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第2章ー3 幻影艦隊 「見えないのは反則だよね~」

 ブリーフィングルームを後にしたソウヤたちは、ジヨウの部屋に集まった。
 少尉待遇とは本当で、1人1部屋が割り当てられている。しかも部屋には、ソファーが4脚ある。ビンシーの小隊が4機からなるため、4脚なのだろう。そしてその小隊は、ゲームに参加したチーム単位となっていた。
 軍事行動をとる際、誤解勘違いは軍全体の敗北に繋がることすらある。
軍隊式のコミュニケーションは、すぐさま身につけさせるとしても、小隊のチームワーク構築まで面倒を見る時間的余裕はないということだろう。ただでさえ、軍人ですらなかった3等級臣民を、短期間でビンシーの操縦士へと養成せねばならないのだ。
 そういう判断なのだろうが、この編成はソウヤたちにとって非常に都合が良かった。
彼らの長年の目的は、4人揃って大シラン帝国を脱出することである。4人一緒の小隊で戦場に出るということは、バラバラのチームに比べて脱出のチャンスが増える。
 ソウヤたちがジヨウの部屋に集まったのは、脱出の相談をするためだった。
 4人はソファーに腰を降ろし、さっそく話を始める。
 しかし、最初から脱線していた。
「見ろよ、片側透過型ドアだぜ」
「外から見られているみたいで、ウチは嫌だな~」
「レイファは気にしすぎなんだよ。外からは見えないぜ」
「そうだけど~」
 ジヨウがソウヤとレイファの会話に口を挟む。
「それなら、レイファの部屋の透過は切っておけばいい」
「えっ、出来るの~?」
「ああ、ルーム端末から設定できる。オンラインマニュアルに記載してあった」
「あのマニュアル読んだのかよ?」
「当たり前だろ」
「何だと! 我も確認したが、そのような記述は見当たらなかったぞ」
「簡易マニュアルには載ってない。あれは司令部との通信とか、軍事的な項目しか載ってないからな。部屋の仕様を知りたければ、詳細マニュアルに目を通してみろ」
「ジヨウにぃ~、もしかして詳細マニュアル全部に目を通したの? 100ページぐらいあったよね~」
「そうでなければ、快適に部屋を使えないだろ」
 当然とばかりのジヨウの台詞を、ソウヤは自分に都合良く解釈することにした。
「つまり、だ。なんか分かんないことがあれば、ジヨウに訊けばイイってことだぜ」
「うむ、我は理解したぞ」
「うん。ウチもわかった~」
「おまえらなぁ。俺を便利使いするな!」
「オレたちは頼りにしてるんだぜ。ジヨウ兄貴」
「ふむ、ジヨウ兄貴が便利なことは間違いないぞ」
「ジヨウお兄ちゃんがいてくれて良かった~」
「都合良いときだけ敬称をつけるな!」
 調子よく眼を輝かせ、3人それぞれ、胡散臭い口調でジヨウを持ちあげる。
「じゃあ、ジヨウ。頼りにしてるぜ」
「我もだ、ジヨウ」
「ジヨウにぃ~、ウチもだよ~」
 ソウヤたちが頼りにしているのはホントだ。
 周囲や状況を把握する能力を持ち、冷静な分析力がある。リーダーとして、まとめ役として、この4人の中では最適な人物である。
 ただ苦労をかけているのは理解していても、ソウヤとしては全く改める気はない。
 ジヨウは諦観しているが、ここに集まっている本質を違えることはない。
「ああっ、いいけどなっ・・・本題に入ろう。大シラン帝国から脱出するために、俺たち4人が1チームとなったのは良かっ・・」
「えぇ~。脱出ってどういうことなの~?」
「うっ・・・えーっとな。色々と前提があって・・・。その、なんだ・・・」
 ジヨウの眼が泳ぐ。
「レイファ。オレらの脱出計画は2年前からだぜ。それが今、動きだした。いや加速したんだ」
「どうせジヨウは、まだ我らの計画をレイファには話してなぞいないのだ」
 眼を逸らしジヨウは小声で言い訳をする。
「・・・話し合う機会がなかったんだ」
「ウソだぜ」
「嘘だ」
「ウソだよね~」
 3人とも疑惑の眼差しをジヨウに突き刺していた。
「レイファはまだしも、なぜお前らが断言する。俺は慎重に話す機会を・・・。いや、そんなことより、今は脱出計画をだな・・・。とにかく、話し合うことが重要なんだ!」
 最後はキレ気味に言い切って、ジヨウは強引に話を進めようとした。
「イイぜ、ジヨウ。で、具体的にはなにを話し合うんだよ」
「どんな状況なら、脱出して大丈夫か? その状況では何が必要になるか? その必要なものを確保する方法は? 保管場所や保管方法は? 脱出準備、脱出時の役割分担は? とにかく話し合って、とことん考える必要があるんだ。これは命懸けで、やり直しがきかないからな」
「そんなこと話し合ってたんだね~」
 レイファにとって衝撃的な事実と思われるのだが、大して驚いていないようだった。肝が据わっているというのか、ノンビリしているというのか。・・・実にレイファらしい。
「我らの以前の考えだと、4人一緒に脱出できる状況で、時空境界突破航法システム搭載の宇宙船を手に入れることが計画の第一歩だったぞ」
「そうだ。そして今俺たちがいるのは、時空境界突破航法システム搭載の宇宙船の中だ。絶対守護にいた頃より、チャンスが多いはず。いいか、計画を詳細にすべき時がようやく訪れた。今までの計画だと・・・」
 だんだんとジヨウの口調に熱が帯び、検討してきた計画を詳細に亘って語り始める。
 暫くして、ジヨウは3人が理解しているか確かめるために、一人一人に視線を向けた。
 3人とも退屈だという表情を浮かべている。それでも、ジヨウは話を進める。
「・・・準備は少しずつでも始めるとして、ポイントはさっき説明した通り脱出のタイミングの判断だ。計画して脱出できるのが一番いいが、突発的にチャンスがやってくるかもしれないだろ・・・。その時、脱出の判断は、基本的に俺がする」
「いいぜ」
「異存ないぞ」
「いいよ~」
「あとな。ソウヤが脱出のチャンスと判断した場合でも、計画を実行する」
「いいぜ」
「異存しかないぞ」
「大丈夫なのかな~?」
 クローとレイファの声には、懐疑的成分が100パーセントだった。
 それでもレイファは笑顔で言ったのだが、クローなどは露骨に顔を顰め、今にもジヨウに詰め寄りそうだった。
「突発的な判断は、俺よりソウヤの方が優れている。これは事実だ。いくら普段の行動が信用できず、時々冗談で人生を過ごすつもりかと思う時もある・・・。ケンカっ早くて、いろんな意味で頭がキレてて、冷静に見せかけて何も考えていなかったり、面倒かける奴だなと思う時もある。しかし・・・」
 ジヨウが次の台詞の言うのを真剣に待つ3人。
「・・・以上だ」
「終わりかよ」
 ソウヤのツッコミに対して、苦々しい表情をみせてから、ジヨウは再度口を開いた。
「図にのせたくはないが・・・。ここ一番の時の・・・重要な決断をしなければならない時のソウヤは、信用できるだろ」
「任せてもらっていいぜ!」
「リーダーであるジヨウがそう判断したのなら仕方がない。まっっったく納得できない訳だが、我も従おうぞ」
「納得はできないのかよ!」
「認めてはやるのだから、有り難く思って良いのだぞ」
「ソウヤ、お願いがあるの。面白くなりそうとか、楽しくなりそうとかで決断しないでね~」
「レイファもかよ!」
「言い出しておいてなんだが、俺も心配になってきたな」
「おいおい、ちょっと待て。心配するな! オレに任せろ! 大丈夫だぜ、ぜっっったい!」
 何の根拠もないソウヤの精神論に、白々しく乾いた空気が4人の間に流れる。
「ジヨウ、なんか言えよ」
 ソウヤは、場の空気を変えるために、また責任を取らせるためにも、ジヨウに発言を求めたのだが、期待に背く弱々しい声が返ってくる。
「ああ・・・、頼むな・・・・・・」
「ジヨウ! オレたちは自分たちの運命を斬り拓いて進むんだ。気合い入れようぜ!」
「そうだな」
 ジヨウは無理やりに、ソウヤの気合いに乗っかった。相当無理やりだったが・・・。
「いいか、クロー、レイファ、ソウヤ。俺たちは必ず帝国を脱出する。運命を、斬り拓け!」
 3人の応答が重なる。
「「「承知」」」
 最後は形になったが、先行きが思いやられる脱出計画の打ち合わせだった。

 ソウヤたちが軍人になってから8週間。
 訓練基地に来てからは7週間が経っていた。
 いい加減、ビンシー6の乗り心地の悪さに慣れた頃だった。
『次、ジヨウ隊』
『ジヨウ隊、発艦する』
 ジヨウ隊4機が宇宙空母から発艦すると同時に、一旦4方にばらける。発艦場所を狙う位置に敵機がいる想定だからだ。
 敵機役は教官たちで、アタッカー仕様2機だ。
「今日こそ一発喰らわせるぜ」
『我らこそが、勝利に一番乗りだぞ』
 今まで、どのチームも勝ってない。
 それはそうだろう。7週間前まで素人だったのが、プロの軍人に勝てる訳ない。
 だが、いつまでも負けっぱなしではいられない。今日こそは勝利するぜ。
『任せろ! すでに教官のクセは覚えた。ソウヤ、クロー包囲するんだからな。無闇に突っ込むなよ!』
「大丈夫だぜ! 考えながら突っ込む」
 イイ笑顔で答えたソウヤに続き、クローが堂々と言い放つ。
『我はクロースだぞ。無闇になぞ行くわけがなかろう。ソウヤを囮にして突っ込むのだ』
『・・・やっぱりか』
 ジヨウが諦め、レイファが納得する。
『そうだよね~』
『予定どおりにやる。レイファ、頼むな』
 レイファのスナイパーとしての鷹の眼にかける。
「任せたぜ レイファ」
『委ねるぞ レイファ』
 障害物のない宇宙空間を戦域として設定されている。それはスナイパーにとって不利である。スナイパーを活かすためには、ソウヤたち3機の動き次第だ。
『行け、ソウヤ。斬り拓け!!』
「承知!」
 3機は複雑な機動で、3方向から敵機に迫る。数の利を活かして包囲する為だ。
 しかし教官は、やはり教官である。
 逆に1機対2機の状況を作り出す。教官たちは、動きの鈍い機体から瞬殺すべくレーザービームで攻撃を仕掛けたのだ。
『良し、クロー、レイファ。斬り拓け!』
『『承知!』』
 狙われたのはソウヤだった。
 4人の中で1番強い。そして操縦が巧い。特殊訓練生の中で最も教官に近い実力を持つといわれている。
 拙い機動は偽装であった。
 見事に囮役を務めあげ、一気に全力加速する。
 たとえ同じ機体でも、動かし方次第で遅いようにも速いようにもみせられる。宇宙空間では地上と違い機体の速度を意識しづらい。基準となるべき物体がないからだ。
 ソウヤは大和流古式空手で虚実を使い、相手を翻弄する。それはフェイントだけでなく、パンチやキックの速度を微妙に変化させ、相手を惑わせる。
 そして、相対的な速度が全ての宇宙空間では、ソウヤの虚実が相手に一層際立って感じる。
 ソウヤが本当の実力を発揮し、教官機1機を釣り出し抑え込む。
 頼むぜジヨウ、クロー。
『ソウヤ、見事な腑抜けぶりだったぞ!』
「囮と言え!」
 ジヨウとクローが、もう1機の教官機に襲いかかる。
 不意を突き、多数をもって相対すれば、1対1での実力差など覆せる。
『集中しろ!』
『任せて~』
 ジヨウとクローがレーザービームを放ち、教官機を追い立てた。命中コースを微妙に外して、教官機同士を離すようにする。連携を取らせないようにするためだ。
 教官機の正確なレーザービームが、ジヨウ機の右脚とクロー機の左腕に命中し、ビンシー6のコンピューターによりその部分が全損判定となる。そしてジヨウ機の右太腿から脚が、クロー機の左肩から腕がパージされる。
 バランスを欠いた状態で、クローとジヨウがレーザービームを連射し、背中に配備されている小型ミサイル10発全弾を放ち、教官機に突撃する。
 しかし追い込んだ・・・スナイパーの狙撃ポイントへと。
 教官機は、ジヨウ機とクロー機の対処で手一杯になっている。
 レイファの狙いすました一撃が、教官機の胴体に命中する。威力の高いスナイパー用レーザービームライフルの直撃に、教官機のコンピューターが撃破判定をする。
『1機、げきつ~い』
 教官機が残り1機となり、対してジヨウチームは小破2機に、無傷1機、ソウヤ機大破で戦うことになった。
 ただ、ソウヤは撃墜されないものの両手両足を失い、機動力と攻撃力をほとんど奪われていた。武器は小型ミサイル4発のみ。
『ソウヤ~、頑張ってね~』
 ソウヤはレイファの援護を受けながら最後の武器を使用しる。ここで教官機の攻撃範囲から逃れられなければ、ソウヤ機は撃墜間違いなしだろう。
「頑張れば、勝てるって訳じゃねーぜ」
 教官機は同じくミサイルを発射し迎え撃ちつつ、レーザービームライフルをレイファ機に向けて連射する。スナイパー機の距離ではアタッカー機のレーザービームは射程外となる。威力不足を補うための連射だろうが、レイファ機を撃墜するのは難しい。
『良くやった。俺たちが勝つ!』
 ソウヤはミサイル同士が交錯する刹那を捉えて、ミサイルを爆破させる。教官機のミサイルが誘爆する。
 敵機を斃すためでなく、生き残るための攻撃だった。ミサイル爆発を煙幕替わりにし、ソウヤは全力で戦場から離脱する。
『美味しいシチュエーションだ。我は大好きだぞ。後は我に委ねよ。勝利を我の手でもぎ取るってみせようぞ』
 クローは武装の全てをつぎ込んで教官機へと攻勢にでる。
「オレの活躍のお蔭だろう」
『止めは俺たちで刺す』
 直線的な動きに対して、ジヨウは大きく弧を描きながら教官機を挟み撃ちにする。
 教官としては、スナイパーを追い払わないと、安心してジヨウ機とクロー機を迎え撃てない。レイファ機をレーザービームで牽制しながら、教官機はクロー機に突っ込み格闘戦に持ち込もうとする。スナイパー対策だ。
 教官機は狙い通り格闘戦しようとレーザービームライフルを可動式ホルスターに固定し、前腕部装甲からチェーンソーブレードを展開する。同じようにクローも右腕の前腕部装甲からチェーンソーブレードを展開するが、左腕のないクローは圧倒的に不利である。
 まさにクロー機と教官機の格闘戦の直前に、ジヨウ機がレーザービームが放つ。
 教官機のコンピューターが撃墜判定を下す。
 出撃直後の言葉通りに、ソウヤとクローはやってのけたのだった。
 ソウヤは、どうすれば巧く偽装できるか考えながら敵へと突っ込み。クローはソウヤを囮にして教官の1機に対して突っ込んだ。
 今まで特殊訓練生の中で教官機を1機として撃ち落としたチームはなかった。ジヨウチームは初めて教官機を撃ち落とし、2機を屠り教官チームに勝利したのだった。

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