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第十話 勇者の帰還


 ユウキたちは、レナート王国の各地を回る者と、ユウキと一緒に地球に行って、スキルの検証を行う者に分かれた。

 皆も、スキルの検証には前向きだ。地球とレナートで連絡が取れる可能性が出てきたからだ。
 特に、残留組が積極的だ。偶然なのか、スキルの構成が残留組と帰還組に分散している。ユウキが帰還組なのを、残留組が気にしている(主にサトシ対策として・・・)。セシリアとマイからも、ユウキとの連絡方法の確立だけはお願いされていた。

 地球とフィファーナとのスキルを使った連絡は出来なかった。
 アリスが認識できる魔力の繋がりも、”繋がっている”だけを認識できるだけど、意思を伝えたり、意思を受け取ったり、連絡は出来なかった。

「ユウキ。どうする?」

「あ?あぁそうだな。サトシも何か考えてくれよ」

「俺が?そういうのを苦手なのは知っているだろう?」

「知っているが、サトシ。お前は、セシリアと結婚して、”国王”になる。苦手だから、”考えない”では、誰もお前に相談しなくなるぞ?」

「・・・。ユウキ?」

「俺か?俺は、地球での用事が終わったら、戻ってくる。でも、その後は、まだ決めていない」

「え?」

「この世界を回ってもいいだろうな。行っていない場所も多いからな」

「・・・」

「今は、無理でもいい。でも、でもな!サトシ。諦めるな。間違っても、大丈夫だ。マイも居る。セシリアも居る。今なら、陛下もボケるまでには時間がある。今のうちに学んでおけ」

「あぁ・・・。わかった」

 サトシが考え始めたが、ユウキは、サトシが何かを言い出す前に、マイを手招きしてサトシを頼んだ。

「セシリア」

「はい。ユウキ様」

「どうやら、念話を使った連絡は難しそうだ。即時の連絡は無理だと考えてくれ」

「はい。残念です」

 セシリアは、少しだけだが検証がうまく行って、何かしらの方法で、”念話”が繋がることを期待していた。

「そこで、取り決めをしておきたい」

「取り決め?」

「あぁ地球も、フィファーナと同じで、7日で一括になっている。フィファーナで言う。光の日が、日曜日と呼ばれている」

「はい?」

「その日曜日の、午前中・・・。レナートだと、2つ目の鐘が鳴った、後に魔法陣の中に有るものを受け取る。俺たち(帰還組)から、何か有るときにも、同じように転移する」

「よろしいのですか?」

「あぁ今の所、それしか方法が無いからな。帰還組同士なら、念話が使えるし、転移もできる。連絡は取れる。レナート側からの緊急対応が無理なのは、諦めてくれ、7日間隔で連絡が取れるようにはする。そのときに、緊急性が有るようなら、俺を呼び出してくれ」

「わかりました。ありがとうございます。十分です」

 セシリアとしは、十分な間隔だ。サトシたち(残留組)が居る状態で、7日間も持ちこたえられない状況は考えにくい。それに、将軍たちも鍛錬を繰り返している。相手が、魔王や勇者たちでなければ負けない。

 ユウキたちは、陛下や将軍と詳細な取り決めを行った。結果、ユウキの提案をブラッシュアップしたか形で落ち着いた。

 そして、検証の結果、面白いことがいくつか判明した。セシリアが抱きかかえている”猫”だ。将軍が連れているのは、”犬”だ。

「ユウキ様。猫という動物は、地球は沢山いるのですか?」

「あぁ犬も猫も・・・」

 フィファーナには、ファンタジー世界では定番の獣人族は存在しない。亜人族として、魔物や動物の因子を取り込んだ種族は存在するが、ファンタジー世界でよく居るような猫人族や犬人族は存在しない。

 検証の過程で、フィファーナの魔物を地球に連れて行った。結果は、地球でも生きられた。それ以上の検証はしていない。
 地球から、野良猫を連れて帰ってきたら、魔物化してしまった。同様に、野良犬も魔物化したが、元々の性質が穏やかなのか、テイマーのスキルを持っていない者でも、テイムしたのと同じような状況になった。
 それで、猫はセシリアが、犬は将軍がテイム状態にして、飼うことになった。マイやサトシの残留組もペット枠として猫や犬だけではなく、他の動物を地球から連れてくることを望んだ。すぐには出来ないが、確保して送ることに決まった。
 魔物化の影響がはっきりとしない為に、大量に確保して置くのは”止めておこう”と決められた。地球での基盤が出来たら、ユウキが日本の保護猫や保護犬をレナートに送る道筋を作るつもりで居る。殺処分されるのなら、レナートで第二の人生を歩ませたいと考えているのだ。

「ユウキ。それで、”いつ”旅立つ?」

「予定では、3日後です」

「そうか、送別会は開かないぞ?」

「長めの旅行に行くだけです。帰ってきます。ここは、俺たちの”家”です」

「ユウキ様。残留される人たちも、一度、行かれるのですよね?」

「はい。向こうでの、デモンストレーションが終わったら、帰ってきます」

「わかりました。予定では、1ヶ月くらいと聞きましたが?」

「そうですね。10日程度は、各地を転々とする予定です。その後、各国で、異世界の話をするつもりです」

「わかりました」

「その間、ユウキ様が、毎日のように戻られるのですよね?」

「そのつもりです。向こうの夜の時間に、こちらに来ます。どの程度の時間かわかりませんが、こちらには10分か15分程度の滞在になると考えてください」

「十分です」

「ユウキ!」

「はい。陛下?」

「・・・。いや、なんでもない。気をつけて行って来い」

「もちろんです。怪我や病気の時には、レナートに戻ってきます」

「ん?そうなのか?」

「はい。皆と話したのですが、俺たちが持つ、スキルの中で問題になりそうなのが、アイテムボックスとヒール系と転移のスキルです」

「そう言っていたな。確かに、転移は珍しいが、防ぐ方法が・・・。そうか、お主たちの故郷にはスキルがなかったのだ」

「はい。防ぐ方法を提供しても、俺たちが疑われるのは間違いありません」

「そうだな。アイテムボックスやヒール系のスキルも代替えが無いのか?」

「スキルの代替えができるのは、念話くらいです。他は、ほぼ無いと考えてください」

「そうか・・・」

 ユウキたちが心配したスキルは、それだけではないが、アイテムボックスは、”袋の内容量が大きくなる”と偽装することにして、ヒール系は”隠匿”することになった。転移も、”決められた場所”以外には行けないと偽装することにした。
 フィファーナにつれていくことも可能だが、300人以上の者たちを、召喚して、生き残ったのは”29名”だと宣言する。
 事実としては間違っているのだが、転移の成功する可能性が10%で、こちらに帰ってきて、生き残れるとも限らないと錯覚させることに決まった。

 29名で、地球に帰るが、その後で14名はレナート王国に帰る。
 この”帰る”行為を、地球の(権力者)たちに、”死んだ”と錯覚させるのだ。

 これらの道筋が考えられたのだが、権力者たちの出方が正直な所、わからない。ユウキたちが、地球に居た時間よりも、フィファーナで過ごした時間は濃密過ぎて、フィファーナの権力者の考えに染まりすぎていた。

「はい。わからないことが多いので、臨機応変と言えば聞こえはいいのですが・・・」

「ユウキたちなら、大丈夫だろう。儂たちも相談に乗ろう。権力者の考えは、儂たちの方が理解できる可能性がある」

「ありがとうございます。少しだけ不安ですが、宰相や王妃様もいらっしゃいますし、頼らせていただきます」

 ユウキたちは、袋から物を取り出す訓練やスキルをわかりにくくする訓練をしながら、出発に備えた。

 そして、今日の昼にユウキたち29名は、地球に帰還する。

 一度に転移すると、ユウキに負担がかかるので、効率がいい3名での転移を14回行うことになっている。

 最初は、ヒナとレイヤとユウキだ。そして・・・。

「セシリア。行ってくる」

「サトシ様。行ってらっしゃい。レナートは大丈夫です。ご安心ください」

「セシリア。行ってくるね。お土産を楽しみにしていてね!」

「はい。マイ様。お話に聞いている、甘味を楽しみにしています!それから、この()のおやつもお願いします」

「わかっている。将軍の()のおもちゃやペット用品も買ってくるよ!」

「はい!お願いします」

「いくぞ!」

 ユウキが、二人に声をかける。

「ユウキ。少しだけ待ってくれ」

「どうした、何か忘れ物か?」

 サトシが、魔法陣の外側に居るセシリアに近づいて、抱きしめた。耳元で、何かを呟いている。サトシが決めたことではなく、マイがして欲しいと思ったことを、サトシにやらせた結果だが、セシリアは喜んでいるので、間違ってはいない。

「ユウキ。ありがとう。陛下。セシリア。行ってくる!」

 ユウキがスキルを発動する。
 魔法陣の光が激しく明滅しだす。外側で、セシリアと国王が何やら言っているが、ユウキたちには聞こえない。

 光が消えるまで、セシリアと国王は、ユウキたちが立っていた場所を見つめていた。

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