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第1話:不遇だった日々

「ハルク、お前のような使えないクズは、国外追放じゃ!」

 ある日、いきなり国王から、ボクは国外追放を命じられた。

「ど、どうしてですか、陛下? 今まで一生懸命、やってきたじゃないですか?」

「はぁ? 何が『一生懸命やってきた』じゃ⁉ 確かに以前は役立った。だが最近のキサマの作る武具は、まるで役立たずではないか!」

「あっ……それは……」

 国王が指摘してきたことは、間違いではない。
 ここ一年くらいボクの作った武器は、すべて能力が低くなっていた。

 武器はちゃんと真面目に作っている。
 でも完成しても肝心の性能が高くないのだ。

「ふん! それみたことか!」

「で、でも、でも陛下。それでしたら、人殺しの武器ではなく、国の役に立つ道具を、ボクは作らせてください! それなら自信があります!」

 ここだけの話、人殺しの武器を作るのが、ボクは好きではない。
 でも、それ以外の道具作りは大好き。必ず上手く作れるのだ。

「はぁ? 何を、戯れ言をいっておるのじゃ? 人殺しの武器を作れない鍛冶師など、誰が雇うか⁉ 今すぐ国外追放してやる!」

「えっ、今すぐですか⁉ でも城の地下のミスリル鉱脈には、まだ掘りかけの場所があります」

 この城の地下深くには、広大なミスリル鉱脈が広がっていた。
 ボクが十年前に偶然に発見したもの。

 当時の王様……今王様の父上に許してもらい、一人で採掘させてもってきた。
 見返りはミスリス製の道具を、王様に献上すること。

 だが息子の代に……今の王様の代になってから、事態が急変。
 野望高い現王様は、戦争の武具ばかり作るように、ボクに命令をしてきた。

 だから最近は嫌々ミスリル武具を作ってきた。
 でも、やる気が起きずに、今日に至るのだ。

「正直なところ、ミスリルがある最深部は危険です。だからボクがもう一度、処理をしてこないと危険です、王様」

 ミスリス原石の最深部は、本当に危険な場所。
 封じ込めておかない“連中”も潜んでいる。

 だから、こんな急に追放されたら、王国に危険が及ぶかもしれないのだ。

「ふん! そんなモノは他の者でも、どうにでもなるじゃろ! ミスリル原石さえあれば、ワシは地上の覇者にでもなれるのじゃ! ほら、早く立ち去らなければ、今すぐ死刑にしてやるぞ!」

「し、死刑⁉ はい、分かりました」

 さすがに死刑はまずい。ボクはしぶしぶ従うことにした。
 地下鉱脈への入り口の自室で、荷物をまとめる。
 ここは十年間、一人で暮らしてきた我が家だ。

「ふう……鉱脈さん、鉱石さんたち、ボクは追放されたので、もう一緒に遊べなくなりました。寂しくなると思うけど、後任の鍛冶師の人とも仲良くしてあげてね」

 地面に手を置く。長年の友達たちに、最後の挨拶していく。

 ふわぁーーん

 “みんな”寂しそうにボクを見送ってくる。
 とても気がひける。

 でも、ここには残れない。
 早く行かないと、本当に死刑になってしまうだ。

「どうして……この国は、こうなっちゃったのかな……」

 先代の王様は本当に優しく、慈愛に満ちた人だった。
 でも今の王様は真逆。
 多くのミスリス武具を手に入れて、軍事国家として独裁体制を敷くようになっていたのだ。

「おい、早くしろ! 鍛冶師風情が!」
「早く、この城から出ていけ! お前がようやく居なくなると思うと、せいせいするぜ!」

 衛兵たちに槍先で、部屋から追い立てられる。
 一介の鍛冶師なボクが城で仕事しているのを、嫌がる兵士と騎士の人が最近は増えてきた。

 先代の王様とボクの信頼関係を知らない人たちだ。
 偶然、ミスリス鉱脈を見つけて、王様のお抱え鍛冶師になったボクの存在。
 快く思わない城の人が多いのだ。

 そんな衛兵たちに脅されながら、城の中を進んでいく。

「おい、これに乗れ!」

「えっ……でも、これは護送車じゃ?」

「お前には、お似合いだよ! この鍛冶師風情が!」

「……はい」

 このままでは殺気だった衛兵に、殺されてしまう。
 仕方ないので護送車に乗り込む。

 うっ……乗り心地が悪いな。
 椅子も何も無い、荷台の鉄の檻だ。

「最後の情けだ。それじゃ、国境まで送ってやるぜ、鉄クソ野郎」

 そのまま護送車は出発していく。
 国境までの乗り心地は、予想以上に最悪だった。

 しかも道中でも、ろくに食事も与えられなかった。
 ボクで固いパンを、水で流し込む。

 一方で憲兵たちは酒を飲みながら、美味そうな肉にかぶりついている。
 本当に辛い道中だった。

 ◇

「さぁ、着いたぞ。早く降りろ、鉄クソ野郎が!」

「はい。えっ、でも、何もない場所ですよ、ここは?」

 強制的に降ろされたのは、周囲に何もない荒野。
 街道が伸びているだけで、人里も宿場町もない。

「はぁ? 何を言っているんだ。ここまで連れてきてもらっただけで、もありがたく思うんだな! けっ!」

 今の王様が独裁的になってから、王国の兵士の質も下がってしまった。
 侵略戦争と激務で、昔の良い人たちが居なくなった。
 今はこんな傭兵崩れしかいないのだ。

「あとは、これは陛下からの温情金だ。ほらよ」

「えっ……でも、そっちの袋は?」

 王家の印が描かれた袋を、衛兵は自分の懐に入れていた。
 ボクに渡してきたのは、少額の貨幣だけ。
 明らかにネコババしていたのだ。

「はっ! こいつは運賃だ! じゃあな!」
「あと、王国内には二度と足を踏み入れるよな! お前の顔を見かけたら、突き刺してやるからな!」

「あと教えておいてやる。この先に進んだら、ハーメルンの街があるぞ!
「だが徒歩だと、何日もかかるがな!」
「「はっはっは……!」」

 そう言い残して、衛兵たちは立ち去っていく。
 この金で女を買いに行こうぜ、と笑い声が聞こえてきた。

「ふう……十年間、一日も休まずに働いてきて、退職金がたったこれだけか……」

 手元に残った貨幣を見つめて、何とも言えない虚無感に襲われる。

「でも、後悔しても仕方がない。生きていくために、次に進もう。さて隣りの国は街道の先か。次は良い国だといいな」

 こうしてボクは王国を追放されてしまう。

 心機一転、隣国の小さな都市国家を目指すのであった。

 ◇

 ――――だが追放した王国の者たちは、知らなかった。

 このハルクは実は地上で、ただ一人《鍛冶女神の加護》を有することを。

 彼が真心込めて作り出す道具と武具は、地味だが全て《超伝説級》に仕上がる秘密を。

 そしてハルクの作って残してきた、王国のミスリル武具。
 彼がいなくなると加護が解けて、二束三文の鉄くずに腐敗していく事実を。

 あと王城の地下のミスリル鉱脈も、ハルク以外には手を付けられない。
 むしろ、これから手を出して、王国が大変なことになる未来を。

 何も知らずにハルクを追放した独裁王国は、これから一気に衰退していくのであった。

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