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新魔王爆誕

 ミズハズニッズを蹴り出したらしい脚が一旦器の中に引っ込むと、スーツ姿の男性が腹から顔を出して怒鳴る。見目の良さと格好とが相まって、見る人間が見たらこう思うだろう。ホストかよ!? と。そう思わない、又は喪女さん達の世界を知らない女子達は……少し頬を赤らめていた。その中の一部は、もう思い人だって居るというのに……。

「人様の身体ん中で所有権主張してんじゃねえぞクソガキがァッ!」

「「はぁああぁっっ!? 誰!? お前!?」」

 その光景に魔族二人が思わず叫び、ノーコンとナビの魔族二人は顔を背け、肩を震わせ笑いを耐えていた。

「ああっ!? 新しい魔王様だろうが!!」

 魔王の器から顔を覗かせている人物……宮ノ森陸景ことりっくんが吠える!

「ふざけるな! よく見ればお前! 人間ではないか!」

「ああ!? てめえらもそうだろうが!!」

「我々魔族を人間如き下等生物と同列にするでないわ!!」

「一緒だろうが!! ちいっと力を持ったぐらいででけえ顔してんじゃねえぞボンクラ共が!! テメエ等の中の奴等とナシ付けてる間に、テメエ等本位の歴史の講釈は散々っぱら垂れられてんだよ!! こんのクソ共が!!」

「ぶふっ」「ちょ、おま……ぶふっ」

「ああ!? ……おい、ノーコン、ナビ、何で外に出てる? 魂に縫い止められてんじゃねえのか?」

「あ、いやぁそっちは問題ないんだけど……ちょっと入り組んだ話がありまして……」

「ねぇ、それより可憐ちゃん、死に掛けてるんだけど?」

「……あ゛あ゛あ゛!?」

「「………………っ!?」」

 りっくんの気迫に魔族達の腰が思わず引ける。あいつ、本当に人間か? と。そして死にかけのフローレンシアの姿を確認したりっくんは、すぽんっと魔王の中に戻ると、

「「 !? 」」

 フローレンシアの側に転移した。

「(歴代の魔王の誰かにあの様な能力があるのか!?)」

「(分からん! 見たことも聞いたこともない!)」

 魔王がフローレンシアの顔を大事そうに撫でると、

 ガバッ! ゴンッ!

「あ痛ったー!?」「痛ぅぅぅぅううっ!」

 目をカッ! と見開いて思いっきり飛び起きたフローラの頭の餌食となる。

「ゲラゲラ!」「ブフーッ!」

「ちょ、おま、笑ってんじゃねえ!」

「おい……可憐、その前に言う事は?」

「あ、えーっと? りっくん? よね? お帰り?」

「……他には?」

「……頭突きかまして申し訳ありませんでした」

「良し」

 事情を知らない者が端から見ると、とてもカオスな状況であった。というのも、

 ○魔王が復活しそう……。
 ○何か魔王から蹴り出された!?
 ○凄い美形だけど、すっごい口の悪い男が魔王から顔を出した!!
 ○フローラの側に転移した!? 魔王だけに勇者を始末する気!?
 ○凄く大事そうにフローラの頬を撫でた。女性の一部は心底羨ましそうにしていた。
 ○フローラが飛び起きた! ってか、魔王に頭突き!? 二人悶絶。
 ○フローラは起きて真っ先に魔族に文句!? 勇気あるってか無謀な……。
 ○魔王、フローラを見る。頭突きもかました事だし、いよいよ殺される!? ……あれ? 何か和気藹々としてる。……イチャコラすんな?

 こんな感じであろうか。

「いい仕事するナレーションじゃないの」

「ほんとねー。あんたは遊び過ぎてたから凄い新鮮に映るわぁ」

「ほっとけ」

 お褒めに預かり光栄です。

「え? ナレーション?」

「ああ、今の喪女さんには聞こえないんだよな」

「こっちの事だから気にしないで? んで、もし良ければってか是非お願いしたいんだけどぉ。乙女ちゃんも助けてくれない?」

「ああ!? 忘れてた!!」

「………………終わったぞー」

「って、はやっ!?」

 フローラが頭を抱えたすぐ後ろで、既にジュリエッタの近くへ転移していた魔王ことりっくんが、治療を済ませていたのだった。

「……りっくん?」

「りっくんて呼ぶんじゃねえよ。つか、お前は……どっちだ?」

「ああ、ごめんなさいね。乙女様って呼ばれてる方よ。私はリッキーって呼んだほうが良いのよね? フローラ……可憐は特別なんだものね?」

「……そうだな」

 フローラには絶対に伝わらないりっくん、いやリッキーのこだわりがあるようだ。私もそれに倣うとします。

「賢明だな」「賢明ね」

「ノーコン達は誰と喋ってるの……」

「理解されない時代の喪女さんの独り言」

「ああ、なるほど……」

「ええ? 納得しちゃったわよ??」

「通じるんだなぁ、これが」

「ビールの宣伝見たく言わないの」

「……って待てぇ!! 魔王の器を勝手に好き放題使うんじゃない! それは我等魔族の物だ!」

「そうだ! 魔王は我等の重要な……」

「おいノーコン」

「はいはい、何でしょ?」

「話を聞かぬかぁ!?」

「可憐をこんなにしたのは誰だ?」

「あっちの中年っす」

「 !? 」

「よし、分かった」

 ボンッ!

 次の瞬間、ザナキアの立っていたはずの場所から猛烈な風が吹き荒れ、ザナキアの姿も消えていた。

「ぅなっ!? 一体……何処にっ!?」

「あー、爺様、多分上だろうと思うぞ」

「上!?」

 ノーコンの言葉にネイザランが上空を見上げると、薄っすらと小さな点が忙しなく動いているのが見えた。

「アレかっ!?」

「ねぇ、ノーコン。何で上だと思ったん?」

「うん? 嫌だなぁ喪女さん。魔王の力で地上で戦っちゃったりしたら、大災害確定よ? りっく……リッキーは喪女さん達の事を考えて、影響が出ない位の超上空へ飛んでいったに決まってんじゃん」

「おお、そっか……」

「なん、だ……と」

 その情報にネイザランの表情が引き攣る。だとするならば、そこまで人間を慮る魔王が生まれてしまったのなら、自分達の悲願は……。

 ヒュー………………ッズンッッ!!

 ネイザランが分かり切った答えを出しきる前に、ザナキアがどうやったのか分からないが、四角く立方体のコンパクトな姿になって落とされたのだ。そしてもう驚きもしなくなった転移によって、魔王リッキーが地上に現れ、ザナキアを踏みつけたのだった。

「カヒュー……カヒュー……」

「魔族ってのは頑強だから死にはしねえだろう。人の女に手を出したらどうなるか思い知ったか?」

 この言葉に一部の女性たちは黄色い悲鳴をあげ、一部の男達は盛大に舌打ちをし、更に極小数の人間は震え上がることになる。

(うっひぃぃぃい!? マジか!? あの残念女……勇者のくせして魔王の女なのか!?)

 ヴェサリオの考えはあながち誤解でもないが、魔王リッキーにバレれば死にそう、もしくは何度死んだ方が良いと思うか分からない拷問が待っていそうだ。

「同感だな」「同感ね」

「ええい! お前達! お前達はそれで良いのか!?」

「何言ってんの爺様?」

「だよなぁ、何言ってんだよ爺様」

「な、何?」

「誰あろう、あんた達同胞こそが、俺達を死地に向かわせたんじゃねえか。ミズハズニッズの案を賞賛し、乗り気じゃない俺達を『裏切り者ではない証として世界を渡れ』ってぇ命じたのは誰だっけか? 途中で力尽きた者も大役果たせた者も、その殆どはむしろあんたらに恨みを持ってんぜ?」

「そ、そんな、バカな……」

「ああ、その話なら後でテメエ等でしやがれ。これとそっちのアホガキは御免だが、お前は事の終局を見定める義務がありそうだからな」

「な、何を言って……ぬおっ!?」

 魔王リッキーはネイザランの頭を鷲掴みにすると、顔を近づけて一言、

「戻れ」

 するとネイザランはふっ……と消えてしまうのだった。

「ええ……そんなあっさり取り込めるん?」

「じゃあそれとあそこの二人は放っておくの? それはどうなの?」

「この四角は力の殆どを奪った。今あるのは再生力だけだな。レアムだったか? その国で好き放題やってきたんだろう? その罪がどういう扱いになるかは知らんが、腹いせに全国民から毎日殴られる未来が待ってるかもな」

「……っ!?」

「……なぁこの四角、今震えたのは気のせいか?」

「気のせいだ。そしてあっちのクソガキも力は無くしてやった。魔族時代の知識を持ちだそうとしたら泡吹いて倒れて、その後三日三晩の間は本人が一番繰り返したくない経験を延々夢に見るようにしてやった」

「きゃー! 鬼畜ぅー!」

「何で嬉しそうなんだよ……」

「あの子が嫌いだから?」

「ド直球だな」

「えっと、良いかしら?」

 魔族問題が片付いたのをチャンスと見たのか、ジュリエッタが話に割り込んでくる。

「どうした?」

「この娘……ロドミナというか、ルミナも助けてくれない?」

「ええ? なんで乙女ちゃん。この娘、危険よ?」

「問題は先送りにしたくないの……」

「ああ、良いぜ……ほれ」

「うわぁ……一瞬だよ。私、かなり苦労して皆を回復して回ったのに、何このドチートっぷり」

 フローラのジト目が魔王リッキーに突き刺さる! 目を逸らすリッキーだが、少し嬉しそうなのは何故だろうか!

「何でだろう〜」「何でだろう〜?」

「テメエ等……」

「………………ぁ? ……勇者様!!」

 そしてルミナが目を覚ます……。

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