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魔道具の流行

 ハードゥスは日々発展し、イベントもそれなりに起きてはいるが、それでも管理者視点で言えば穏やかなもの。世界の管理は日常の繰り返しで何とかなり、悩みも主に溜まる在庫ぐらいのものだろう。
 人と魔物の戦いは予想通りに魔物が支配領域を取り戻していったものの、人の領域の三割を奪ったところで反撃にあい、結局はほぼ元に戻ってしまった。一連の戦いは長期に及んだので、互いに疲弊してそれ以上の戦いには発展しなかったが。
 ただ、大陸によってはそうはいかなかった。特に被害が大きかったのは、人の楽園だろうか。
 海を渡って人の楽園へと攻めてきた魔物の軍団は、大陸を渡った中では最後の軍団で、他の大陸へと侵攻した経験を基に技術を改良していった結果、もっとも数が多く疲弊も少なく済んだ軍団であった。
 それに対した人々は、まず国を越えて纏まるのに時間が掛かった。それに、その大陸には地上には弱い魔物しか存在しないので、魔物に対するノウハウが乏しかったのも被害が拡大した原因だろう。地下迷宮ではそれなりの強さの魔物と戦えるとはいえ、閉ざされた地下迷宮と広大な地上では戦い方が異なるのは道理というもの。
 その他にも、大きな戦いがあったばかりで大陸全体で疲弊していたなど諸々の事情から、人側は不利な状況が続いてしまった。
 その間に魔物側は拠点を構築し、増援を連れてきたりと地盤固めを主として行っていった。その結果、人の楽園だった大陸に新たに魔物の勢力圏が誕生する。こうして、人の楽園だった大陸は次なるステージに移行していった。
 もっとも、魔物の侵攻で上手くいったのはこの大陸だけ。魔物が侵攻した大陸は他に二ヵ所だけだったが、どちらも最終的には元々の状態に戻されただけだった。
 さて、そんなことがあったために、別の大陸という存在が広く知られることになった。おかげで長距離航行が可能な船の開発が急速に進展し、とうとう完成する。
 しかし、それで大航海時代の到来とはいかなかった。やはり海を越えられはしてもその際のリスクが大きすぎたのだ。もっとも、だからといって空に、とはいかない。技術が無いというのもだが、空路だって渡るのは難しいのだ。魔物達もそれなりに犠牲を出して大陸を渡っていたほどなのだから。
 まぁそれでも、海の次は空に目がいったのは良い流れなのかもしれない。
 そういったイベントがあっても、管理者としては平穏と評する。れいには世界を管理した知識があるので、それぐらいの変化は許容範囲内だった。
 かといって暇だったかといえば、そうではない。世界の管理や見回り、管理補佐達の働きの評価などなど日常といってもやることは多いので、平穏でも暇ではない。途中途中でペットを愛でる時間を作るのが精々。
 そうした激動の日々を過ごした結果、最近の人のトレンドは魔道具となっていた。呼び名は他にもあるが、それが一般的にも広く出回り始めたのはつい最近のこと。家事など日常のちょっとした仕事の手助けをしてくれる魔道具がかなりの種類売られている。それも一般人にも手の届く値段で。
 用途も様々。黎明期とでもいえばいいのか、使える物から何の役に立つのか不明な物まで玉石混淆。それらをただ眺めているだけでも飽きないほどだろう。まぁ、この流行りも平和な場所でのみではあるが。
 そんなわけで、魔道具職人というのは注目の的である。
 そもそも魔道具とは何かだが、簡単に説明すれば、土台に記号や線などで構築された魔法陣を刻み、それに特殊な液体を流して固めたものである。魔法陣に魔力を流すことにより、魔法が行使されるわけだ。
 さて、ではそもそも魔法とは何かだが、様々ある名称は横に措くとして、魔法とは、行使者の概念を介して魔力により生み出される現象のことである。
 では、魔法陣ではどうやって魔法を生み出しているのかと言えば、目的の魔法を構築する要素を記号などで簡略化して組み合わせることで行使するのだ。
 では、その記号などは誰がどうやって決めているのかと言えば、それを決めているのはその世界の管理者である。つまりハードゥスで言えばれいである。魔法陣に対する記号に関しての資料は、実は昔に魔道具作製の技術を持つ者が流れ着いた時にれいが密かに渡していたのだった。それも各大陸同時に。無論、魔人と言われる知能ある魔物にも。
 今の流行りはそれが徐々に拡がった結果ということになるのだが、結構時間が掛かってしまった。秘匿技術としていたというのもあったが、最大の理由は単純にそれだけ難解だったということ。
 まだ魔道具というのがマイナーな頃は、魔法陣に必要な道具や材料を集めるのも大変だし、魔法の要素に対する記号なども細かすぎて量が膨大にあったので、それを覚えたり調べたりするだけでもかなりの時間が掛かった。
 それら全てを経験と共に纏めて後進に託すだけでも大変で、勉強の時間や材料などを集める時間にお金の関係で、弟子の数もそう多くは取れなかったというのも拡がるのに時間が掛かった要因であろう。
 そしてやっと、需要が増したために供給が追い付き、道具などももっと手軽に出来るように改良され、魔法陣の記号なども目的別に纏められた早見表のようなものが完成したりとした結果が重なっての現在であった。
 そしてここから、様々な要素を組み合わせての開発研究が本格化していくことになる。その産物が市場にも流れているので、中には何の役に立つのか分からない品も混ざっているわけであった。魔法陣を刻んだ武器や防具なんかも、この辺りから急増していく。

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