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愚者と褒賞

「………………」
 フォレナーレの家に行く道中、れいはハードゥスの範囲内に漂着物が流れ着くのを感知する。それを感知したれいは、珍しく不機嫌そうに目を細めた。
「………………随分となめられたものですね」
 いつもと同じように平坦な声音ながらも、その声音は何処かいつもよりも低く冷たい。ごく僅かではあるが、普段完璧に制御しているはずの力がれいから漏れる。
「………………まだ外縁部に到着しただけでここには辿り着いていないので、これは破棄しましょう。目的はこちらの調査と破壊ですか……とりあえずこれを行った管理者は発狂させて……後は自分で自分の世界を壊させてから管理者が壊れるのを待つだけですね」
 そう口にした後、今までの不機嫌さが嘘のように霧散する。
「………………ハードゥスは全ての流れの終着点。だからと言って、意図的に流すのは受け付けていないのですがね」
 道中でそんなことがありながらも、れいはフォレナーレの家に辿り着く。
 扉を叩くと、直ぐにフォレナーレが出てくる。こちらでもいつものやつを済ませた後、れいはフォレナーレを連れて応接室に移動する。相変わらずどちらが家の主人か分かったものではない。
 応接室で椅子に掛けた後、フォレナーレに現在の森の様子を聞く。こちらは人側の森の出入り口に近いので、報告の量は結構多かった。だが、緊急性のある報告はなく、人が入って色々と森から持っていっているようだが、今のところ生態系に影響が出るほどではないという。
 そういった報告を一通り聞いた後、雑談に入る。雑談の内容は、自然と最近来ているという聖女について。
 聖女は聖女候補だった時にこの場所に偶然辿り着いたらしい。フォレナルも言っていたが、当人からだとより詳しく話が聞けた。
 それからは暇を見つけては聖女が崇めに来るらしい。教会で石像に祈るよりも本人を目の前に祈った方がいいだろうからという理屈らしいが、そもそもつい最近までフォレナーレの像は無かったはずなので、目的としては話をするためのようだ。話の内容については想像がつくので、れいは聞かないことにしたが。
 他にも信者を連れてやってきたりと、フォレナルの話通りのことをしているらしい。やはり最も近くに居る神の一柱ということなのだろう。話も合うようだし。
 フォレナーレとしても迷惑しているというわけでもないようなので、それについてはれいが口出しすることではない。
 聖女の話が終わると、森に入ってくる人の話になる。森に入ってくる半数ぐらいは、森の浅い部分での採取だけで帰っていくらしい。やはり森の魔物が強いからなのだろう。
 残りの半数は森の探索に出るらしいが、還ってくるのはその八割ぐらいだという。これでも最近は生還率が上がったらしい。というのも、人の間で近場の危険な場所の情報が共有されてきたからだとか。魔木のように近づかなければ問題ない存在や魔物が群れている場所などの情報は随時更新されているとかなんとか。
 フォレナルの家まで到達しようと進んでいる者も居るので、まだまだ調査は進んでいるようだ。そちらはあまり上手くいってはいないらしいが。
 現在森から持ち出されている恵みは、大して珍しくはないものばかり。ただ、人にとってはそうでもないらしく、森への探索は重宝がられているらしい。
 そういった話を色々とした後、れいは褒美として適当な武具を渡す。家が賑やかになっているようだし、人との交渉も一応したと判断出来るので、丁度いいと魔木と話し合って決めた武具を数点渡す。
 フォレナーレには現在配下は居ないが、何かの時に使えるだろう。その説明も併せてしておいた。フォレナーレの性格を考えて、かなり丁寧に説明しておいた。特に誰かに下賜しても問題ないという部分は強調して何度も。
 それまで終わったところで、れいはフォレナーレに見送られながらフォレナーレの家を出ていった。
 れいが出ていって少ししてからフォレナーレの家に聖女が訪ねてきたが、フォレナーレから先程までれいが来ていたという話を聞いて、この世の終わりのような顔をして倒れたのはまた別の話である。

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