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高貴な血筋

「おいコラデカブツ女! ラッシュ殺したら俺がお前をブッ殺すからな!」柱に縛られたフィンがそう息を巻く。まるで俺みたいだ。

しかしマジでどうすりゃいいんだか。ジールに頼もうにもまだ酒が抜けきってないみたいで、今度はテーブルに突っ伏したまま寝てるし、ラザトは息子と口喧嘩し始めたわでもう。
こうなったら外でて決着つけるしかねえか……な。

「マティエ!」その時だった。扉を勢いよく開けて中に入ってきた奴……そうだ、遠征から帰ってきたルースだ!
「外で話は全て聞いた。ここにいるラッシュさんは僕のかけがえのない親友だ。殺すだなんて……なんで、そんなことを⁉︎」
「ルース様……」マティエが驚いた目で小さなその身体を見つめている。
つーか、ルース様……?

「考え直してくれ。一緒に誓ったじゃないか。家柄のしがらみは全部捨てようって」
「いえ……ルース様」
「様をつけるのもやめようって言っただろう」
「ル、ルース……分かってもらえなくてもいい、これはもう私自身の誇りの問題なのです。今これを見逃してしまったら、私は二度と前には進めなくなってしまうのです!」

ならば、とルースは腰に下げている、おそらくこいつ専用の小さなサーベルを抜いた。
「まずはこの僕と戦え。それが許せぬのなら、共に命を絶とう」
「ルース……それは、それはだめです!」
その言葉にルースは首を左右に振った。
「君の頑なな思いを変えないのなら、墓までそれを持っていくまでさ」

そうだ思い出した! この女……マティエはルースが以前イイナズケって言ってた奴だったか! となるとこれって夫婦喧嘩ってことになるのかな……? しかし俺のせいで殺し合いの喧嘩っていうのもますます意味不明だし。
「……はあ、誇りにがんじがらめに縛られるってえのも息苦しくねえのか? 貴族のお二人さんよ。二人ともまずは武器しまって話し合おうとか思わんのかい?」
「……すっかり覇気が抜けてしまったね、ラザト」
親方のその言葉に、今度は裏口から別の声が聞こえてきた。
初めて聞いた、まだ若い男の声。

「お……えええ⁉︎ シェルニ王子⁉︎」
コツコツと靴音を響かせながら、奥の暗がりから歩いてきたやつは……うん。ふわふわの赤いマントに金の肩当て、それにきっと高い生地の服。間違いない。めちゃくちゃ偉い奴だ。

「え、うえっ、ちょ、王子様が⁉︎」フィンも同様に驚いていた。
「シェル……いや、王子がなぜここに⁉︎」
「すまないルース。この宿屋の裏口が開きっぱなしだったものでね。勝手に入らさせてもらったよ」
そんな中、にわかに外がザワついてきたので窓を見てみると……ってえええええ⁉︎

町の連中がみんなこの中をのぞきこんでるじゃねえか!

「さて、マティエ=ソーンダイクにルース・ブラン=デュノ……そして傭兵ラッシュ。ひとまずはこの争いを私に預からせてもらえないかな?」

うん。もう俺には付いてけなくなってきた……

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