1st:The eve of implementation B
俺と相方の所業は向こうとしても泣きの一声を上げたいほどなんだろう。楷書体で嘆願《たんがん》書をしたためるラスボスなんて生まれて初めてだ。あちらさんも予算的にぎりぎりなんだろうか。
「斬新。新しいプロポーズね」
「その発想こそが斬新だ。どう見ても果たし状だろ」
言葉通りなら敵軍が弱っていることは紛れもなく真実なんだろう。もちろん罠かもしれない。どっちの方向性で考えるか、という迷いは長く彼女と一緒にいてもはや不要になった。
「受けて立とうじゃない!攻めるよ!邪魔なものは全部焼き払う!」
彼女の意気込みに、いよいよどっちが悪者なのかわからなくなってしまいそうだ。口をあんぐりする俺の様子を見たのか握りこぶしを下ろしたルカは「あ、そうだ」と話を切った。
「ねえ、カノー」
「なんだよ」
「ちょっと中指と薬指、開いて」
「なんでだよ」と言いつつ指を広げる俺に、ルカは小ぶりのレモンを挟み込む。
「このレモンなんだけどさ、食べれそうにないんだけど、いらない?」
「いらない。つか、それ、お前の魔力の源だろ」
恐ろしいことに目の前の女性は魔術がスランプに陥るとレモンを食べて調子を取り戻す変態である。しかしそれはルカに限っての話であって俺がレモンを食べても泣きそうな顔をしてビタミンCを摂取するだけだ。
「じゃあさ」
言うなりルカはおれのショルダーバッグに手を突っ込む。
「預かっといて。ほら、魔王とドンパチやってるときにスランプとかシャレになんないし」
そいつは本気でシャレにならない。持っておきます、勝つまでは。