婚約フラグ
「ねぇ? バミィ? 何の? 何の筆頭なのぉ?」
「め、メアラ姉……いや、あの、その……ね?」
突然のメアラ襲来にキョドるバモン。一方……
「あらぁ? どこへ、行っちゃうの、かしらぁ? ま・り・お・様ぁ?」
「ぅぇ!? ぼ、僕は関係ないかなぁ? と」
逃げ腰だったマリオにメアラがロックオン!
「あらそうぉ? これからステラ様にご挨拶に伺うのだけど……グラジアス家、としてね?」
「!?」
マリオが息を呑む。わざわざ家名を出して会いに来たと宣言するのには意味がある。『未来の嫁候補として、見に来ましたよ?』と。ああ、こんな時、魔王さんがいれば盛り上がるのになぁ。
「逸るなステラ」
「あら大姉様、早いもの勝ちだと思うのよ? あれであの子人気なんだから」
「あら、そうなの?」
「ええ、姉様。私も何故かは分からないのですが、あの貴族らしからぬ所が人気の秘密なんでしょうかね?」
「気安ぃ〜ってぇ、意味かしらぁ?」
「そうですのよ? 小姉様も興味津々だったではないですか」
「(ニッ)」
「そうですわね、末姉様。あの子は割と『分かる』側の子ですわね」
2女だけノーマル呼びか。でも中があったら、大中小末……おみくじかな?
「(何で会話が成立してるんだ?)」
マリオはマリオで困惑していた! ……まぁでも家族あるあるのツーカーだろうか? 代名詞だけで会話の成り立つおばちゃんたちみたいな?
「「(ギロッ!!)」」
うへぇ!?
「……(フンスッ)」
「そうですわね、末姉様。私も何やら不愉快な気配を感じましたわ」
……怖すぎだろ。何その超高性能センサー?
「ここで話をしてるのも何だ、挨拶に行くぞ」
と、長女姉様と次女姉様が一同を引き連れてクロード家の下へ移動を開始する。ちなみにバモンは姉様方に、左右後ろを固められている! メアラが左腕をホールド、4女姉様が右手を繋ぎ、3女姉様が後ろからギュー……って何だこのハーレムホールドは。家族でさえ無ければ天国だな! ……家族だからこそ地獄なのか?
「おう、ザルツナー辺境伯夫人。先程ぶりだな」
「お招き有難く、だ。ハトラー伯」
従家の主人と主家の奥方とのやり取りとは思えないくらい気安いやり取りだった。周りの反応も、当事者以外はぽかんとしている。
「馬鹿共の処断で聞き忘れておったが、坊っちゃんは元気にしておるか?」
「ああ、元気にしている。柔和な性格はしていても、武家の人間であるからであろうな」
「では子も更に増えそうだな。ハァッハッハ!」
なんと豪快なセクハラか……。
「……そうだな」
「って、お父様? いくら主家の当主様が弟子だったからと言って、気安過ぎますわ? それと……夫婦のお話を大っぴらにされるのは如何かと……。夫人も困っておりますでしょう?」
「そうよ? 貴方。あまり考えなしですと、ちょっとばかり長いお話をする必要が出てきますわよ?」
「うぉっ!? いや、あの、な? その、すまぬかったザルツナー辺境伯夫人。主家の奥方に気安過ぎたのと、配慮の無い物言いをしたこと、謝罪する」
「いや、後半はともかく畏まらないでくれ。そちらの方がこちらも気安い」
「そ、そうか? ハァッハッハ! 許してくれるそう……だ、ぞ?」
「「………………」」
無言の槍視線が鬼将軍をハリネズミに変える! ……所でフローラは何で静かなの?
(何しに来たの!? 何しに来たの!? 何しに来たの!?)
言われないと何のネタかわからないぞ? 3点。
(何点中で!? ってどうでも良いわそんなこと! ヤバイヤバイヤバイ……)
そんなフローラさんに質問です。バモン君は今どこに居るでしょう?
(は? 何でバモンくふぅっ!? 何あの状態?? 思わず吹くところだったわ……)
バモンはお姉様方にブラコンホールドされていた!
(ぶふごっ!? あぶねえ!? 一発目は耐えたのに! 本気で吹く所だったろうが!?)
俺のコーヒーを返せ! みたいな?
(説明!)
お姉様方が本気になった結果。
(ナニソレ!?)
「フローラ、さん?」
「はひっ!?」
「今日はね? 貴方にね、大事な用があってね? 伺ったのよぉ」
「ななな、なんでしょう!?」
「その前にぃ、まずは誕生日、おめでとう」
「「「おめでとう」」」「(ぐっ)」「お、おめでとう」
(相変わらず4女お姉様は小っこくて仕草が可愛いな……。バモン君は……うん、イキロ)
「あ、有難うございます……?」
「でねぇ? 以前、フローラさんの、お・い・た……でぇ、ほんの、すこぉし、出た、話なんだけどぉ、覚えてるぅ?」
「え? あ、ああ! はい! 覚えております!」
「キープ、って事で、良かったのよ、ねぇ?」
「その通りで御座います!」
その瞬間、ゼオルグから絶対零度の波が押し寄せた! しかしお姉様方には効かなかった! マリオは怯えている! 女の子ーずはステラとお祖母様が壁となって無事だった! ただし、ベティは興奮している! 安定だ! そして肝心のバモンは、
(そんな交換条件みたいな話、聞いてないぞ!?)
と憤慨していた。……ちょっと怯えながら。
「でねぇ? 正直な話をぉ、聞いておきたいのよねぇ」
「……正直な話ですか?」
「(コクリ)」
「ええっと、具体的には……?」
「フローラよ。うちのバモンをどう思う? 正直な意見を聞かせてくれ。誰にも文句は言わせん。歯に衣着せぬ本音を聞かせて欲しい」
「むー! むー!」
ブラコンホールドがバモンの口にまで及んでいた! しかも器用に左右の姉達まで暴れるのを押さえ込んでいる! オクトパス・ブラコンホールドだ! 3女姉様も、体は小さくても流石グラジアス家といったところか。
(訳の分からん解説入れるな)
「えっとですね? (チラッ)」
「(コクリ)」
「(チラッ、チラッ)」
「「(コクリ)」」
「(すぅはぁ……)えー、ぶっちゃけますとですね、そこな男爵の当代当主であるマリオ様と同じく、胡散臭いと思ってます」
「(!?)」「ええ!? 巻き添え!?」
「「「………………」」」
バモンは致命傷を負った! マリオは被弾した! 女子ーずは、頭の上にはてなマークが飛び交っている!
「……どういう所を見てぇ、そう思ったのぉ〜?」
「ええっと、以前、その……怪我をさせ、ましたよね?」
「えええ! そぉねぇぇええ!?」
「うぇっっひぃやぁ!?」
「静まれメアラ。話が聞けん。フローラ嬢、先を続けろ」
荒ぶるメアラに、バモンの左腕が犠牲になった! しかし、心に深刻なダメージを受けたバモンはそれどころではないようだ。……ミチミチいってるけど痛くないのかね?
「(ぶるぶる)そ、それでですね? 介抱していたのですが、目を覚ましたバモン君に怯えられてですね……」
「(ハッ!?)むー! むー!」
「『これでも長男なので未来だけは奪わないで下さい』って……」
「………………(ガクッ)」
「だからいばりん坊キャラっていうか、ガキ大将キャラって作ってるのかなーって……」
「(ボソッ)バミーは優しい子」
「そうですね」
「(ぐっ)」
サムズアップする末姉様。カワユス。バモン哀れ、鬼畜喪女によって化けの皮を剥がされる。
(ええぇ? 皆知ってるんじゃないのぉ?)
と、喪女さんが周りを見回すと、女子ーずもマリオも驚愕の表情を浮かべている。バモンはさめざめと泣いて……はないが、煤けている。
(あっらぁ……?)
「では、現時点ではバモンに魅力は感じていない、と?」
(おっと……)
「魅力はありますよ? 見目も良い方ですし、体格だって大きいですし。貴族としても家格が釣り合う上に、うちも武家の家柄ですから。ただ、好きかどうかと言われたら……全く」
バモンは色が無くなった! 透明化しそうだ! フローラは鬼だった!
(なんでよ?)
「ま、全く? なの?」
「はい。そうです。将来的にはどうか分かりませんが、現時点では全くですね」
「そんなにもぉ、色々評価ぁ、してるのにぃ?」
「条件が良いのと好きになれるかは別物です」
「(コテリ)」
(もう、仕草が可愛いんだから……っ)
「えっと? 4女のお姉様の仰りたい事は、バモン君はお薦めなのに何故脈なしなの? ってことですか?」
「(コクリ)」
「本音で語らえない間は無理ですね。仮面を付けるてるのがもう素の一部になっていたとしても、です。私は仮面を被ったまま、支えていけるほど器用ではありません」
「そぉ、なの、ねぇ」
「うひっ!? は、はい、そうなんですわ!」
「それってぇ、私がぁ、原因じゃ、無かった? ってことでぇ、良いのかしらぁ??」
「え? メアラ先生がですか? そんなの無いに決まってるじゃないですか」
「へ? 決まってる? ……の?」
「私、メアラ先生のことは嫌いじゃないですよ? どっちかって言うと、生徒思いなのを知ってますから好きですし」
「でも、貴女、良く、私に、怯えて、いるから……」
「いやぁ、だってどう考えても怪我させた私が悪かったわけですもん。気まずいに決まってるじゃないですか。そりゃあ理不尽な怒りに対してだったら抗議だってしますけど。結局の所、メアラ様が私に怖かったっていうか怒ってたのって、家族のことが大好き過ぎるお姉様ってだけですし。であれば、ただ申し訳無くて強くなんて出れる訳ないですよ?」
「「「………………」」」「(コクコク)」
4女姉様以外のお姉様ずは固まった。4女姉様は分かる分かるとばかりにうなずきを返す。
「そうなのねぇ。フローラ嬢はぁ、色々とぉ、懐が深いのねぇ」
「え? そうですか?」
「(コクリ)」
「あはは……自覚は無いんですけど……」
自覚すべきことは沢山あるのにな。鈍感鬼畜喪女め。
(貶めないと気がすまないのかしらぁ!? 後、鈍感って何よ!? どこにそんな要素があったのさ!?)
そもそもフラグとか以前の問題だった。凄いよフローラさん!
(会話にならない……)