クレーム
管理者という存在は、無数に存在する世界の数だけ存在する。減ることがあるので同数というわけではないが、とにかくかなり多い。
その中には、人に恋した管理者というのも存在する。人の始祖を創造したのは管理者なので、自身が創造した作品に恋をしたようなものだろうか。
随分とまたナルシシズム溢れるとも言えるが、まぁそんな話はどうでもいい。
とにかく、人に恋した管理者というのは多くはないが存在する。その中には人との間に子を成したような管理者も存在した。
管理者というのは本来性別が存在しないのだが、創造する力はあるので、その辺りは自力で解決したようだ。
さて、どういう因果か、その管理者と人の間に生まれた子がハードゥスに流れ着いてきた。親である管理者から溺愛されていたようで、かなりのリソースがその子に割かれていたらしい。もっとも、それでも現在のハードゥス基準で言えば標準ぐらいかそれ以下だが。
更に厄介なことに、その子は親が誰か知っていたらしい。といっても、管理者ではなく神としてらしいが。
つまりは半神とでも言えばいい存在だと思っているらしく、随分と傲慢な性格をしていた。
元の世界ではそれでも強大な力を有していたので問題はなかったようだが、前述したようにハードゥスではそれも普通の範囲でしかない。しかも、ハードゥスの管理者はれいである。つまり別の管理者なので、半神とはいえ許されるものではない。
結局、漂着して直ぐに癇癪を起してネメシスに攻撃してきたのでその場で処分されてしまった。酔狂な管理者の愚行ではあるが、その程度であれば他の管理者の行いに口を挿むつもりもないので、れいは他の報告と一緒にそれを処理する。
だが、何処から伝わったのか、少しして親である管理者がれいへと抗議に来た。ハードゥスは他の世界とは別なので、その抗議は全くの無駄なのだが、よほど可愛がっていたらしい。
しょうがないのでれいは、向こうから手を出してきたから処分したことを教えてやったが、それで怒ったらしくれいへの抗議が苛烈になった。
れいとしては親切で教えてやっただけなので、相手が何に怒っているのか理解出来なかった。だが、とりあえず煩いというのは確定したので、邪魔なのでれいの裁量で処分しておく。
ハードゥスの管理に戻ったれいは、それにしてもとふと思う。
「………………はて、そういえば何処で知ったのやら」
最初に尋ねたきりで結局知ることは出来なかったが、ハードゥスでの出来事を何処で知ったのかとれいは考える。
「………………いえ、そういえば詳しくは知らない様子でしたか」
れいはハードゥスで処分したという内容を伝えた時を思い出して、どうやら先方はハードゥスに流れ着いたというところまでしか知らなかったようだと思い出した。そして、そこまで分かれば問題ない。外の世界の流れは全てハードゥスに行き着くというのは、少し調べれば誰でも辿り着けるのだから。
つまり、世界の穴に落ちたかして世界の外に出たところまで分かった後、近隣の世界を探し回り、最終的にハードゥスに辿り着いたのだろう。途中で別の世界に流れ着くこともあるのだが、最も可能性が高いのはハードゥスなのは変わりない。
「………………それにしては最初から煩かったような?」
そこまで考えて、そういえば最初からハードゥスに流れ着いているというのを確信しているかのような物言いだったのを思い出したれいは、報告にあった対象が流れ着いた日から考えて、先方が到着するまでの期間が結構短いということに気がつく。探しながらだったとしても、他の世界は大して探していないのだろう。
「………………ということは、何処かで何かを知ったか、何か確信でも持ったかでしょうか?」
それについては不明であった。道中に情報通な管理者は居ないので、もしかしたら自身の子という部分が関係しているのかもしれない。
「………………最初に調べてみてもよかったかもしれませんね。今度からそうしましょう」
あまりにも興味が無かったので調べるという行為が思い浮かばなかったれいは、今度からはどんなに興味が無くとも、とりあえず最初に相手を調べると頭の片隅にメモしたのだった。