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第九話 帰還の為に


 残留組が地球で行った検証結果を聞いて、帰還組もスキルの検証を行ってから、今後の作戦を考えることになった。
 特に、アリスのスキルは、フィファーナの防衛に関わってくる部分だ。

 まずは、アリスとエリクをだけを連れて、地球に行くことになった。
 3人だけなら、すぐに戻ってこられると考えたからだ。残留組で、港に転移できる者が、アリスの眷属を見守る。

 アリスが、地球に戻ったことで、解除されないか調べるためだ。

「アリス。エリク。準備はいいか?」

 二人は、自動調整が付与された服に着替えた。サトシの話を聞いて、必須だと考えたのだ。

「それじゃ、頼むな」「よろしくね!」

「任せろ!”いざ”となったら、俺が止める」

「サトシ!僕の可愛い子たちを殺さないでよ!マイ。お願いね」

「解っているよ。アリス。先に、命令を出しておいてくれると嬉しいかな」

「どんな命令?」

「沖にある島に移動させておいて、そうしたら、港への被害は軽減できるでしょ?」

「そうだね・・・。出した。指示に従って、移動を開始したよ。転移の許可も出したから、すぐに移動できると思う」

「わかった。ありがとう」

「ユウキ。もう大丈夫!」

 マイと話をしていた、アリスがエリクとユウキの所に戻ってきた。

「すぐに戻ってくる。待っていてくれ」

 ユウキが、スキルを発動する。
 14人ではなく、2人だけなので、魔力の消費は少ないと考えていた。

 魔法陣の光が収まったフィファーナは緊張に包まれていた。

「アリスの眷属は!」

 サトシの言葉で、確認が行われたが、港に向かう者。沖の小島に向かう者が一斉に行動を開始した。

『確認してくる!』

 ユウキがいたら、解っていたのなら、”先に動けよ”とツッコミを入れる所だが、皆が動き出したのを見て、サトシは安堵の表情を浮かべた。セシリアは、そんなサトシを見ているだけだ。注意しなくても、周りがサポートを行えばよいと考えている。

 ユウキは、すぐに戻ってくると言っていたが、すぐには戻ってこない。
 魔法陣の光が消えた場所を、サトシとセシリアは見つめていた。

 1分後に、確認に行っていた皆が戻ってきた。

「港は、なんの問題もなかった。フェンリルが居たけど、おとなしい状態で、紋は消えていなかった。俺のことも覚えていた」

「小島も問題はなかった」

 問題はないという報告を聞いて、セシリアがホッとした表情を浮かべた。
 テイムのスキルは、テイムした者が死んだ場合に、紋が消えて眷属状態が解消される。

 ”死”は解るのだが、”転移”それも地球に移動してしまって、魔力的な繋がりが維持できるのかわからなかった。ユウキの検証や、残留組の検証でも、”念話”のスキルが繋がらないのは確認されている。
 ユウキたちは、”念話”が繋がらない理由を、魔力の繋がりが途絶えたからだと考えたのだ。

 テイムも、魔力的な繋がりを基礎として、眷属と繋がりを持つ。
 今回の検証で、もっとも大事な検証だと言っても良かった。そして、検証の結果によっては、根本部分の練り直しが必要になってしまう所だった。

 報告が集まった時に、庭に魔法陣が現れた。
 ユウキたちが帰ってきたのだ。

「マイ!」

 魔法陣の光が消えて、アリスがマイに駆け寄った。サトシではなく、マイがまとめていると思ったからだ。

「大丈夫だよ。アリスの友達は、皆、いい子にしていたわよ」

「よかった・・・」

「それで、アリス。地球でも、繋がりは保てたの?」

「うん。でも、いつも見たいに、意思が感じられるとは違って、繋がりを認識できるって感じだった。でも・・・」

「でも?」

「なんか、途中で強く感じられる時が有ったの・・・。だから、ユウキとエリクに言って、帰ってくるのを少しだけ待ってもらった」

「それで?」

「うん。慌てている感じだけが解った。けど、すぐに落ち着いて、繋がりが強くなった」

「そう・・・。ユウキ?」

 ユウキは、アリスが繋がりを維持出来た理由を考えていたのだが、繋がりを維持しているが、指示が投げられなかった。アリスに状況を聞きながら、地球で試してみたが、状況は改善しなかったが、帰ろうと思った瞬間に繋がりが強くなったと報告があった。
 理由は不明なのだが、アリスの眷属の下に、仲間たちが駆けつけたことが原因だと考えられる。暴走しなかったことで、”よかった”と手放しで喜べる状況ではない。

「マイ。眷属たちの様子は?」

「何も?いつもどおりだったらしいよ?」

「そうか、マイ。悪いけど、アリスを連れて、眷属を回ってもらえるか?」

「わかった。アリス。行こう!」

 マイに連れられて、アリスが転移していった。

「ユウキ?」

「あぁすまん。エリク。エリクに聞きたいことがあった」

「なんだ?」

 横から見ているセシリアは少しだけ不謹慎にも笑ってしまいそうになるのをこらえていた。
 7-8歳ほど年上だった者たちが、大人だった時の口調で”子供の姿”になった今でも難しい話や、真面目な話をしている。不思議な感覚になっている。今までは、大人たちが難しい顔をして話し込んでいた。そのために、輪に入るのを躊躇っていた。勇者の称号を持っていなくても、大人たちの会話に幼い自分が入っていいのかわからなかった。サトシやマイだけなく、ユウキも気にしないから、”意見が有るのなら話して欲しい”と言ってくれた。戸惑いながらも、会議に参加していた。
 しかし、今のユウキたちは自分と同世代の姿をしている。真面目な表情で、前と同じような話しをしていても、どこか背伸びをしている雰囲気が漂ってくる。

「どうした?セシリア?何かあるのか?」

「え?なんでもありません。ユウキ様。実際に、旅立つのは?」

「そうだな。予定と作戦を少しだけ変更したい」

「え?」

向こう(地球)こちら(フィファーナ)でスキルに違いが有りそうで、しっかりと検証をした方が良さそうだ。それに、一度、皆で戻った方が、インパクトが大きそうだ」

「・・・」

「そうなると・・・。あぁ心配しなくていい。帰還組は、長くても10日くらいだろう」

「わかりました。連絡が出来ないのが辛いですね」

「そうだな。今後のこともあるから、連絡の方法は何か考えたいのも、皆で地球に行く理由でもある」

「え?方法がありそうなのですか?」

「わからないけど、アリスの眷属が魔力の繋がりが切れなかったから、なにか方法があると思っている」

「そうなのですか・・・。出来たら、すごく嬉しいですね」

「そうだな。俺たちも安心できる。今度は、俺が毎日・・・。帰ってこようと思っている」

「ユウキ様の負担では?」

「大丈夫だと思う。それに、皆も、こちらの情報が欲しいと言い出すだろう」

「そうだと・・・。嬉しいです」

「セシリア。俺たちは、レナートを故郷だと思っている。それに、父や母になる人たちも居る。それこそ、大切な人も居るのだぞ?」

「え?あっ・・・。ありがとうございます」

「よし。セシリア。サトシが騒ぎ出す前に戻るぞ。これからのことを考える必要がある」

「はい!ユウキ様」

 先を歩いているユウキの後ろを、セシリアは背中を見ながらついていく、初めてユウキたちに会った時には、セシリアはユウキたちが怖かった。
 漠然とした恐怖を感じていた。流れ着いたユウキたちを、国王や将軍は歓迎した。しかし、一部の連合国に買収されていた貴族たちが、ユウキたちを売って連合国に取り入ろうとした。そのために、ユウキたちは気の休まる時間がなかった。

 ”ここ”でも同じなのかと、ユウキたちは、半ば諦めていた。
 しかし、国王や将軍や国王派の貴族たちが、ユウキたちを守る動きをした。ユウキたちは、守られることに慣れていなかった。しかし、守られていることが解ると、今度は国王や将軍に協力する形で、連合国派閥の貴族を駆逐し始めた。
 穏やかな空気が流れるようになったレナート王国で、初めてセシリアはユウキたちが同じ人間だと認識した。友を無くして、涙を流す。怪我を追った仲間を治すために、情報を集める。家族を失った民衆と共に、涙を流す。
 そして、沈んだ皆を鼓舞するサトシに惹かれた。サトシが、セシリアに最初に優しい声をかけたからという単純な理由だったのだが、王女として育ったセシリアには、自分から見て大人のサトシが、自分に向って”タメ口”で話しかけてくれたのは、惚れるには十分な理由だった。

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