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【ガリーナとティアの出会い】

【ガリーナとティアの出会い】

 ガリーナの周りにいた軍人達が、途端に立ち上がり、敬礼をする。


「これは――セプティミア様!」



 チンが驚きの声をあげるが、名前を呼ばれたティアはずかずかと部屋に入り、大きく鼻を鳴らす。



「セ、セプティミア、様?」



 ガリーナは驚き、自分のことをしげしげと興味深そうに見つめてくる。



(これが、セプティミア・バーン様)



 地球人の血を濃く受け継ぐ、宇宙を開拓した科学者の末裔だ。ノホァト教の生き神を前にして、ガリーナは緊張で身体が強張らせる。

 しかし目の前の彼女は、自分よりも年下の、可愛らしい女性にしか見えはしなかった。



(可愛い人···!)



 彼女は興味深そうな顔でガリーナを見つめていたが、「ん!?」と目を怪訝に細め、顔を顰める。



「どうして髪がこんなことになっているわけ?傷もあるじゃない!無傷で捕獲してきなさいよ!!」



 唾を飛ばす勢いで、ティアはフィトとシャワナに向かって怒鳴る。その口調からは、彼女の高慢さがにじみ出ていた。



「大変申し訳ございません、セプティミア様」



 フィトとシャワナは、深々と頭を下げる。2人の態度はいやに低姿勢で、ティアを軍の主人として見ていることがわかる。



「帰ってくる前に、髪を整えなきゃダメね」



 ティアはガリーナの髪に触れる。しげしげと荒っぽい髪の切り口を見て、嘆いているようだった。



(帰ってくる前?誰が?)



 ガリーナは疑問を感じるが、ティアに質問をすることをできない。彼女の後ろでフィトが自分を睨んでいた。質問をすることなど許さないと言わんばかりの空気を感じ取り、ガリーナはティアの好きなようにさせるしかない。



「セプティミア様、彼女をどこに隔離しておきますか?」

「ああ、ティアの部屋に連れて行くわ」



 ティアは上機嫌そうに、晴れやかに言った。



「それで、クォデネンツは?見せて頂戴よ、アクマの剣!」



 うきうきとした口調だった。クォデネンツを手に入れろと言ったのは、彼女だった。晴れやかに言う彼女の瞳はきらきらとしていて、ガリーナは不思議に思う。



(どうして、そんな嬉しそうなんだろ?)



 アクマの剣など、不吉ではないだろうか。

 物珍しさから、ティアはクォデネンツを早く見せろとわくわくしているのだろうか?



「こちらに」



 フィトは、先程ガリーナが差し出したラルをティアに渡した。指輪型のラルを、ティアは奪うようにして手に取り、操作する。



「長年行方不明だったクォデネンツ···!アクマ、リーシャの剣!」



 ティアは嬉々としてラルを操作しーーー。



「···ん?」



 と、首を傾げた。ぴくりと彼女の眉が吊り上がる。



「クォデネンツ、ないわよ?」

「···そのようなはずは、ありません」



 フィトが、ティアの持っているラルを恭しく手に取る。彼は真顔で、ラルを操作する。彼は無言で操作していたが、段々と顔に焦りが滲み出ていくのが見て取れた。



「何故、ないの?」



 ティアは、顔をしかめていた。低くなる声音は、彼女が気分を害していることがわかる。



「ティアは、クォデネンツが手に入ったと報告を受けたのよ?」

「···ないはずが、ないのです」

「でも、ないわ」



 予想していたが、ついに軍人たちの視線が、ガリーナに集まった。ガリーナは瞳を揺らさず、真顔で答えることにした。



「当然よ。そのラルは、私のラルなんだもの」



 レイフのラルではない。

 今フィトが握っているのは、ガリーナがずっと身につけていたものだ。

 レイフのラルは指から引き抜いたが、砂漠に落としてきた。



「クォデネンツを、あなた達に渡す義理はないわ。あれは私の父が預かっていたものだもの」





(お父さんが何故クォデネンツを持っていたかはわからない。でも、お父さんはあれをずっとアシスから隠していた。アシスに渡して良いものじゃない)



 ガリーナはクォデネンツに、なんの思い入れもない。しかし長年行方不明だったクォデネンツを、父が隠し持っていたのだ。簡単に渡していいはずがない。



 レイフの命よりも重い理由かと言われたら、それは否ではある。だが、やすやすとクォデネンツをアシスに渡す道理もない。



 ガリーナはわざと自分のラルをフィトに差し出した。彼が騙されるか賭けではあったが、あの場でフィトは上手く騙されてくれた。



「···君は結局、アクマの娘なのか。小賢しい真似をして」



 フィトの声が、一段と低かった。びくりとガリーナは肩を跳ねさせる。怒ったフィトの隣にいたシャワナも、さすがに苦笑している。



 ぱしり、とガリーナの頬に電流が走る。小さな痛みではあったが、フィトが行ったことだと、すぐにわかった。





「役立たず···っ!!」





 しかし、そんなフィトに向かって、ティアが突然激昂した。可愛い顔が台無しで、彼女はフィトからガリーナのラルを奪うと、それを彼に向けて叩きつけたのだ。指輪型のラルは、彼の頬に当たると、床に弾き飛ばされる。



「クォデネンツを手に入れたと言ったのは、あんたよ!?地球のマグマに落とされたいの!?役立たず!役立たず!役立たず!」



 彼女の怒鳴り声は甲高く、ゴーモの中に響き渡る。フィトを含めた軍人達は床にしゃがみこみ、深々と頭を下げた。シャワナですら慌てており、顔を青白くしている。



「大変申し訳ございません!!セプティミア様!すぐに惑星ニューカルーに戻って···っ!」

「お前らはもういいわっ!!ティアはもう何も期待してないもの!後でバルメイドでも行かせるから!!」

「そんな···そんなことを総長にお任せする訳には···っ」

「そんなこと?そんなこともできないアシス軍人なんか、ティアはいらないわっ!!」



 ーーーテゾーロとは、皆こんなに傲慢なのだろうか。それとも軍人の世界では、これが普通なのか?ガリーナはティアの激昂に圧倒され、息を呑むしかない。

 しかもティアは続けて、フィトの頬を平手打ちする。



「ガリーナに攻撃なんかするんじゃないわよ!!しかも顔!!価値が失せるじゃないのよ!!」

「···失礼いたしました、セプティミア様」



 フィトは頭をより下げるが、釈然としていない様子だった。



(なに···なんなの、この子)



 ガリーナは呆然とし、ティアの背中を見つめた。



(価値が失せる?私の顔の価値?)  



 ティアが何を言っているか、わからない。



「ガリーナ!」

「は、はい!」



 突然名を叫ばれ、ガリーナは慌てて返事をする。ティアはくるりと振り返り、自分の手をぐいっと引っ張った。


「行くわよ!!話がしたいわっ!!」

「え」


 セプティミア様、とチンが弱々しく声を上げる。


「セプティミア様、我々も同席を···」

「役立たずは必要ないわ!ガリーナと2人きりで話すわよっ!」


 ティアは自分を強引に引っ張り、ゴーモから出す。彼女の強引さに戸惑いを感じながら、ガリーナは彼女についていくしかなかった。

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