服装について考えてみる
ハードゥスはそれなりに平和である。
生存権を巡る争いや、喰うか喰われるかの自然の戦いはあるものの、概ね平和である。少し前まで大規模な戦争がそこかしこで起こっていたとは思えないほどに平和であった。
もっとも、だからといって戦争が無くなったわけではない。現在進行形で同種族間での戦時下の地域もあれば、人と魔物の国のような異種族間で戦争が勃発している地域もある。
それでも全体で言えばそれらは狭い範囲で、れいのように俯瞰して観れば平和なものであった。
かといって退屈かと言えばそうではない。そこに生きる者達にとっては日々の生活で忙しく、れいにとっては新しい発見をする者達によって適度に楽しませてもらっている。
直近で言えば、本や魔法道具だろうか。外の世界の情報を得られるれいではあるが、それと自分の管理する世界での発展は別だ。例えとある世界では原始的な発明でも、それがハードゥスにとって新しい発見であれば、それを知っていてもれいは十分に楽しめるだろう。
そうした発見が表に出ることが増え、また流通するようになったのが平和の証とも言えるというものだ。
さて、新しいモノの中にはファッションも含まれる。それなりに頻繁に流行りの色やら形やらが変わるものだが、平和な昨今、そちらに力を注ぐ者達も順調に増えていた。
そうなると被服業界が活性化していき、布地や染料に糸などのそれらの素材だけではなく、服に合わせる小物類など多方面に活気が拡がっていく。
そうした賑わいを眺めていたれいは、ふと自身の服装に視線を向けた。現在れいが着ている服装は、元本体のれいが配下の管理補佐に選んでもらった服を基に再現した服である。
これは分身体全てが同じ服装なのだが、ハードゥスのれいはそこから独立した存在なので、そろそろ服装を変えてみてもいいかもしれないと考えた。
「………………折角ですから、自分が創造した世界で作られた服装にしてもいいかもしれませんね」
そう考えたものの、れいにとって服とは着られればそれでいい物である。用を成せば似合ってるかどうかなど興味が無いので、そのまま自身で選んでもろくな結果にならないだろうと、れい自身しっかりと理解しているので、誰かに頼むことにした。
「………………とはいえ、誰に頼めばいいのやら」
元本体のれいに倣って管理補佐から選ぶにしても、誰がいいものか。それについて思案していたれいの許を丁度訪ねてきたのは、各地からの供物を運んできたエイビスであった。
それを見たれいは、試しに聞いてみるのもいいかと軽い気持ちで先程の自身の考えをエイビスに話してみる。その結果、元本体のれいに負けず劣らずの着せ替え人形にさせられたのは、ある意味必然だったのかもしれない。