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第1話Part.2~スキル:略取~

 俺を狩ろうとする者の声が聞こえた瞬間、俺は背を向けて逃げる。フィジカル面でも俺は大した能力は得ていない。能力者と真正面から殴り合ったところで勝つことは難しい。俺は死にたくない。生きる為には逃げるしかない。足が動く限り逃げる。友と約束もした。俺は生きてこの地獄を抜けるんだ。

 後ろを振り向かずに逃げる。振り向いたところでスピードが落ちるだけ。それに能力者が俺を追うような音は聞こえない。敵は俺が攻撃を仕掛けると思っていたのかもしれない。不意を突いて逃げられたのか?俺がそう思った時、何かに引き寄せられた。
 引き寄せられた?!そう思った時に腹部に熱い感覚が走った。俺は自分の腹部を見ると白刃が俺の腹から生えている。能力者に突き刺されたらしい。俺がそれに気づいた時、口から褐色した血を吐く。間違いない、俺は死ぬ。友と約束したのにその涙が枯れぬうちに俺は約束を破ってしまった。

 刃は引き抜かれ、俺は地面に打ち捨てられた。痛みはほとんど無い、今までケガをすることなど度々だったしその際は痛みが走っていたが、死ぬときというのはこんなものなのか。俺はそう思いながら目を閉じて意識を闇に沈めようとした時、不思議な感覚が俺の腹部を包んでいた。何か温かい。それに死ぬと思っていたのだが意識がはっきりしてきた。
 俺は意を決して白刃に貫かれた腹部を触る。傷が、消えている?!何故なのか分からないが俺の腹部の傷はきれいさっぱり消え、貫かれたはずの場所が既に皮膚が張られていた。

 俺は能力者の様子を窺う。今は背を向けている。そしてどうもアルキュラを調べているようだ。このまま死んだふりをしてやり過ごすか?いや、もしかするとアルキュラの後は俺を調べるかもしれない。その際に生きていることがバレる。
 しかし様子を見計らって逃げても半端な距離では奴のスキルで引き寄せられてまた刺される。ならば今この瞬間、やるしかない。正面から戦えなくても無防備な相手なら問題ない。

 俺は音を立てないように立ち上がり、気配を殺して俺を刺した能力者に近づく。そして間合いに入ったところで躊躇いなく能力者の心臓を貫いた。「ガハッ。」という呻き声と共に血を吐く能力者。コイツの能力はアルキュラの不死とは違うのでわざわざ止めを刺す必要は無いが

「な、何故……。てめえは殺した、はず……。」
「知るか。くたばれクソが。」

 だが幾度とも無く訪れ無能者とレッテルを張られた俺たちを虫けらのように狩り続ける能力者に怒りを覚えていた俺はこの男にしっかりととどめを刺した。

 しかし一体俺はどうなってしまったんだ。俺も一応能力者ではある。能力者の中では弱いとはいえ、普通の人間達よりはたしかに強いのだが、でもさすがに腹を貫かれて吐血するほどの傷を負っては普通は生きていられない。
 それこそアルキュラのような不死者でなければ、俺は自分が殺した友の姿をチラと見た。その時俺に1つの仮説が浮かんだ。俺は本当にアルキュラのような不死者となったのではないかと。

 スキルが分かった後使えないスキルの者はすぐに廃棄されたのだが、俺はしばらく研究所で生かされていた。それは俺のスキルの略取が初めて出たスキルだったからだ。
 略取という単語から何かを奪うスキルであることは明白で、俺は研究所で魔物と何度も闘わされた。剣闘士なのか実験動物なのか、何度も何度も闘わされた。
 そしてその結果、相手の持っている物を奪うスキルと結論づけられた。

 研究所の奴等も俺のスキルは敵を倒すとその敵の技を奪えるというものではないかと期待したようで何度も魔物を倒させたがそのような結果は出なかった。それなのに今はアルキュラのスキルを持っているのはどういうわけだ。
 もし本当に相手のスキルも奪えるのなら何か条件があるはずだ。俺は2つの仮説を立てた。能力を奪える相手は同族に限る。もしくは相手のスキルを奪うには相手の心臓に触れる必要があるという条件かだ。

 アルキュラを殺す為にはどうしても心臓を潰さなければならなかったためそうせざるを得なかったが、魔物を殺した時は魔物の心臓を直接触れるなどしていなかったのだ。それを確かめる為には今殺した能力者のスキル、相手を自分に引き寄せるスキルを得られたかを確かめる必要がある。
 俺は今殺した能力者の死骸から距離を取って引き寄せようとしてみた。だがうまくいかない。スキルを得られるのは一度きりか、やはり気のせいか、それとも生き物しか引き寄せられないかのいずれかだろう。俺は生き物を探す。
 するとちょうど不死者が這っていた。もう立ち上がることすらできず、これが人なのかといった形の不死者。だが生きていることには違いない。俺は念じて彼の引き寄せを試みた。

 俺の仮説の通りさっきまで向こうを這っていた不死者が俺の目の前に引き寄せられた。俺の略取は相手の持っている物を奪うスキル。条件次第ではスキルを奪うことも可能というものだ。おそらくそれを知っていれば研究所の奴等は俺を廃棄はしなかっただろう。俺の心中はざまあみろという気持ちが沸き起こっていた。

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