アルバイト……?
ーその日の夜ー
ラザトとエッザールと3人で書斎の日記を読みつぶしたが、結局情報は何一つとして得られなかった。
「ダメ……でしたね」机に突っ伏したエッザールの疲れ切った言葉が、全てを表していた。完全に八方塞がりってやつか……
しかし、親方ってここまで俺のことを繁茂に日記にしていたんだな。見た感じガサツとしか思えなかったあの親方が。
「お疲れ様、コーヒー淹れたけど、飲む?」
トガリが気を利かせてコーヒーを持ってきたのだが……前にも話した通り、あいつの好みだかなんだかは分からないが、泥のように濃いんだこれが。一発で目が覚めるんだが、とにかく、味が……いや、トガリのやつに悪いから飲むけどな。
「アラハス式の淹れ方ですねこれ、悪くない味です」
エッザール……お前の舌は一体どうなってるんだ?
どちらかと言えば俺はもうここで寝たいくらいだ。チビは先に寝かせたし、俺も……
「おーい、誰かいるか?」
ふと、玄関から聞いたことある声が。あれは……
「イーグですね、そうか、今日お城に行ってたはず」そうだな、すっかり忘れてた、イーグだ。
……………………
…………
……
「じゃーん! これが王様からもらった勲章で、んでもってこれが賜った名字!」
やっぱり報告に来たのか。すげえ生き生きとしてるし。
イーグは食堂のいちばん大きなテーブルの上に、金ピカの勲章やら何やら文字だらけの大きな紙とか広げて自慢話を始めてきた。
「なるほど、ハーゼンガーシュって名前か。なかなかいい意味の言葉をもらえたな」ラザトが伸び切ったヒゲに手を当てながら言った。
「え、意味知ってるのおやっさん?」
「ああ、鉄の腕とか剛腕って意味だったか。その腕みりゃあ納得行くぜ」
などとすっかりラザトと意気投合していたイーグだったが……
ふと後ろを見ると、フードを目深にかぶった人間が、まるで俺たちに悟られないように部屋の隅にちょこんと座っていた。
グレーの薄汚れた服を着ているんだが、サイズが全然合ってない。袖も裾も長すぎてぶかぶかだ。まるで側にあった自分の服を無理やり着せたかのような、そんな違和感。
「あいつは?」
「ああ、バイト雇ったんだ……今回の一件ですっげえお客さんが増えたんで、配達してくれるのを募集したんだ」
「女の子をか?」
そうだ、女だ。裾が長くてちょっとわかりづらかったが、脚が細い。それに履いてる靴も上着同様、かなり大きい。
「え、あ、そう。よく分かったなラッシュ」
途端にイーグの言葉に焦りが見えてきだした。
直感した。コイツはウソをついてるって。
長年、人間を見続けた経験から分かるんだが、くれる金をごまかしたりする奴らは大抵の場合、ウソをついてる時はこっちを見なかったり、言葉を選ぼうとしてつっかえたりする。イーグも同じだ。
いや、コイツのことだから人さらいなんかする奴とは思えないし……
とりあえず、顔を見てみるか。
「あ、ちょっ、ラッシュ、そいつは……」
「いいじゃねえか、挨拶してえんだし」
なんかイーグは隠してるな。と背中に感じつつ、俺は彼女の元へと足を向けたのだが……
「ふう、相変わらず見る目が鋭いな、お主は」
彼女は立ち上がってフードを脱いだ。うん。何度も聞いたことのあるその声。
あふれんばかりの金色の髪が、ふわりとフードからこぼれた。
「やっぱりお前か……ネネ「エセリアじゃ」」
ヤバい、そうだった。
俺にとってはネネル。けれど他の連中にとってはリオネングのお姫様、エセリアだった。