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 ハードゥスには様々な物語が存在している。まだ少々粗悪な品質なれど紙の供給が安定しだした昨今、印刷技術の向上もあって、本の普及はかなりのところまで拡がっていた。
 それに伴い、識字率が高いのも手伝って歴史や教養、実用の本ばかりではなく、物語の本もかなりの数が出版されている。ハードゥスはその特性上、様々な世界から物語が流入しているので作品数はかなりの数に上り、またそれらから影響された物語や漂着者の自伝なども人気を博していた。
 特に漂着者は突然異世界にやってきたようなものなので、その体験談に基づいた話は中々興味深いものでがある。中には代々伝わっている漂着者の祖先の話を載せた作品もあり、そちらは長く語り継がれていただけに物語としてより洗練されているために、生々しさよりも物語性を望む層はそちらを好んでいた。
 様々な世界の話に自伝、それらに影響されたハードゥス独自の物語。教養や実用書だけでも種類が豊富で、そういった世界ごとの違いについてまとめたものまで存在していた。
 そのため、単なる物語だけではなく、ハードゥスに居ながら様々な世界を旅行したような気分が味わえる。そういう部分にピントを合わせた世界別の旅行記なるものも出版されているほど。
 れいの下にもそういった本が届くことが増えた。直接ではなく管理補佐経由ではあるが。
 そういった物語をパラパラと読みつつ、れいは実際の世界で語られている物語と比較したりもする。中には騙った創作も混じっているが、同じ世界からの漂着者も結構存在しているので、大半は実際に語られている話を基にしているようであった。
「………………大陸内だけではなく、大陸間の繋がりも大分太くなりましたね」
 海上にポツンと浮かぶ島に存在する巨大建造物の最上階で、れいは威厳を感じさせる大きな椅子にちょこんと腰掛けながら、新しく部屋に増えた幾つもの大きな本棚と、そこに収められている大量の本を眺めてそう零す。
 人々の交流が盛んになったことで、技術だけでなく文化の熟成も進んだ。その結果がその本の数々だった。現在収められている本の半数ほどが物語の本で、その種類もまた人々の交流の証とも言えるだろう。
 それに最近は情勢が安定している傾向にあり、これからも物語や教養など日常生活に関わる本が多く出版されることが予想される。
「………………新しい大陸の方はまだ安定性に難がありますからね。流石に直ぐに文化を形成するには色々と足りなすぎますからね」
 れいが事前に用意したのは住居と当面の食料、それに武器や防具などの狩りのための道具一式ぐらい。町中の複数ヵ所に井戸を用意しているので、周辺を探して食料さえ確保出来れば生きていけるだけの用意は整えている。
 そこに管理補佐を管理者として派遣しているので、基盤は直ぐに整うだろう。ただし、それより先に進むための材料は自分達で集めていかなければならない。
 もっとも、鉱山や恵みの多い森など必要そうなモノは一通り近くに配置しているし、海も少し離れている程度。労働者だけでなく、技術や知識を持っている者も漂着させているので、それらの環境を十分に活かせるだろう。実際、かなりの速度で発展している。
 もう十数年ほど経てば、他国と最低限対等に交渉できるぐらいの下地は整うことだろう。問題は人口だろうが、その辺りは頃合いを見ながら新しい漂着者を補充しているので何とかなる。
「………………もう少ししたら新しい町を興してもいいですね。あの地からは他とは違うモノが生まれてくれるでしょうし」
 法則が違う場所では、その法則に沿った知識が蓄積されている。例えばレベルやスキルなどで管理している大陸では、効率的なレベルアップ方法とかスキル事典など、そういった本が多く出版されていた。
 そういったモノとは違うが、新しい大陸は特殊な力がほとんど存在しない大陸なので、特殊な力を用いなくとも使用出来る物について辺りの出版物を期待したいところだろう。
 そういった今後の展望を考えると、それはそれで楽しいものである。それとともに次の展望を夢想してみたりも、管理者としての楽しみの一つであった。

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