マルデ攻城戦 6
俺のほかにも何人かの獣人が傭兵として参加していることは聞いていたし、それに何人かとはすれ違った。けどまだ俺が小さかったかどうか……そこんトコは見当つかないが、誰も話そうとはしなかった。
まあどうだっていいさ。別に俺も友達でも何でもないから。
今はラザトと、あのサイのおっちゃんさえ生きててくれればいいさ。あ、もちろん俺自身も。
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開戦の合図は大きく太い笛の音。
ブォーンと長い音が霧の奥から響いて、そしてサイがずしんと地面を震わせ、一直線に敵のいる真っ只中へと突っ込んでいく。
さて俺たちは……といえば、ずっと外れの方に草むらがあるから、そこへ待機だ。伝令が来るまで音は出さず気配を殺して……これが結構辛い。
しかし、遥か向こうからは敵味方入り交じった怒号が途切れることなく聞こえてきてるってのに、
俺たちは……くそっ、こうやってじっとし続けるのはほんと苦手だ。早く立ち上がって暴れたい。
だんだんと周りのイライラも頂点に来ていそうに感じられてきた、そんな頃合いだった。同様にしびれを切らした一人が抜け出して、本部へとわざわざ戻って聞きに行った……そんなバカがいたみたいだ。
でもそいつは予想以上に早く俺たちの前に姿を現してくれたんだ……
首と口から血の泡を吹いて。
最期の力を振り絞って、血まみれの口をパクパクさせながら言ってくれた、声にならない言葉。
「逃げろ、バレた」
直後、俺たちの背後から無数の矢が飛んできた!
背後から奇襲か。やるねえ敵さんも。
とっさに横に転がって、矢を避けつつラザトの元へと向かった。
「出るぞ!」
「他の奴らは?」
「知るか」
他の連中を心配するだけ時間のムダだ。それにあいつらだってそれなりに場を踏んだ傭兵だろ。こんなことで死んじまったら失格だ。
そう、作戦ってのは失敗した時の方にこそ面白味があるんだってことさ。
無意識のうちに俺は笑っていた。
そうだ、これからぐっと楽しくなるんだ、早く俺の前に姿を現してこい! 何人でもかまわねえ! みんなさっさと死なせてやるから。
「いくぜええええええっ!」
俺の声に合わせて数人の敵兵が霧の中から姿を現してくれた。まさに好都合だ。
まずは先頭のやつから……と。突き出した槍を紙一重で避けつつ、軽くジャンプしてその首筋へとナタの刃を力一杯叩きつける。
すぐさまそいつの手にしていた槍を奪い取って、隣の仲間の喉笛に突き刺す。
三人目が振りおろした剣を左腕で弾いた後は、そいつのガラ空きの左脇腹にナイフを……ぐっと奥まで。
「え……っ?」
側にいたラザトが驚いた目で俺を見つめていた。あいつが一人をようやく倒し終えた頃には、俺はもう三人始末していたから。
まあ驚くのも無理はないかな……?
「群れを相手にした時には一人だけを見るな、その真ん中を見ろ。相手の武器も自分の武器だ。殺す時は相手の胸から上を狙え……親方から教わったのはこんだけだ」
あとは……そう、戦場で編み出した俺なりのやり方だ。
「ふう……兄ィがお前を自慢すんのも分かるわ」
ラザトはくすりと笑って、そう返した。
だけどここで一息ついてるヒマはない。作戦がバレた以上、対岸の待機している部隊にも同様の戦力を向かわせているはず。
総崩れにならないうちに一人でも多く倒さなければ……!
俺とラザトは急いで声の中心へと向かった。