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ワグネル・ラウリスタ

結婚は行わない……つまりは式はしないってことなのかな。
「僕とマティエの絆は変わらない。いや、ただ正式に結婚するのだけはしばらくやめる……って感じかな」
うーん、ルースの歯切れが悪い。まるでなにか隠してそうな物言いなんだよな。
理由は? とジールもやはり煮え切らなさに苛立ちを隠せない。
「パデイラの魔獣を倒すまで……とでも言えばいいかな」
マティエの言いたいことはこうだ。あの時自分の祖父を、そして角を折った魔獣を探し出し、決着をつける時までは式はしないのだそうだ。
「何年も前の話、しかもパデイラでの出現以来全く報告のないあの魔獣を? いったいどうやって探し出すのさ」
ジールが怒るのももっともかもしれない。結構いい仲だしな。
それについては僕が。とルース。
「城でいろいろ調べたんだ。この手の古文書がなかったかどうかね。けど引っかかるものは何もなかった……だから危険を侵してまたパデイラに行ってみたら」
「手がかりがあったのか?」俺の言葉にルースはああ。とうなづいた。
「例の一件以降、あそこには誰も寄り付かなかったからね……当時のまま全て散乱していたよ……オコニドが使っていたであろう、禁忌の書物が」
「要は、オコニドの連中があのバケモンをどっかから呼んできた。ってことでいいのか?」
「そう。しかもその書物にはマシャンヴァルに関することも書かれていたんだ。オコニドはかなり前から接触していたみたいだね」
「で、その魔獣は一通りそばにいた連中を食べてしまい、また元の場所へ帰っていったというわけ……か」
「そう、ジールの言うとおり。だから以降の出現情報は皆無だったのさ」

え、つまり……その魔獣を倒すってことは!?

「ルース……もしかして、またそのバケモノを呼ぼうって言う気じゃねえだろうな?」
言いたいことは分かるが危険すぎる行為だ。だいいちそのバケモノは町の住民はおろか、敵味方を問わず腹の中に収めちまったんだ。しかも対峙することも、傷を負わすことすらできずに。
そう、きっと俺でもそんな奴を倒せられる自信はない。いや不可能だ!
「武器だ」動揺する俺たちの頭の中を制するその一言。
「え、マティエ今なんて?」
「それ相応の武器でないと倒すことは不可能に近い。そしてそれをルースは突き止めた」
相応の武器……一体何なんだそれ。聖なる武器とかめったに取れない鉄とか使っ……

って、その武器って……も し か し て!

「ひょっとすると、それって、俺の……」
「察しがいいねラッシュ。まさにその通りさ。ワグネル・ラウリスタの鍛えし業物。そして彼もまた人でない存在だってわけさ」
「え、ワグネルが人じゃねえって、どういうこった?」
「いや、人間じゃないというのは言い過ぎかもしれない。だが彼が各地で誂えた武具の年代を思い出してほしい。ラッシュの斧、そしてエッザールの剣。そして……」
マティエはそう言うと、傍らに立てかけてあった長い得物を手に取った。
白い布が巻かれてはいるものの、一目でそれは槍だとわかる代物だ。
その布を丁寧に取り払うと、現れたものは……うん、やっぱいつもの槍だ。
だけど俺やエッザールと同じ、透き通るほど白銀に輝く刃。ということは、この女も……

「ソーンダイク家に代々伝わる聖槍だ。誰が鍛えたかはもはや言わなくても分かるだろう」
ああ、この槍もワグネルのじじいがこしらえたってワケだな。
「そして私の家系を調べた結果、この槍は300年前にはもう存在していた」

「さんびゃくって、10をなんかいかけるんだっけ?」
「え、あ……えーっと……」なんでそんなときに問題出すんだチビ。

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