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スイーツに国境はない その4

 バレンタインデー以降、コンビニおもてなしの各店におけるヤルメキススイーツの売り上げはうなぎ登りです。
 新たにチョコレートがラインナップに加わったのも理由の一つですが、販売形態を若干見直したのも大きかったようです。

 今までは、ショートケーキやカップケーキ、ロールケーキなどを中心に販売していまして、どれもよく売れていたのですが、カップケーキやロールケーキのミニサイズを作成して、より安価にして販売し始めたんです。
 これは、チョコレートをですね、チ○ルチョコレートみたいに小さくして、安価で販売したところ、それに子供達が群がったのを見て思いついたんです。
 いえね、今までのショートケーキやロールケーキもそれなりに値段は抑えめにしてはいたのですが、子供達が自分のお小遣いで買うにはやはり高額だったみたいなんですよね。
 それを、チョコレート販売の際に感じた僕は、ヤルメキスと相談して小型で安価な商品を作成・販売することにしたのですが……これが大当たりしているわけです。
 僕の思惑どおり、この安価なお菓子を求めて子供達が自分のお小遣いを握りしめてやってくる姿がすごく多くなりました。
 正直、薄利多売であまり儲けはありませんが、子供達が笑顔でスイーツを購入し、嬉しそうに食べる姿をみるにつけ、
「うん、やっぱりやってよかったなぁ」
 心からそう思ったわけです、はい。

 また、新商品としてクッキーも作成して販売し始めています。
 複数枚を袋詰めにした物と、木の棒に何枚かを突き刺した物を準備したんですよね。
 で、木の棒の方の商品はスクリュークッキーって名前にしてみました。
 どちらもなかなか好評で、販売開始から連日全ての店で売り切れ続けています。

 で、そのクッキーもですね、当然オルモーリのおばちゃまが買っていってくれました。
 ですが、最近のオルモーリのおばちゃまの購入の仕方が少し変わってきているんですよね。
 以前でしたらヤルメキススイーツの新製品が店頭に並ぶと同時に店に押し寄せて来て、
「おばちゃまね、全部いただくわ」
 と言いながら、棚の中身をすべて空にして帰っていたんです。
 それが、最近はいつも夕方のお茶の時間前にやって来て、その時間に売れ残っている商品を購入して格好になったんです。
 しかも、他のお客さんがオルモーリのおばちゃまが購入した後に
「あ、ヤルメキススイーツが売り切れてる……」
 といって残念そうにしていると
「あのね、これねヤルメキススイーツ。おばちゃまね、買ったけどちょっとお腹がいっぱいみたいなの。良かったらもらってくださらない?」
 笑顔でそう言いながら、自分が買った商品を差し上げているんですよ。

 で、そのことをオルモーリのおばちゃまに聞いた事があるんですが
「あのね、おばちゃまはね、ヤルちゃまと一緒に暮らせるようになったの。ヤルちゃまのスイーツをね、パララランサちゃまと一緒にね、いつもいただけるの。だからね、今度はね、ヤルちゃまのスイーツの素晴らしさをね、一人でも多くの方にね、知って欲しいのね」
 そう言って、ニッコリ笑うんですよ。
 ……おかしいな、なんか目から汗が流れ出して止まりません……

 そんなオルモーリのおばちゃまのお話に感動している僕の元に

 ウルケモチーノとマルンが戻って来ました。
 正直、余韻が台無しです。
「あ~、お前達、神界に帰ったんじゃなかったの?」
 冷たく言い放つ僕を前に、ウルケモチーノは
「まぁ、そのクールでワイルドなお言葉、このウルケモチーノさらに惚れました」
 そう言うが早いか、ウルケモチーノは宙に舞い上がりました。
 ウルケモチーノの軌跡にあわせて彼女の服が一枚ずつ脱げていきます。
 で、ウルケモチーノは僕に向かってまるで飛び込みのような姿勢で突っ込んで来ています。
 これ、あれですね
『ふ~じこちゃ~ん』
 ってベッドにダイブしていくルパ○ですね。
「た~くらさま~、結婚して~」
 そう言いながら僕に迫るウルケモチーノ。

 で

 次の瞬間、ウルケモチーノの姿が消え去りました。
 服は残ったままです。

 そんな僕の横には、魔法樹の杖を構えたスアの姿がありました。
「……ホントしぶとい、わ」
 スアは魔法樹の杖を片付けながらぷぅ、と頬を膨らませていました。

 ……ウルケモチーノってば、今度は真っ裸で服もない状態のままどっかに飛ばされたようです。
 まぁ、女ですけど神界人だし、なんとかなるでしょう。
 っていうか、ヤルメキスにひどいことをしようとした女なので、僕も容赦する気は一切ありませんけどね。
 
 で、今回は飛ばされることなくこの場に残っていたマルンはですね、
「なんかもう、ほんとすいません」
 って言いながら、その場で土下座しています。
 なんといいますか……半身が養女で半身が骸骨の、どう見ても悪魔な人が土下座してる様子って、ちょっと異様な光景です、はい。
 
 で、マルンに今回の事情を聞いたのですが……
「その……私の部屋から甘い匂いがしているのを、あのウルケモチーノ様にかぎつけられまして……
 散々問い詰められ、仕方なくスイーツをお分けしたところ
『こんな美味しい物、あんな下界にはもったいないわ! 神界のために作らせましょう!』
 って言い出してしまいまして……」
「その挙げ句、ヤルメキスをこき使おうとしたってのかい? 悪いけどそれは絶対に許可しないよ。コンビニおもてなしの店長として、僕は店員を守る義務があるからね」
 僕は、あえて強い口調でそう言いました、
「あ、はい、それはもう重々承知しております……実は、ウルケモチーノ様も散々お止めしたのですがどうにも聞き入れてくださらなくて……本当にご迷惑おかけしてすいませんでした」
 マルンはそう言うと改めて頭を下げていきました。

 で

 その後、マルンと話合いを持った結果。

「あの……店長さんさえよろしかったら、このお店のスイーツをですね。仕入という形で購入させていただけませんか?」
「仕入?」
「はい。今のままでは、私がまたこの店にスイーツを購入しにこようとした場合ですね、違法な手段を用いるしかないのです。
 ですが、私がこの店の品物を仕入れて神界で販売すると言うことにすれば、この世界との往来許可も下りるのではないかと思いまして……」
「ふ~ん、なるほどなぁ」
 僕は、ヤルメキスにも相談したのですが
「は、は、は、はい、私のスイーツを喜んで頂けるのでしたら、そりゃあもう」
 と、承諾してくれました。
 で、僕的にもですね、オルモーリのおばちゃまの精神にのっとりまして、この話を受けることにしました。
「でもさ、マルン。くれぐれも自分で食べ過ぎて、実は神界ではほとんど販売していませんでした、なんてことにはならないようにね」
「そ、そ、そ、それはもう……」
 ここで冷や汗を流していたマルンの様子に若干不安を覚えましたけど、まぁよしとしましょう。

◇◇

 で、この話をですね、マルンが神界に持ち帰ったところ、最初は
「そんなこと許可できるわけがありません」
「しかも今の仕事を辞めるですって? 言語道断ですわ」
 といった感じで、相当数の上司の女神達に反対されたそうなんですが、ここでマルンが試食としてヤルメキスのスイーツを女神達に配ったところ、
「何、これ、美味しい!」
「こんな美味しいスイーツ、はじめて!」
「これなら許可してもいいわ! いえ、むしろやりなさい!」
「そうね、あなたの代わりぐらいいくらでもいるしね」
 最後の一言に若干傷ついたらしいマルンですが、まぁ、試食のおかげで無事許可をもらえたそうです。
 で、マルンは貯金をはたいて神界の商店街の一角に小さな店を出しました。
 店名は「ヤルメキスのスイーツショップ」にしてもらいました。
 これを聞いたヤルメキスは
「ひょ、ひょえええええええええええええええええええええええええええええ」
 見事な後方でんぐり返りをした後、土下座して
「お、お、お、恐れ多すぎるでおじゃりまするぅ、せめて、せめてコンビニおもてなし神界店で~」
 って言ったんですけど、
「ヤルメキス、この神界の店はヤルメキスのスイーツのおかげで出来た店じゃないか。胸をはってくれよ」
 僕はそう言ってヤルメキスの肩を叩きました。

 それでも辞退しまくろうとしたヤルメキス。
 ですが、最後にはどうにか了承してくれました。

 こうして、僕達コンビニおもてなしの系列店が神界にオープンする事になりました。

 それを聞いたオルモーリのおばちゃま。
「おばちゃま、これで向こうでもヤルちゃまのスイーツを……」
 そう言いかけたオルモーリのオバちゃまの口を僕はそっと右手で塞ぎました。
「ダメですよオルモーリさん。まだ2人の子供と一緒にヤルメキスのスイーツを食べるって夢を叶えておられないじゃないですか」
 僕がそう言うと、オルモーリのおばちゃまはニッコリ笑いました。
「そうね、そうよね、おばちゃま、まだまだ頑張らないとね」
 そんなオルモーリのオバちゃまと、僕は顔を見合わせながら笑い合いました。

 ……そういえばウルケモチーノはどこまで飛ばされたんだろう?
 ま、いっか。

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