未知との遭遇 ~春の訪れは今度こそドゴログマで その3
で、僕達はフリオさんが展開した魔法防壁に守られながら、あの宝箱のところまで戻ってきました。
宝箱の横に、スアの張っている魔法防壁の姿が見えました。
どうやらスア達も無事なようです。
その様子に、僕は思わず安堵のため息をもらしていきました。
向こうも僕達に気がついたらしく、スアやパラナミオ達がこっちに向かって手を振っています。
そんな中、
「う~ん……」
天空に向かって光を放ち続けている宝箱を見つめていたフリオさんが、なんか唸り声をあげながら小首をかしげました。
「……どうです? どうにかなりそうです?」
僕は、心配になりつつフリオさんの方へ視線を向けました。
シャルンエッセンスも、僕の後方でなんか祈るような仕草をしています。
そんな僕達に、フリオさんは笑顔を向けてくれたのですが……ちょっと苦笑っぽいですね。
「ちょっと面倒くさい感じですね……いいですか、あそこにある宝箱ですが、光っているのは10個です。
つまりこのカタストロフ魔法を展開しているのはあの10個の宝箱と言うことです」
「なるほど……ってことは、あの宝箱を全部ぶっ壊してしまえばいいってことですか?」
「おそらくはそうなのですが……ちょっと問題がありまして……」
「「問題?」」
フリオさんの言葉に、僕とシャルンエッセンスは同時に言葉を発していきました。
そんな僕達にフリオさんは大きく頷きました。
「えぇ……どうやらあの宝箱、全部同時に破壊しないとダメみたいなんです」
「なら、フリオさんか、ウチの奥さんの魔法で同時にやっちゃえば……」
「それがですね、あの宝箱にはトラップが仕掛けられているみたいでして……魔法で破壊されると世界そのものを跡形もなく吹き飛ばすように設定されているようなんですよ……」
その言葉を聞いた僕は思わず目を丸くしてしまいました。
「え? じゃ、じゃあどうしたら……」
僕が、困惑気味にフリオさんに尋ねていると、後方にいたシャルンエッセンスがすごい勢いで僕に抱きついてきました。
で、シャルンエッセンスってば
「リョウイチお兄様!もうダメなのでしたら、このシャルンエッセンスとこの世界最後の愛の逃避行を……えぇ、来世でこそ一緒に結ばれることをお互い誓い合いながら……」
興奮しまくった様子でそうまくし立ててきたんですけど……そこまで言ったところでシャルンエッセンスの姿がかき消えたんですよ。
で、同時に、どこか遠くからですね
「あ~~~~~れ~~~~~~」
っていうシャルンエッセンスの悲鳴が聞こえてきたかと思うと、同時に水の中に何かが落下する音が響いていきました。
……コンビニおもてなし恒例ですね、これ。
「……だから言わんこっちゃない……ここ、スアの目の前だっていうのに」
そう言いながら、僕は視線を横へ向けていきました。
そこには、スアが展開してる防壁魔法があるんですけど、その中のスアってば予想通りすごい形相をして
こっちを見てたわけです、はい。
「今のは……奥さまが?」
「あ、はい……ウチの奥さん、やきもちやきなもんでして、僕の側にああやって女の子が寄ってくると毎回こうなんですよ」
フリオさんが、なんか苦笑しながら聞いて来たもんですから、僕もまた苦笑しながら返事を返したわけですが……どんな時も決してぶれないスアなわけです、はい。
◇◇
相変わらず、宝箱からはカタストロフ魔法として魔獣達も召喚され続けています。
まずはこいつらどうにかしなかきゃ……
僕がそんな事を思っていると、スア側のイエロやセーテンも同じ気持ちだったらしく、2人とも武器を手にしてやる気満々の様子です。
うん、みんなで力を合わせれば……僕がそんなことを思っていると、
「先に、こいつらをどうにかしておきますか」
フリオさんは涼しい顔をしてそう言ったんですよ。
で、小さく口笛を吹いたかと思うと、なんか空からすっごい数の石みたいな鳥が殺到してきまして、文字通り魔獣達に向かってぶち当たっていったんです。
さらにその後方からもゾクゾクとでっかい魔獣達がやってきてはですねカタストロフ魔法によって出現しまくっている魔物達を駆逐し始めたんですよ。
「なんか、すごいっすね」
僕は、そう言うのがやっとでしたね……生唾を飲み込みしかないわけです、はい。
スアの魔法防壁の中でも、その圧倒的な光景を前にしているイエロとセーテンが口をアングリとしている姿が見えます。
そんな僕にフリオさんは
「僕や僕の仲間達の召喚獣達です。みんな頼りになる仲間達ですよ」
そう言って、なんかさわやかに笑っています。
で、そんなフリオさんの声が聞こえたらしい召喚獣達はですね、嬉しそうな咆哮をあげて、再び魔獣達を蹴散らし始めたわけです。
これで魔獣達の脅威が去ったもんですから、フリオさんもスアも防壁魔法を解除しまして、みんな一同に介していきました。
そんな中、フリオさんがスアに歩み寄っていきました。
「スアさん、ですね? 僕はフリオと言います。旦那様に依頼されましてこの事態の収拾のお手伝いに来させていただきました」
先ほど同様、さわやか~な笑顔を浮かべているフリオさん。
なんかこの人、ホントこの笑顔が似合いますね、
で、そんなフリオさんを前にしたスアってば、
「……スアタクラ……です」
真っ赤になって僕の後方に隠れてきたんです。
あぁ、これ、久々だけど、スアの超絶人見知りというか対人恐怖症ですね。
最近は緩和魔法をよく使ってたのであれでしたけど、今回は不意打ち気味に挨拶されちゃったからスアも緩和魔法を使用する余裕がなかったようです。
「あぁ、すいません。ウチの奥さん、ちょっと対人恐怖症なとこがありまして」
僕は、スアの頭を撫でながら、フリオさんに笑顔で説明していきました。
スアってば、僕のズボンをギュッと掴みながら、完全にその後ろに隠れています。
結構細い僕の足なんですけど、スアはその後方に巧みに収まっています。
で、そんな僕達にフリオさんは、
「あ、いえいえ、こちらこそ、そういう事情に配慮出来ませんで、すいません」
そういって頭を下げてくれました。
で、フリオさんは改めて宝箱の方へ視線を向けています。
その時、僕はフと思ったんですよね。
「……あの、フリオさん。あの召喚獣達に宝箱を破壊させちゃダメなんです?」
あんだけ強い魔獣達が、しかもこんなにいるんです。
それで無事解決しちゃわないかな、そう思ったんですけど
「……ダメ……トラップ、よ」
スアがそう言いながら僕の腕を引っぱりました。
そんなスアの言葉に、フリオさんも頷いています。
「スアさんの言う通りです。あの宝箱を正しく破壊するには2つの条件をクリアしないといけません。
人型の生物10人で、10個の宝箱を同時に破壊する……こうしない限り、カタストロフ魔法は暴走しこの世界は消し飛んでしまいます。
人型の縛りが魔法に練り込まれているため、召喚獣達にやらせることが出来ないんですよ」
フリオさんの言葉に、今度はスアが頷いています。
正直、そんなことさっぱりわかっていなかった僕は
「へ~、そ、そうなんだ……」
なんか2人を、感心というか、びっくりした感じで交互に見つめていったんです。
で、そんな僕を間に挟んで、フリオさんとスアはさらに言葉を交わしています。
「……まぁ、その魔法を書き換えることが出来なくもないんですが……」
「……時間的に、猶予がないの、では?」
「そうですね、頑張って急いでも、破壊が終了するまでに間に合うかどうか、ちょっと微妙ですから……それよりは10人による同時破壊の方が確実かと思うのです……」
そう言いながら、フリオさんは周囲を見回していきました。
「……問題は、あの宝箱を一撃で破壊出来る人が10人いるかどうかですね。あの宝箱、普通に硬いですから」
「え? そうなんです?」
「えぇ、魔法でパワーを増大させるのもNGみたいですからね」
え?マジ?
フリオさんの言葉に、僕は思わず口あんぐり状態です。
その縛り、マジでちょっとキツくないです?
だって、ここにいるメンバーであの宝箱を、武器を使って破壊出来そうなのって、イエロとセーテン……あと、ギリで僕?
それにフリオさんを加えても、まだ4人しかいないわけです。
そんな事を僕が考えていると、なんかフリオさんの横にでっかい狼が駆け寄ってきました。
召喚獣の一匹かなと思っていましたら、
「あぁ、リース! 良いところにきてくれた!」
フリオさんがそう言うと、その狼はいきなり女性の姿に変化しまして、フリオさんに抱きついていきました。
「旦那様、ご無事で何よりですわ」
そう言うと、その元狼の女の人……リースさんですかね?、彼女は僕達がいることなどお構いなしの様子でフリオさんに口づけていきました。
そんなリースさんを、フリオさんも抱きしめています。
うん、あれ、確実に舌が絡まってますね。
親愛といいますか、情熱の真っ赤な薔薇が一気に咲き誇った、そんな感じです。
その光景に、スアも顔を真っ赤にしながら見入っています。
で、パラナミオやリョータ、アルトまでもが顔を真っ赤にしながら……
って、いかんいかん。
「はい、君たちにはまだ早いからね」
「え? あの? パパ、もうちょっと」
必死に懇願するパラナミオ達の目を、僕は手で塞いでいきました。
これも親の勤めです、はい。