二人の距離
何も知らず守ってもらうばっかりで…私何もわかってなくて。これ以上鷹弥もカケルちゃんにも迷惑かけたくない…」
日向の表情は固い。
鷹弥は日向の横に座って言った。
「さっき…もう昨日か…カケルと話してる時言ったけど…。始めの圭輔の暴走は俺のせいなんだ。今回だって…もう俺は関わってるんだ…頼むから…俺を部外者にしないでくれ…こんな事があったところに日向を一人にするなんてもう俺がムリなんだ…」
そう言って鷹弥は苦しそうに両手で顔を覆った。
“俺がムリ…”それを鷹弥から聞くのは2回目だった。
日向は自分が“間違えた”気がした。
「ごめん!ごめん…鷹弥…」
日向は鷹弥の方を向いて言った。
「鷹弥の家に行かせてください」
そう言って日向はいつもの自分に戻る準備をするかのように少し笑って
「準備するね」
と言った。
日向の部屋を二人で出るともうすっかり日が登っていた。
日曜日だからか朝の人手は少ない。
「寝てないのにもう朝…長かったな」
日向が言う。
「そうだな…帰ったらとりあえず風呂入って寝よう」
と言ってから少し笑って
「朝にする会話じゃねーな」
と言った。
二人でコンビニに寄って鷹弥の部屋に戻る。
広いワンルーム…
改めて見ると“二人”でいるにはとことん似つかわしくない場所だと思って心の中で鷹弥は困ってしまった。
それは…これから考えよう…
鷹弥は自分に言い聞かせた。
「昨日も思ったんだけど…」
部屋に入って日向が言う。
「ベッド…めちゃくちゃ大きいよね」
いきなりベッドの話をされて鷹弥はドキッとする。
「あー…なんか昔見た外国映画で見た部屋がめちゃくちゃオシャレでさ。広いワンルームに大きいベッドがボンってある…この部屋見た時、その理想に近い気がしてこの部屋に決めてクィーンサイズのベッド買ったんだ。」
鷹弥はドキドキしながら伺うように
「広いから…一緒でも大丈夫…?」
半分顔を手で隠して日向に聞いた。
日向の顔が見れない。
「広くなくても大丈夫だけど」
日向の答えにビックリして日向の顔を見たら
「あ、コッチ向いた!」
と日向が意地悪く笑った。
(またやられた…)
鷹弥の顔は真っ赤だった。
でもいつものやり取りに戻れてホッとしていた。
「先にお風呂借りてもいい?」
と言って夜に鷹弥が出した着替えを手に「これも…」と言った。
いろいろあって現実を考える暇がなかったが、今自分の家に日向と二人っきりでいる事を改めて実感する鷹弥。
タオルの場所やお湯の出し方を説明して部屋に戻ると生々しくシャワーの音が聞こえてくる。コンクリート打ちっぱなしのこの部屋は音がよく反響する…
俺…なんでこの部屋にしたんだ…
鷹弥は一人ベッドでうなだれた。
日向が上がってきて
「鷹弥、ドライヤー貸りていい?」
と言う。
日向の方を振り返ると鷹弥のスウェットをダボッと着ている日向の姿に思わずドキッとする。
濡れたままの長い髪を下ろしたまま上がってきた日向に鷹弥は
「服、濡れたら風邪ひくよ」
と濡れた髪を前から少し避けると首元の圭輔の跡が目に入る。
日向も気付いてサッと手で隠してうつむく。
「ごめ…あ、ドライヤーこっち」
と言ってドライヤーを出すと
「俺も入ってくるね」と風呂場へ行った。
日向の家から来る時に、日向は見えない服を選んで着てたせいで鷹弥はキスマークのことはすっかり頭になかった。
シャワーを浴びながら
「何やってんだ…」
ボソッと言った。
シャワーを終えて鷹弥が部屋に戻ると髪を乾かし終えた日向がベッドの真ん中に座って絵を見つめていた。
陽の光がちょうど日向にも当たっていて
その姿があまりに綺麗で少し見とれた。
「綺麗な絵だね…」
日向がいうと
「んー…」
と鷹弥が言った。
鷹弥は久々にこの絵を見た気がする自分に少し驚いていた。
日向は鷹弥の返事から、“ワケあり”の絵なんじゃないかと頭をよぎった。
そう思って見るとこの部屋でこの絵だけなんか浮いてる気がする。
鷹弥の部屋はオシャレだけど、少し冷たくも感じた。
だけど、その絵だけはあったかい雰囲気が溢れていた。
「フランス…?」
日向が言うと
「わかるの?」
と鷹弥が驚いた。確かに有名な建築物なんかは何も写っていない。
「前に行ったことあって…なんか街並みが似てるから」
日向がそういうと
「そっか…」
と鷹弥は絵から目を逸らした。
それ以降日向も絵の話はしなかった。
「寝るには明るすぎるな」
そう少し笑いながら言って鷹弥がブラインドを閉めた。
「こんな時間だけど…いろいろあったし少し休もう」
鷹弥は優しくそういうと日向とベッドに入る。
クィーンサイズのベッドは本当に大きくて端と端にいると別々に寝てるのと変わらないくらいだ。
日向は鷹弥の方を見る。
鷹弥は日向に背を向けている。
「鷹弥…寝た?」
日向が言う。
「んー…」
どんなに疲れててもこの状況ですぐに寝れるか!と鷹弥は言いたい。
でもそれは日向も一緒だった。
どこまでも優しい鷹弥を知った時からずっと惹かれている。
(もう少し…近くてもいいのに…)
日向は鷹弥に触れたい気持ちになっていた。
すると鷹弥がくるっと日向の方を見て
「どうした?なんか思い出した?」
と心配そうに身体を起こして聞く。
(ほら、やっぱり優しすぎる…)
日向は手を伸ばして
「ちょっと…遠くない?」
と言った。
鷹弥は心配して身体を起こした状態からポスッと枕に顔を落として
「日向…ドSなの?」
と日向を見ずに言ったけど、伸ばした日向の手をしっかり握った。
ドSの言葉に日向は少し赤くなって
「自分ではドMだと思ってた」
鷹弥はこっちを向かない。
日向はちょっと鷹弥に近付く。
「いーや、ドSだね!俺何回殺されてるか」
と鷹弥が言って日向が笑う。
今度は鷹弥がちょっと日向に近付く。
「笑い事じゃないからな。カケルと揃うとそりゃもう最悪」
今度は二人とも少し近付く。
「あ、近くなった…」
鷹弥の手を自分の頬に当て日向が言うと
二人はどちらからともなくキスをした。
鷹弥は日向を抱き締めて
「こんなのすぐ消えるよ」
と圭輔の跡が残る首筋に手を乗せた。
「鷹弥…ありがとう…」
二人はやっと安心したようにそのまま眠りについて起きた時にはもう日が落ちる頃だった。