友人とのいさかいpart2
「なんで置いてんだよ!! しかもクッキーって!」
玲は深い皺を眉間に寄せ、この世にこんなヤツがいるのかと衝撃を受けるがあまり、怒気を
「クッキーってさ、だいたい賞味期限長いだろ。このクッキー俺好きだから知ってんだけどさ、この商品、製造日から2年は持つんだよ。それなのになに切らしてんだよ!!」
「そんなこと言われても……」
優志は首をかしげながら、すぼめた口で不満をボソる。
「お前はこのお菓子を作った人達の苦労を踏みにじってんだよ。分かってんのか!」
玲の声はよく通った。
近くでよく通る罵声を浴びせられ、優志は不快感を隠さない。片耳を押さえ、1歩、2歩と玲から離れた。
「そしてだ! 何よりもっと驚きの事実に俺は気づいたよ」
一重の鋭い目は優志に向けられたまま、もったいぶった言い草で前置きを添えた。
「今は4月! 俺達は大学3年になった! ……ずっとあったんだろ、その菓子」
「ん?」
「そこの棚に! ずっとあったんだろ! 入学の時から!!」
尻上がりにイライラした玲の声がうなる。
半分はなんで今気づいたんだと自分への怒りも含まれている。できることなら数分前の自分に戻りたかった。
「あーー、計算上はそうなるね」
「お前と出会い。友達になって1年と9ヶ月! お前の部屋に来ては棚の上に置かれた菓子を勝手に食べてきたぁ!」
「偉そうに言うなよ」
「賞味期限切れの物があるとも知らずにな! 偶然とはいえだ。すごくないか!? 1年以上そのクッキー避けてきたんだぞ。棚に置かれてた菓子類の中から。出会った時には賞味期限も切れてたと思うよ。お前と出会った日からずっとなッ!!」
「もううるさいって……」
優志は呆れた様子で笑みを浮かべながら言う。
だが玲の熱は冷めやらず。腰に両手を添えてまだ言い足りない口が元気いっぱいに問う。
「この際聞こう! そのクッキー、どうやって調達した?」
「は?」
「俺達の入学当初からあるってことは、それが大学に入る前から商品は売られてたってことだ。どうやって手に入れた!?」
「刑事ドラマの尋問みたいになってるぞ」
優志が口にしたのもあるが、だんだん玲の顔が厳しいものになっていく。
刑事ドラマでベテラン刑事が渋い表情で尋問するように気取った玲。しかし、意識しすぎたせいでただのチンピラ感が強まってしまった。
「答えろ犯人!!」
「俺犯罪してねぇよ」
「してるよ。殺人未遂!」
「話がでかくなってる……」
優志はヒステリックな友人にうんざりしながら事の元凶であるクッキーと共にソファに腰かける。
「実家から持ってきたんだよ」
「なんで賞味期限切れそうなヤツ持ってくんだよっ!」
「まさか賞味期限が切れてるとは思わなかったんだよ」
「だとしても1年以上残すかね? なんでずっとあんだよ。気にしろよ。俺がそこの棚の菓子、勝手に食うこと分かってんだろ」
「お前のために置いてんじゃねぇよ」
「俺だって分かってるよ。小腹満たすために置いてんだろ?」
「ああ」
「じゃあなんで
「それはないよ」
玲の耳ははっきりと否定した声を受信した。
断定する友人の言い草もそうだが、断定できる理由が思いつかないだけにムカついた。
「ええ?」
「俺が食うことはなかったよ」
またしても断言した。玲に真っすぐな瞳を向けて。
「なんでだよ?」
玲は率直な疑問を投げた。
優志はソファで横になっていた菓子がまだたくさん入ってる袋を持ち上げて言う。
「だってこれ、
衝撃。
予想だにしない返しを聞き、感情が追いつかなかった。
半開きになった厚めの唇。瞳孔が開きそうな
「もう一回言ってくれ」
「え?」
「よく分かんなかったからもう一回言えって言ってんだよ」
「この賞味期限切れのお菓子、インテリアにしてた」
「袋詰めにすっぞっ!!!!」
玲はありったけを叫んだ。
「バラバラにした後、袋詰めにして商品棚に並べといてやるからな」
「お前が一番犯人じゃん……」
玲の常軌を逸した
「すごい流行ってる海外発のお菓子の瓶とか、デザインがいいって評判のヤツをインスタ映えとか、そういうのならまだ分かるよ。そこらじゅうで売ってるお菓子のパッケージをインテリアにするわけねぇだろ! なんだ、お前のセンスは死んだのか!」
玲は言葉にしてまた混乱を催す。
側にあるサイドチェストの上には他のお菓子が置かれている。それらを順に手に取り、確かめてみる。どれもこれも賞味期限はまだ大丈夫。そこはもう問題ではない。玲が気になっているのはそこではないのだ。
「ええ? ちょっと待って……」
玲は疑問からこぼれた声を漏らし、適当な品を見せてみる。
「これインテリア?」
玲の手にはキャラメルのお菓子。6個入りの横長のお菓子だ。
「それは食べる用」
「じゃあこれは?」
1つドーナツの入った袋を持ち上げてまた尋ねる。
「それも食用」
「んじゃこれは?」
飴玉が大量に入った透明な袋だ。
「インテリア兼食用」
「お前しばくぞ!」
玲は阿保らしいクイズをしてるようで嫌になった。
「インテリア用のお菓子と食用のお菓子を一緒の棚に置くな!」
言っててまた新たな疑問が口をついて出た。
「つーかなんだ、食用のお菓子って!! お菓子は食べるもんだろうが!! 本来食用をつけなくていいんだよ!」
「お前がそんなに怒ってるの初めて見たわ」
「そりゃ怒るだろ! こっちは友達に毒盛られてんだよ!!」
「そもそもお前が人んちに来て、勝手に食わなきゃこんなことにはならなかったんじゃない?」
「真顔で正論かましてんじゃねぇよ」
玲は嫌悪感を滲ませてすかさず異議を
「もういいよ。俺が悪いで。ごめんだけど、今日は疲れたから、もう帰って」
優志は上着を脱いでシャツ一枚になり、リラックスしだす。ソファに座り直し、玲を見ると、厳しい顔つきになって薄いラベンダーのカーペットにあぐらを掻いている。
「なにしてんの? 帰ってよ」
「やだよ」
玲はリストラされたお父さんみたいにうつむき加減になって呟いた。
「は?」
「やだって言ってんだよ」
玲はもう一度言う。無垢な瞳を優志にまっすぐ向けて。
優志は苛立ちを帯びた声で言葉を置くように繰り返す。
「俺これからレポートまとめないといけないから……」
玲は優志の言葉にかぶせて
「これから俺は下痢になるんだよ!!」