ギリギリの優しさ
「ラッシュって痛みには結構弱いのね。覚えとこ」
「うるせー! 不意打ちを受けりゃ誰だって深手負うだろーが!」
結局……すぐに穴から出てきたタージアが俺を手当てしてくれたおかげで、どうにか事なきを得た……のか?
けど、どっちかと言えば周りの連中の方がヤバかったくらいだ。
チビはずっと気絶した俺にしがみついたまま泣きじゃくってたし、トガリは……うん。あいつ血を見るのが大の苦手だから、その場で失神したし。
フィンはフィンで血に染まった剣が緊張で手から離せなくなったらしく、エッザールがそれを解くのに苦労したとか。
急いでジールは周りに誰もいないか探してきたみたいだ。
そうだ、敵なんてどこにも居ない。けど【いた】んだ。
しかしタージアの手当ての仕方はすごい手慣れてたみたいで、手にしていた大きなバッグから針と糸を取り出してちゃっちゃと傷口を縫ってしまうわ、さっき採取したばかりの草をモゴモゴ口に含んだと思いきや、そのぐちゃぐちゃになった食べカス(?)を傷にペタリと貼って、はい止血と手当て完了と。
「あ、あの……出血はひどかったですが、傷はそれほど深くなかったです。ラッシュさん丈夫そうだし、二、三日で塞がるかな……と」
またジールの陰に隠れながら照れ臭そうに話している。さっきまでの威勢はどこ行ったんだか。
でも……そうだな。俺って基本的に不覚を取られて斬られたってこと自体、ほとんど人生の中ではなかったかも知れない。
殴られたり矢が刺さったりは日常茶飯事だけどな。
「ラッシュは結構大げさに痛がるよね。この前も食堂の柱に足の小指ぶつけたときも、痛え死ぬってずっとのたうち回ってたし」
くそっ、トガリの言葉にみんな爆笑しやがって。あとで覚えてろ……いてて。
「おとうたん、いたくない?」
そうだった、チビの前ではこんな姿見せたくなかったのにな……ほんと油断した。
さて、フィンは……というとだな。
ああ。相変わらず顔面蒼白なままだ。こりゃ俺以上に時間かかるかも知れないな。
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……………………
…………
んで、重傷者に荷物持たせてお前たちは手ぶらかよ。
エッザールの乗ってきた馬には、疲れきったタージアとチビを乗せて……うん。絶対おかしすぎる。
「別にその程度のケガ大丈夫でしょ」なんてジールは平然と言うしで……覚えてろ。
「ラッシュさん……ちょっと」
列の後方で警戒していたエッザールが、ふと俺に小声で話しかけてきた。
「あなたのそのケガ、人獣に襲われたって言ってましたが、あれウソですよね」
「へ? 俺がウソつくわけねえだろ」
あいつはクスッと笑って、そうでしたね……だとさ。
いいウソなら別に構わないだろ。俺は……うん。仲間を大事にしたかった。それだけさ。
日が暮れかかった頃、ようやく俺たちは街に戻ることができた。
ジールはとりあえず例の声のことを報告するとのことだ……本来なら俺も城に赴きたいが、やっぱり、その……ネネルと会いたくないんだ。
「遅かったな……って、何があったんだいったい⁉︎」
帰宅して早々にラザトの驚く顔を見るとは思わなかった。もちろんフィンの件は言う気はないけどな。
「俺がいない間になにもしてねーだろうな?」
「ああ、それよりもお前に伝えたいことが山ほどある」
相変わらずの酒臭い息でラザトは言った。
「さて、いい知らせと悪い知らせ。どっちを先に聞きたい?」