでっかい注射針をもった姿になっていますが……テリブルアがノリノリでこの格好になったもんですから、僕もついノリでこのポスターを作っちゃったのですが……なんかやらかした感が半端ないです、はい。
とまぁ、ポスターの出来が若干あれでしたけど、こうして始まったおもてなし診療所。
初日は、正直いってあまり人が行っていない感じでした。
で、コンビニおもてなしの方にいつもと同じように、薬の説明を求めるお客さんの列が出来ていました。
ですが、1日、2日……と、日が経つにつれ、徐々にですがおもてなし診療所の客が増え、コンビニおもてなしで薬の説明を求める客の数が減ってきたんです。
で、その日の夜、スアが僕にテリブルアの働きぶりを見せてくれました。
昼間、遠距離監視魔法でテリブルアの様子をスアが見ていた際に、水晶動画記憶装置にそれを記録させた物です。
その中のテリブルアは、患者さん1人1人と楽しそうに話をしていました。
かなり長く話し込んでいるように見えるんですけど、時間的にはそんなに長くはありません。
それだけ、内容濃く話をしつつ、同時進行で薬を準備し、話が終わり次第すぐに薬を手渡してお金をもらっているんです。
で、症状の話だけでなく、時にはたわいもない雑談にまで気さくに応じるもんですから、みんな帰る際には笑顔になっています。
肩凝りがひどいというお婆さんには、その肩を揉んであげて
「あ~、こんだけ凝ってたらかなわなかったでしょう。よく我慢したわねぇ」
そんな言葉までかけてあげています。
「テリブルアって、ホントに頑張ってくれてるね」
僕の言葉に、スアも頷いています。
スアは言葉には出していませんが、ちょっとジェラシーといいますか、そんな表情をその顔に浮かべていました。
と、いいますのも、スアは極度の対人恐怖症です。
魔法使い相手ならそこまでひどくはないですし、最近は自分に「私は対人恐怖症じゃない」っていう暗示魔法をかけるという荒技までやってのけているスアですが、お話をするのが苦手なことに変わりはありません。
僕は、そんなスアの肩を抱き寄せました。
「スアだって、お薬作り頑張ってくれてるじゃないか。いつもありがとう」
僕は、スアにそう言いました。
すると、スアは嬉しそうに笑顔を浮かべてくれまして、そのまま目を閉じてキスのおねだりをしてきたんです。
……で、周囲に誰も居ないのを確認した僕はスアにキスをして……おっと、ここからは黙秘しますよ。
で、翌日からのスアは、魔法薬作りに今まで以上に気合いをいれてのぞんでいます。
その結果……気のせいか、薬品売り場から神々しいオーラが立ち上っているような……そんな錯覚を覚えるほどにすごい物が出来上がりまくっている次第です。
さらに、おもてなし診療所の方も順調に推移していまして、今ではおもてなし本店の中に、薬の説明を聞きたいという人が列になることはなく、
「ちょっと腰が痛くてねぇ……どの薬を買おうかな」
「スア様の薬はどれも効くけど、一度おもてなし診療所で見てもらったらどうだ? あそこなら話を聞いてくれたうえで、今後何を買ったらいいかの説明までしてくれるぞ。頼めばマッサージもしてくれるしな」
そんな会話が店内で聞かれるようになってきています。
こうして、コンビニおもてなしに新たな系列店が誕生した次第です、はい。