美術室に入ると、そこには一人の女子高校生が座っていた。
長い黒髪がよく似合う少し幼げな後輩である。名前は神奈月遙で、今年の四月から俺は彼女にお世話になっている。
俺に気づくと神奈月遙は人懐っこい笑顔を浮かべた。
茶色のブレザーと赤を基調としたチェック柄のスカートがよく似合っている。しかし随分とスカートの丈が短い。
「さあ見てください!」
次の瞬間、神奈月遙はいきなり足をおっぴろげた。ほとんどの男が反射的に目を覆うだろう。無論俺もドアを閉めた。
「……あのー先輩、ちゃんと見てくれません?私がこういう事してるのは先輩のためなんですよ?」
「それはそうなんだが…」
「なんでやらないんですか?この前はやったじゃないですか!」
「いや心の準備が」
「ほうほう……つまり気分じゃないとか言うんですね、ヤル気がないって言いたいんですね!私あなたのファンだからこんなことしてるのに……都合のいい時だけヤるなんてサイテーですよ!!」
「おい言い方ァ!!!」
勢いでドアを開けながら俺は敗北を確信した。
俺と相対した神奈月遙は「しめた!」と言わんばかりに、満面の笑みを浮かべて一言。
「はい!パンチラしてませーんw」
意図せず制服のスカートから伸びる白い脚に、視線が吸い寄せられる。
ハリのある瑞々しいふくらはぎ。細くて柔らかそうな太もも。それらが白のニーハイソックス包まれている。実に健康的で、それでいて美しい絶対領域を創り出していた。しかしパンチラはしていない。角度的に無理だ。
「で、これを見てください!」
ニタニタしながら神奈月遙が取り出したのは俺が描いた漫画である。漫画家を目指してる俺に神奈月遙は協力をしているのだ。
ちなみにそのページではまったく同じ構図でパンチラをしている。
「この姿勢じゃパンチラ無理ですねー、ふっふっー、作画崩壊はっけーんw」
「う、うるさい。俺の漫画はするんだよ」
「おれの漫画はするんだよ、キリッ。…そーですかそーですか、じゃあ先輩のジャンルはラブコメ改めファンタジーにしたほうがいいんじゃないですかw」
「あーもー腹立つなぁ!もっと敬えよ!曲がりなりにも目上だぞ!!」
「はぁー、身体は大きいのに度量は小さいんですねぇ……それと」
神奈月遙は今日一番の悪戯っぽい表情で言った。
「私は先輩を添削してあげてるんです。上下なんてありませんから!」
ふふん、と均整のとれた胸を張る神奈月遙。
たしかに彼女の言っていることは一理ある。よし俺は何も言わん。
「わっ」
……だが神は黙っていなかったようだ。
一陣の風によって、今度こそ露わになる絶対領域のその先。どんどん顔が紅くなっていく神奈月遙。その姿を眺めながら俺は思い返す。
どうしてこうなったのか。
それを説明するには一週間ほど時間を遡る必要がある。