招集のお時間です
ぶさ猫とデブねずみのにらみ合いも数分、
(ぶさ猫って何さ!?)
(『デブねずみ!? ちょっと、私達心の友でしょう!?』)
(え? いつの間に?)
いや、収まりそうにないからさぁ。先輩、固まってるからな?
(あ……)
「どうもお見苦しいところをお見せしまして」
「いやー……びっくりした……っていうか、理解できなかったっていうか。何だったんスか?」
「このデブねずみ……」
「しゃー! 『ああん!?』」
「……モモンガは可愛くない可愛くない可愛くないオカマネズミでして」
「っしゃーー!! 『しまいにゃ寝てる間に鼻齧りとるわよ!』」
(やってみろこんちくしょー! 手伝ってやんないかんねえ!)
(『ぐぬぬ……卑怯な……』)
「……あー、まー、落ち着くっスよ、二人共。もこもこは、もこもこで可愛いじゃないっすか」
(『フフン、どうよ? ……ん? あれ? 名前がもこもこに決定なの?』)
「まぁ、毛玉の話はどうでも良いです」
「毛玉……」(『毛玉……』)
「学院の様子を聞きたくてですね……」
「あー、学院には箝口令が敷かれてるっす」
「やっぱり……」
「下手に漏れると、対処がどうだとか、帝国じゃ話にならんだとか、何だかんだで口出してくる国が多くて、国際問題に発展しかねない案件ですからねぇ」
「そうなんですねぇ……」
「お友達はちょくちょく来てるっすよ。そろそろご飯時だし、来るかも……」
コンコン
「フローラ、起きた?」
「噂をすればなんとやらっす」
「先輩、ちょっと行ってきますね」
「ゆっくりしてくるとイイっすよー」
………
……
…
フローラを呼びに来たベティは「内緒話するのに都合が良いからサロンを予約した」と、強引に手を引いていく。別に逃げないのになぁ、等と暢気に考えていたフローラだったが、
「………………(ナニコレ)」
「皆話しが聞きたいって」
「分かる……それは分かるんだけど……!」
ゲームの主要メンバーが勢揃いでしたとさ。
「すまん、フローラ嬢……。俺達では断りきれず……」
「あ、あの、あの、あの……(ふぅっ……)」
「メイリア、気をしっかり持つ。大丈夫、取って喰われはしない。
ですよねっ! グレイスお姉様!」
「ふふ、そうだとも。と言うか何だい? 取って食べるって」
「物の例えですわ、お姉様」
相変わらずグレイスが絡むとテンションがおかしくなるな。
(私はそれどころではないなー。何処まで話して良いのかも分からないわー)
「では、私達の質問に答えて下さるかしら、フローレンシア・クロード男爵令嬢」
鈴の様な愛らしい声で、緩いウェーブの髪を持つ少女、ジュリエッタ・フエルカノン公爵が聴取の開始を宣言する。
(ふぅっ……)
お前が気を失っても誰も介助しないぞ?
(せめて慰めろ)
………
……
…
「全く……何も分からないことだけが分かった、そんなところか」
主に尋問を担当していた俺様皇子ことディレク・アシュカノンが不機嫌そうに吐き捨てる。それもあろう、彼の質問への答えの大半は『答えられない』で占められていたのだから。
(ほんっと、無駄にキラキラしてるわ。現実になってもこのキラキラっぷりってなんなんだろうねぇ……)
「仕方ないでしょう。彼女は当事者。更には帰還当日のうちから教師陣に、開示できるもしくはしても良い情報に関して叩き込まれているでしょうから。元より期待しない、そういう話だったでしょう?」
もんもんこと侯爵家嫡男サイモン・アルトマンが宥める。
(カワユス……。気にしてませんよー的に、無表情を保っているように見えて、ちょっとだけ口がへの字に曲がってるとか。ムフフ……)
「しかし、事件の当事者であった我らに何の連絡もないのは頂けないな」
「そうですよね! お姉様!」
シャムリア侯爵家令嬢、グレイス・シャムリアが不満を漏らすと、すかさずベティが追随する。
(やっぱかっこいいなぁ……ザ・歌劇の人! って感じで。そしてベティ、ずーっとべったりだわね。ベティはちっさいし、グレイス様は可愛い物好きなんだろうか? 最終的にサイモンを狙ってることといい……)
「あの時ゃあ、バモンも災難だったな」
「いえ、アーチボルド様のお陰で事なきを得ることができました」
「それにしても俺も魔王に一太刀浴びせてやりたかったなぁ!」
侯爵家三男坊、アーチボルド・ザルツナーが当時を振り返ると、バモンが救助されたことへの謝辞を述べる。下手に反応すると堂々巡りになると分かっているのか天然なのか、アーチボルドはそれ以上その話題には触れなかった。
(あー君、熱いねぇ! あの魔王に一太刀食らわせたいとか! 普通思わないよ)
と、クリティカルな一撃を御見舞した張本人が申しております。
(うっさいよ。にしてもバモン君はこの場に大分慣れてきたんだろうか? だとしたらもうちょっとメイリアを気遣ってやってほしいかなぁ)
「アーチボルド様は彼の魔王が、恐ろしくありませんでしたの? 私、あの方の存在感そのものにすくみあがってしまって……」
「怖くねえ……っつったら嘘になるだろうなぁ。余りの魔力量にすくみあがっちまったのは俺も同じさ。でもこいつが投げ飛ばされたのを見ちまったら、それ所じゃなくなっちまったのさ」
「まぁ、勇敢ですのね。頼もしいですわ……」
伯爵家の一人娘ことアメリア・ゴルドマンがアーチボルドに尋ねると、アーチボルドは素直に当時の心情を述べ、アメリアはその武家の者のあり方と素直さに感心しているようだ。ベティ? 反応してたけど空気を読んだらしい。ただひたすら首をブンブン立てに振って同意している。あ、アメリアと目があった。にっこり微笑み合う図は微笑ましい……が。
(アメリア様は可愛らしいわねぇ……。思わず周りをちょうちょが飛んでそうな光景を幻視しちゃうわね。
……どうかこのまま、どうかこのままで。ホラー化、駄目、絶対)
「くー兄様にも相談してみようか……。あ、イグナカノン家の、ね」
バルカノン公爵家の跡取り、エリオット・バルカノンがそう口にすると、
(ふぉおお! マイ・オット! 隠れお兄ちゃん子だったのか! 初めて知った!)
「では先方様のご都合をお伺いしておきます」
「頼むよ」
バルカノン家の侍女、シンシアがすぐさま反応し、アポイントを取る提案をし、了承を得る。
ちなみにくー兄様はクライン先生だったりする。エリオットが小さい時に面倒を見てたことがあるらしく、くー兄様くー兄様とくっついて回るくらいに慕われていたようだ。
一方シンシアの目は常に瞑られているが、意識はサロン全体に広げているらしく、風呂オラさんは居心地が悪かったりしていた。
(光魔法の影響なのか、主役補正なのか、意識ってやつに敏感なのよねぇ。魔族を情報思念体に切り分けるのもこういうのが影響してるのかしらね?
別の理由としては、この子のことをマイ・オットを追い詰めた張本人と感じちゃってるからかもね。良い感情を持てないのもあるのかしら? っ!?)
等と心の中で毒を吐いてる喪女さんに気付いたのか、シンシアの意識の針が喪女さんめがけて無数に突き刺さる! もはや喪女さん改めモジャさんである!
(何上手いこと言った! みたいな独白してんの!? 上手くないよ!? その針ってば見えてないでしょ!? ……あ、あんた情報思念体だから見えるように映るの? 違う? じゃあモジャはおかしいでしょ! あと、毒も吐いてないからね!?)
まぁシンシアにしてみれば、大事に? している坊っちゃんのお相手として釣り合うかどうかを見てるだけかも知れない。恐らくモジャさんのエリオットへのふしだらな感情を受信したがゆえの防御反応かと。
(ふしだらって何!? 愛でてんのよ!?)
客観的に言って、キモイ。オブラートに包んで、変態。
(つつんでないですー。それほんね……ってこらあ!?)
「………………(スッスッス――)」
(うん?)
尋問の開始を宣言して以降、一言も発しなかったジュリエッタが、宙に何かを書いていく。
(えーっと何々……『あちらでも』……『また』……『しつこく』?? 『蹴り上げたの?』って)
「って何ですかそれ! 蹴り上げてませんよ!? 何ですかその何がなんでも潰してやるみたいなキャラ!?」
「「 !! 」」
(うん? 何この反応?)
「お前、これが読めるのか!」「君、これ、読めるの??」
(えっ? えっ!? あるぇえ??)
やらかしましたねモジャさんや。
(だまらっしゃいな、ノーコンさん)
「やっぱり……光魔法、使えるのね」
舞台は整った……!?