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未知との遭遇 ~春の訪れは今度こそドゴログマで その4

「じゃ、皆さん準備はいいですか?」
 フリオさんがそう言いながらみんなを見回しています。
 で、その後方には9人の男女が立っているわけで……

「えぇ、旦那様。みんなで一斉にあの宝箱を破壊すればいいのですね? おまかせください」
 フリオさんのお仲間さんは、気合い満々な様子の奥さんのリースさんを始め、後から駆けつけて来たブーガブルとブーガフールっていう龍の兄妹さんと、神界人のタナウさんっていう3人が加わっていて、なんかみんなやる気満々な感じですね。
 で、僕の周囲にも5人の男女が集まってまして、んでもって宝箱の前に立っています。
「あれぐらい、一撃でゴザル」
「そうキ! 任せるキ!」
 イエロとセーテンは気合い満々な様子で肩を回してまして、すっかり準備万端な様子で宝箱を見つめています。
 2人の方を見つめていると、僕の右手が引っ張られました。
 で、そこにはパラナミオがいます。
「パパ! パラナミオ頑張ります」
 パラナミオはそう言うとにっこり笑いました。
 サラマンダーのパラナミオは、その気になれば巨木を素手で倒せるほどですので、この役目にはうってつけです。
 ……もっとも、少しでも僕が危険だと判断したらパラナミオのことは全力で守るつもりです。
 この世界の事も確かに大事ですけど……僕にしてみればパラナミオの命の方が大事です。

 いざとなれば、僕が身代わりになってでも……

 僕は笑顔を浮かべながら、
「そうだな、みんなのために一緒に頑張ろうな」
 パラナミオの頭を撫でていきました。
 パラナミオは、僕に撫でられながら嬉しそうに微笑んでいます。
 その笑顔を見つめながら、僕は
『スア……僕に何かあったら、子供達のことは頼むな』
 僕は脳内でそう考えました。

 僕とスアは思念波通信でつながっています。
 僕は思念波通信魔法を使えないのでスアの思考はわかりませんが、スアは僕の思考を把握しているはずです。

 で、帰って来た返事が

『嫌(や)』
 の一言でした。
 で、スアの方へ視線を向けると……スアってば、僕に向かっていつでも各種魔法を使用出来る体勢をとっています。
 その足元にすごい数の魔法陣が展開していますし……おいおい、魔力まだ回復しきってないはずなのに……無茶しやがって……
 僕は、そんなスアを見つめながら、
『訂正だ。とっととすませて、我が家へ帰ろう』
 そう思い直しました。
 すると、スアはようやく笑顔で頷きました。

◇◇

 で、パラナミオはともかく、僕の腕力じゃあの宝箱は壊せません。
 時間をかければ破壊出来ると思いますけど、一撃ってのは無理っぽい気がします。

 すると、スアが魔法で森から木を切り出してきまして、大きな木製ハンマーを作成してくれました。
 こんなでっかいの、持てるの? って思ったのですが、持って見るとかなり軽いです。 
 スアによると、内部を削りに削って軽量化をはかり、一撃で宝箱を破壊出来るギリギリの重さにしてあるんだとか。
 何度かそれを振り回してみたところ……うん、これならどうにかいけそうです。

 で、そんな僕の横で、テンテンコウが、真っ青な顔で立っています。
 スア推薦で最後の1人に選ばれたテンテンコウ。
 で、その後方にスアが立っています。
 そんなテンテンコウとスアは
「あの……マジです?」
「……マジ」
「絶対?」
「……絶対」
「……やっぱり、やめません?」
「……やめない」
 そんな押し問答を延々と続けています。
 無理って言い続けているテンテンコウ。
 大丈夫と言い続けているスア。
 ただまぁ、スアがここまで言うわけだし、大丈夫なんでしょう。
「テンテンコウ、僕からも頼むよ。スアを信じて協力してくれないか?」 
 僕がそう言うと、テンテンコウはようやく首を縦に振ってくれました。

◇◇

 これで人数は揃いましたけど……しかし、これ、一体どうやるんですかね?
「で、フリオさん、具体的にどうやるんです? 魔法は出続けているし、魔獣も出現し続けているわけで……このままじゃ、あの宝箱に近づくのも容易じゃないって思うんですが……」
 そうなんですよ。
 宝箱の周辺って、やばそうな魔法は出続けているし、魔獣達は出続けているし、で、とても近づけそうにないんですよ。
 僕がそう言うとフリオさんは宝箱から天に向かって延びている光を指さしました。
「あの光なんですが、10分ごとに1回、魔力を充填するためにインターバルを挟んでいます。ですので、そのインターバルの間に宝箱に近づき、みんなで一斉に破壊しましょう」
「なるほど、それなら……」
 フリオさんの言葉に、僕は納得して手を打ちま……って、ちょ、ちょっとまってください!?
「……あの、フリオさん……10分ごとにインターバルが……って言われてましたけど……この光が発生し始めてからそれなりに時間経ってますけど、そんなの一度もなかったですよ」
「あぁ、インターバル時間はかなり短いですからね」
「短い……って、どれくらいなんです?」
「そうですね……瞬きする時間くらい?」
 そう言うと、フリオさんはさわやかな笑顔を浮かべていきました。
 そんなフリオさんの横で僕はムンクの叫びよろしく、口をあけ、頬を押さえながら伸び上がっていきました。
 すると、そんな僕の背後にスアがトコトコと歩いてきました。
「……問題ない、の」
 そう言い、ウンウンと頷くスア。 
 そんなスア同様に、なんかフリオさんも頷いています。
「えぇ、奥さんの言う通りですよ、心配しなくても大丈夫です」
 そう言うと、フリオさんは両手を宝箱に向かって伸ばした。
 すると、その両腕に紐状の呪文が巻き付いていくではありませんか。
 スアの魔法は割とシンプルな魔法陣が多い感じなのですが、フリオさんの展開している魔法ってかなり複雑怪奇に混じり合っているような印象ですね……魔力を持ってない僕の視覚的な印象ですけど。
 で、その呪文の紐は幾重にも絡まりながらフリオさんの腕を覆っています。
 すると、その手の先に黄金に光り輝く魔法陣が出現しました。
 フリオさんは僕達を見回すと、
「皆さん、ボクの背中に手をあててください。僕の背中を触っている人の体に触れても構いません」
 そう言いました。
 で、僕達はその指示に従ってフリオさんの背中に手をあてていきました。
 なんかシャルンエッセンスがその背に手を伸ばそうとすると、リースさんがすごい顔で睨んできたもんですから、シャルンエッセンスは慌てて手を引っ込めて僕と手を繋ぎました……で、今度はスアがぷぅ、と頬を……
 どうもリースさんも、スアなみにやきもち焼きなのかもしれませんね、なんかそんな気がします。
 で、全員が手を繋ぎ終わったタイミングで、フリオさんがカウントダウンを開始しました。
「あと5秒……4秒……3秒……2秒……1秒……今!」

『時間を停止します』

 なんかフリオさんのカウントダウン終了と同時に、女の声が響きました。
 で、僕は周囲を見回していったのですが……
「……な、なんだこりゃあ?」
 僕は思わず声をあげました。
 声をあげたくもなりますよ!
 僕らの周囲ではカタストロフ魔法の魔獣対フリオさんの召喚獣達の戦いが繰り広げられている最中なのですが……その全員が制止していたんです。
 まるでDVDを一次停止したかのように、全てがその場で制止し、固まっているんですよ。
 壊れ続けていた空の破壊も停止しています。
 よく見ると、宝箱の周囲にも光がありません。
 フリオさんの言っていた、瞬きほどのインターバルに合わせて時間が止まっているのでしょう。
 僕がそんなことを思っていると
「無限に時間を止めることが出来ませんので、ちょっと急ぎましょう」
 フリオさんがそう言いました。
 で、その声に即されて、僕達は10個の宝箱へ向かって散らばっていきました。

◇◇

「うん、大丈夫だ」
 宝箱の脇の地面に向かって何度かハンマーを振り下ろした僕は安堵のため息を漏らしながら頷きました。
 この感触なら無事やれます。
 この宝箱をやれます。
 やってみせますとも!
 
 そんな事を思っている僕の周囲でも、皆さん思い思いにウォーミングアップを繰り返しています。

 そんな中……テンテンコウだけは皆とはまったく違う姿勢を取っています。
 姿勢……といいますか……蝸牛の殻の中に入り込んでガタガタ震えているんですよ。
 で、その後方には、スアが立っています。
 スアは、森から切り出してきた輪切り状の木の幹を前にして、木の幹ーテンテンコウの殻ー宝箱の位置を慎重に確認しています。
 ……なんかこれ、ビリヤードっぽいですね……気のせいか……
「スアさん……それは何をしていらっしゃるんです?」
 そんなスアに、フリオさんが声をかけました。
 そりゃ声をかけたくもなりますよね。
 僕でも、スアが何をしようとしているのかはっきりとはわからないんですからね。
 で、先ほど魔法の事で話をしたおかげで、最初ほど対人恐怖症の症状を起こさなくなっているフリオさんに対してですね、スアは言いました。
「……テンテンコウをぶつける、の」
「あぁ……殻ごとですか……あ、でも魔法で射出すると、トラップに引っかかるかも……」
 そう言いかけたフリオさんの前で、スアは木の幹を指さしながら親指をグッと立てています。 
「……この木の幹を、魔法で打ち出し、て……テンテンコウにぶっつけ、て……その勢いで宝箱を……」
 そう言うと、スアは右手をぱっと広げていきました。
 それ、どっか~ん……って意味じゃないの? ねぇ……
『あの、スア様……ボク、本当に大丈夫なんですよね? いくら殻が固いとはいえ、あんまり激しくぶつけられたらさすがに痛いですし……』
 殻の中から、危険を察知したらしいテンテンコウの怯えたような声が聞こえてきました。
 スアは、そんなテンテンコウに
「……大丈夫、よ」
 そう言い、親指をグッとたてていきました。
 で、その仕草を感じ取ったらしいテンテンコウはそれ以上何も言わなくなりました……観念したんでしょうね、きっと。
 で、スアは、そんなテンテンコウの元を離れ、位置についていったんですけど
「……痛いのは一瞬だし……」
「スア、今何か言った?」
 そう言う僕に、スアは顔を左右に振りました。

 ……うん、まぁ、そういうことにしておこう……

 ◇◇

「じゃあ行きますよ」
「「「はい!」」」
 フリオさんの声に、僕ら一同は一斉に返事を返しました。
「じゃあ、僕が1・2の3って言ったら宝箱を……」
 あぁ、これ、あれですよね。
 本番と勘違いしてずっこけるのがド○フの定番ですけど、さすがに実際には……
「……って、あ、危ないなぁ!?」
 そう言いながら、フリオさんがイエロとリースさんを横抱きにして宝箱から引き離しています。

 どうやら、マジでやらかしかけた方がいたようです……

「一度宝箱に触れてしまうと魔法が強制解除されてしまう可能性が高いから気をつけてね」
「す、すいません旦那様……」
「か、かたじけないでゴザル……」
 フリオさんに注意されながら、イエロとリースさんは申し訳なさそうに頭を下げています。
「……ド○フのオチはいらないって……マジで」
 僕は、その光景を見つめながら思わずそう呟いていました。

「じゃ、本番です」
 仕切り直した僕達は、フリオさんの言葉を前に再度気合いを入れ直していきました。
「1・2の……3!」
 フリオさんの合図と同時に、今度こそ全員が一斉に宝箱に向かって攻撃をおこないました。
 皆の前で、一斉に宝箱が砕けています。
「そぉい!」
 僕も気合い一閃、ハンマーを振り下ろしました。
 で、その一撃で宝箱は見事に破壊されました。

 ……え? オチはないのかって?
 何を言われているのか、ちょっとよくわかりませんねぇ。
「パパ、誰とお話をしているのですか?」
「あぁ、何でもないんだパラナミオ」
 僕はそう言いながら、完璧に破壊した宝箱を前にして微笑んでいるパラナミオの頭を撫でてあげました。

 で

 スアの魔法により打ち出された木の幹の直撃をくらったテンテンコウも、まっすぐ宝箱に特攻していき、見事にそれを破壊出来たようです。
 ですが、ビリヤードよろしくあちこちにぶつかったテンテンコウは、森の中の木に激突してようやく停止したようです。
「……よく頑張った、の……感動した、わ」
 スアは、そんなテンテンコウに回復魔法をかけながら、そんなことを語りかけています。

 ……前言撤回……まぁ、こんなオチです、はい。
「パパ、誰とお話を……」
「あぁ、パラナミオ、お約束はいいからいいから」

 僕がパラナミオと話をしていると、程なくして時間が動き始めました。

 フリオさんの召喚獣達達は、目の前にさっきまでいたカタストロフ魔法の魔獣達が全部いなくなっているもんですからみんなびっくりしています。
 で、空も、青空を取り戻していました。

 どうやら、なんとかなったようです、はい。

しおり