特殊メイク
「よっし、こんなもんだな！」
『ふーっ！ やっと開放されたわぁ！ ……って皆どうしたの？』
りっくんの魔改造によって生み出された謎生物を前に、一同、固まるのであった。
『……え？ 誰なの？ あれ？』
「ほわぁ……凄い……っ！」
＜え？ 何？ 手品？ 何かトリックがあるの？？＞
……俺の喪女さんはどこ逝ったぁ！？
『逝ってねえしお前ぇのでもねえよ！？』
「そうだぞ、てめえ。これは俺のだ」
『はい？ まったまたー。りっくんは何時も冗談ばっかりなんだから』
「え？ うそ、でしょ……小娘。気付いてない、の？」
「え？ ええ？？」
＜えー？ りっくんマジでぇ？＞
「てめえにりっくん呼ばわりされるのは虫唾が走るが、まぁそういうこった」
気を強くもて。
「持ってるっての。それにもう俺は遠慮しねえ事に決めたんだよ」
『何だろう……この置いてけぼり感。あ、でもね、りっくん？ 魔王の器には問題があるのよ？』
「おう、知ってるし気付いてるよ。コレのこったろ？ なぁ！ 勇者っつったか！？ そうだな！？」
『ああ、うん……ええ？ こんなに変わるの？ あの干物みたいな娘が？』
「おう、俺の質問に答えろや？」
とりっくんが虚空を鷲掴みにすると、
『あいっ！？ あ痛たたたぁ！？ ええ？ どうやってるのそれ！？』
「二度は聞かねえ。次答えを間違えやがったら触れる状態にして可憐に突き出す。コレ、だろ？ 元凶ってのは」
『ぃやめてぇ！？ ……って、ええ？ これ、あ、そう、だね。多分コレだ……。どうやって特定したの……』
「よし。俺のちゃんとした二度目の人生のためにコレにナシつけにくぞ。てめえも来い。あ、可憐は戻っとけよ」
『え……何言って……あああ！？ 僕を巻き込むつも、あっ！ ちょ、ちょっとまっ……』
「てめえの事情に巻き込まれてんのはこっちだ、ボケ」
喪女さんをフローレンシアへと放り投げ、勇者さんを鷲掴み？ にしたまま一瞬光る、りっくんin魔王の器。
『ぎゃあ！？ りっくん私の扱いが相変わらず雑っ……』「だわぁ！？ ……あれ？」
それを最後に、りっくんも勇者も何の反応も示さなくなった。ただそこに立ち尽くす、魔王の器のみが佇んでいた。
「ああ、これは随分と深い所に潜っちゃったわね。交信できないわ」
「ううっそ……りっくん、せっかく会えたのに」
「あの子がアンタを諦めるとは思えないからまた会えるわよ」
＜そうねえ＞
「（コクコク）」
やめろ。喪女さんには分からねえ。
「それもそうねぇ……」
＜不憫なりっくん……＞
「あれぇ？ 何でディスられてる気がするのかしらぁ……」
結局この後、やれることの無くなってしまった一行は、扉を抜けて古城へと戻るのだった。そこでメイリアに関する一悶着があるのは言うまでもないことだろう。ということで只今メイリアとフローラは、連座で説教されております。
（あれぇ？ 何で私も？ 今回私が悪かったことってあったのかしら？）
メイリアに心配させた結果とも言う。
（あっはい。ソウデスネ……）
特にミリーはぷんぷんだった。激おこぷんぷん丸だった。変身前の喪女さんいわく、である。けして俺が言ったのではない。え？ おれがそんなげふんげふん。
（何故わざわざ『変身前の私が言ったこと』の部分を強調した？ そして変身って何？ あとわざとらしく言葉を貶めようとするな？）
喪女さん以外に貶める相手は居りませぬ。断じて。
（そこまで私に焦点を置くのは何故かしらぁ！？）
ちょれがー、わたちのー、いきがいー、たからー
（……程々にしときなさいね？）
すみません。
あ、ちなみに黒い繭の中に入るには、魔王さんの代役inジュリエッタが居れば行けるそうだ。
（代役て……）
「ちょっとフローラ！ 聞いてますの！？」
「はい、聞いてます。ミリーは可愛いなぁって話ですね」
「一文字も合ってませんわ！？」
「え？ ミリーはくっつくと赤くなる話でしたか？」
「んもう、んもう！」
「いや、ミリー。今回のは私には不可抗力だと思うのよ？ 私？ 悪く？ なぁい？」
「フローラは秘密主義過ぎ」
「ぇー？」
「色々問いただしたい所だが、フローラはアメリア様方から呼び出しがかかっている」
「そうだね。残ったメイリアには詳しく聞くつもりだから、フローラはそちらへ急いでね」
「はーい」
「ええ！？」
置いてっちゃうの！？ ってヘルプアイがフローラに突き刺さる。
「メイリア……がんばっ♪」
「フローラぁ！？」
爽やかな笑顔でサムズアップして去るフローラに、メイリアの怨嗟の声が放たれる。それをひらりと躱し、下級貴族用の小さなサロンを抜ける、友達甲斐の皆無で酷薄な喪女さんであった。
（ちょ、おま、言葉の選び方がエグすぎる！？ 皆無とか酷薄とか酷過ぎね？？）
ちゃっちゃと移動しなっ。ほんとのろまな喪女だよ！
（えー……なんで意地悪な継母風？）
………
……
…
フローラがメイリアを見捨てて去った後の話。
「さて、話を聞こうかな？ メイリア嬢？」
「あ、あの……すみませんでした」
「んもう！ 危ないことなさるんですから！ ……あちらでは何がありましたの！？」
「えと、えと……すみません、言葉にできないです」
「禁止？ それとも分からない？」
「両方……かな？ ごめんね、ベティ。私も混乱してるの。フローラの中身が変身しちゃうし、幼馴染があらわれて『俺のものだ宣言』してどこか行っちゃうし」
「「俺のもの！？」」
男子ーずが声を揃えて食いつく。中身の話は聞こえなかったか。
「ど、どういう意味！？」
「こ、言葉通りの意味かと……」
「相手はどんなやつだ！ 是非腹を割って話をせねば……！ 場合に寄っては拳を交えてでも……」
「えっと拳をとかって……多分誰にも勝てない？ かなぁ……」
「そ、それほどの奴なのか……」
「私の知る限り一番強いかも……」
「オランジェ様より！？」
「た、多分……」
メイリアの言葉に狂喜乱舞するベティとは逆に青ざめる男子ーず。ちな、ミリーはおろおろしてるばかりだった。
………
……
…
ちゃーららーらー♪ くるりん♪ 所代わって喪女サイド。
（どこぞの可変機構付き、ロボット生命体みたいな切り替え方しないでー）
「「「「………………」」」」
「「「「………………」」」」
別格貴族達揃い踏みの中、その視線は余す所無くフローラに突き刺さっている！ ちなみに呼ばれた先は会議室のような場所で、机を挟んで女性陣と男性陣に分かれていて、フローラは入り口に近い側の男性陣の近くにいるぞ。男性陣の内、アーチボルドだけ、不思議そうにしてる。多分話について行けてない。
フローラは男性陣からの尋問の後、女性陣にも尋問される！ やったね！
（ハリネズミネタ好きねぇ……。あと良くはねえよ？）
そしてその視線の針山に居た堪れない雲丹ン女は
（無理に私が提示しちゃったネタを外そうとしなくて良くない？）
うるさい喪女だなぁ。じゃあ黙ってやるからどうにかしろ。
（うぇ！？ 御免なさい！？ この場に一人きりは辛いわ！ ……え？ マジで黙る気！？ おーい！）
「フローラ嬢」
「ひゃいっ！？ 何でしょうかクライン先生！ ……あいや、呼び方変えた方がよろしかったでしょうか？」
「そのままで構わんのである。我等が帰った後、何があったのか？」
「是非フローラ嬢に説明してもらいたくてな」
中でも最も眼光鋭くフローラを射る視線の持ち主、それは
（うひぃ……ディレク皇子。そしておかえり。あんたでも居ないよりまし）
ただいま、そしてそーですか。にしても睨んでいても絵になる皇子だった。
（ぇ？ アンタが言うのそれ？）
「りっくん、リッキーの話でよろしかったでしょうか？」
「それだ！」
「ひぃっ！？」
「ディー、落ち着いて」
「いやエル兄、しかしだな……」
「ジュリエッタ嬢が変わってしまったかも知れぬ故、焦りは分からぬではないが……」
「クー兄！？」
「お？ おー……おお！？ え！？」
と、喪女さんが気色悪い視線をディレクに向けると、
（気持ち悪いて何さ！？）
ディレクが引き攣った顔をフローラに向ける。あー、見ちゃったかぁ、獲物見つけたおばちゃんの笑顔を。
（ちょっとぉ！？ 微妙に否定できないディスり方するの止めて！？）
「ぐ………………ジュリエッタに、何があったか聞いても、良いか？」
「りっくんは男ですよね」
「うん？ ああ、そうだ……な」
苦虫を噛み潰したような顔でディレクが頷きを返す。男が意中の女の中に居たとか、腸煮えくり返りそうな状況よな。
（それな）
「魔王様の中の人は女性でした」
「そう……なのか」
「なので、入れ替わりました」
「 ！！ 」
ガタッ！ と椅子を揺らして立ち上がる皇子。ちょっと怖い。
（び、びびったわ……）
「で、ではリッキーがジュリエッタの体に戻ってくることは……」
「な、無いと思います……」
「（ぐっ！）」
無意識にガッツポーズをとる皇子。そないに嬉しいんか、おばちゃん、もらい泣きしそうやわ、良かったなぁ。
（誰がおばちゃ……あー！ はいはい！ そうですね！ そしてそれ絶対泣かへんやつね！ 全く……）
「私もそうですが、記憶の統一が進めば、魔王の代役さんなりのジュリエッタ様が誕生すると思います。……ですから皇子？ 陥としたいならここからが勝負ですからね？ 始まったばかりなんですから」
「あ、ああ……肝に銘じておく。……陥とす！？」
と獲物見つけて早速嘘を教えてた喪女さんでした。
（何が嘘なのよー）
魔王さん、いや中身さん、皇子のことはどストライクやったやん。
（そこを教えちゃったら努力しなくなるじゃん。乙女様は苦労したんだもの。甘酸っぱい青春時代をプレゼントしなきゃ）
まぁそうだな。頑張れ皇子。
