13話
夕飯は、朝、冷凍しておいたご飯とキャベツ、ベーコン、ネギ、卵を使って炒飯にして、味噌汁を温め直す。
昨日の分量で作れば、大体3食分になるのは使い勝手が良いかもしれない。
最後に、昨日の夕飯時に残しておいたグレープフルーツの薄皮を剥いて、ハチミツをかけて食べやすくする。
…明日に残そうと我慢したイチゴを、我慢できずに1粒だけつまみ食いしたのはここだけの話だ。
「……」
妖精達の話を聞きながら食事を摂る。
ふと、笑顔で会話に混ざるイトに目を向ける。今朝、レツが植物に関する能力だと判明して、残り判明していないのがイトだけになった。
どんな能力なのかは未だ想像つかないが、不要な能力ということは無いと分かる。そうでなければ、きっと居なかったはずだ。
何かは気になる所だが、楽しみは後へ残しておくことにする。
食事の後片付けを終えて、汗を流す為に湯船にお湯を貯める。
時間を気にしなくていいので、少し長湯でもしようかと思い至る。
「そうだ。このタブレットって…」
長湯をするなら、暇潰しになる物も必要だ。
けれどいま現在、娯楽になるのを所持していない。必然的にタブレットを手に取る。
問題なのは防水機能が付いているかどうか。残念ながらケース等は所持していない。どこかで買えるのか、買い物に行ったときに探す必要が有るかもしれない。
そう考えている間に、お湯を張り終えたアラームが聞こえて来た。
湯を止めよう浴室へ入ろうとした時、タブレットが自動的に手から離れていく。
「え、あ、あれ?」
初めての事に驚いて辺りを見回すと、電気スイッチの隣に、作った覚えのない窪みが出来ており、タブレットはそこにそっと収まった。
それと同時に、『浴室内ディスプレイ表示設定』と表示されている。
つまり、防水機能が付いていないけれど、浴室内に画面を表示させる事は出来るということだろうか。
一先ずお湯を止めてから、改めて表示内容を確認する。
今はOFFになっているが、ONにすれば入浴時に自動で表示させるか、任意にするか変えられるので、手間でもないので任意に設定する。
音声コントロールも出来るが、そちらはOFFにした。
タオルや着替を用意して。それと、長湯すると脱水状態になりかねないので、ボトルに水を入れるのも忘れない。
用意が整ったところで、ディスプレイ表示に切り替えて浴室へ入る。
「さてと、まずは…」
へニョンと垂れてしまった、ようやく慣れてきた頭部に生えるそれ。
この猫耳は、元々は普通の猫だった。ココロと同じタイミングに地球で命を落としたため、ココロの魂を補う為に合体?融合?したものだ。
ココロからしたら猫としての意識は全く無いが、どうやら水嫌いの猫だったようで、お風呂の時はこうして嫌がる素振りを見せる。
いや、お風呂と言うよりシャワーだろうか。最初、シャワーを浴びようと近づけた時に、ビクビクと震えているのが見えた。その後、身体にかけた時には垂れているだけなので、怖がってはいるけど…と言った所か。
つまりは、耳に水がかからなければ大丈夫、なのだろうと思う。
そのため、お風呂へ入るときは頭にタオルを巻いてからになる。頭をキレイに洗い流したい気持ちも無くはないが、洗う方法は1つではない。
一旦身体の汗を流してから湯船に浸かる。
「ふぅー。広々と入れるお風呂は、やっぱり気持ちいいなぁ」
全身を伸ばしながら一息つく。
数分間だけボーッとしてから、ディスプレイを表示る。敷地以外で今表示できるのは、セントラルにあるショッピングモールと、サウスの農業センター、食料品店。
あとは昨日買った本が数冊といったところだ。
大まかな世界情勢については昨日確認しているので、ショッピングモールにどんな店が有るのか、のんびり見ていこうと決める。
けれどその前に、1度湯船から上がり、棚へ手を伸ばす。
手にした物が目的の物か1度確認してから、湯船へ戻った。
『能力保持者用シャンプー』
そう書かれたボトルと、付属のクシ。
これは、昨日寄ったメイクフロアでオススメ商品として表示された物だった。
恐らくはココロ同様、能力保持者の動物耳が水に濡れるのを嫌がり、洗う事が出来ないと声を上げた人がいたのではないかと思う。
シャンプーは少しヘアカラーに似ている。クリーム状で出てきた物を付属のクシに乗せ、髪に馴染ませていくタイプだ。
髪に馴染ませた後、シャンプーは数分後に液状に変わる。
それを今度は、クシの別の側面を使って落とせば良いだけ。
だけ、とは言いつつも、まだこれをやるのは2回目なので、あまり上手くはできない。正直、髪が肩までの長さでよかったと思う。もう少しながければ、手入れも大変だっただろう。それに恐らく、湯船に浸かりながらでは出来ない。
まぁ、以前もしっかり手入れしていた、という訳でも無いから構わないのだけれど。
四苦八苦しながらも時々水分を取りつつシャンプーを終えて、ディスプレイへ目を向ける。ショッピングモールの店舗情報が表示されている。
来店回数はまだ2回。来店した店舗は一部のみ。
気になる店舗や重要そうな店舗があれば『行ってみたい店舗リスト(これ便利!)』に加えていく。
「さてと。そろそろって、結構長く入ったな」
気が付くと、1時間は普通に超えていた。流石に2時間は入り過ぎだと、そうなる前に湯船から上がる。
浴槽を洗う為に湯を抜きながら、もう一度体を洗う。シャンプー液が残っている可能性があるからだ。
支度を整えて髪を軽く乾かし、流さないタイプのトリートメントを付ける。シャンプーと同系統の物だ。
最後に湯船を洗い、浴室乾燥のスイッチを入れてから浴室を後にした。
「おかえりー」
「ココロおかえりー」
「もうねるだけー?」
「ううん、明日の朝ごはんの準備しちゃおうと思って」
ダイニングへ行けば、ココロが出てくるのを待っていた妖精達が集まってくる。
1時間以上何をしていたのか、少し気になる所だ。眠くなったりしなかったのだろうか。
「簡単なものだから、先に寝ても良いんだよ?」
「ううん、みてる!」
「みてるー」
「そう?」
キッチンへ向かえば、周りを飛び回る妖精達。けれど、ココロがなにかする時は前にだけは来ないので、注意する必要がなくて有り難い。頭の上には誰かしら乗ってはいるが。
昼間、サンドイッチに使ったのと同じ食パンを取り出し、昼間とは逆に厚めに切る。さらにそれを半分にカットしてから、フォークを使って両面に穴を開けていく。
それから調理バットに卵と牛乳、砂糖を入れてかき混ぜる。
全体的にかき混ぜたらそこにパンを浸し、使った調理道具を片付ける。その後、パンをひっくり返してラップをしてから冷蔵庫にしまう。これで準備は完了だ。
「よーし、終わり!」
「おわったー」
「おわりー!」
「じゃあソロソロ寝ようか」
「はーい」
戸締まりをしてから全員で寝室へ移動する。
寝室の電気は入り口で操作出来るようになっているので、消したまま部屋に入る。
ベッドまではソラに辺りを照らして貰い、ベッドに入った所で消してもらう。
妖精達が各々お気に入りの場所で寝る準備に入ったのを確認してから、ココロは眠りの世界に入っていった。