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19話




その後、朝比奈さんは私をマンションに入れてくれて、彼女の部屋の中に入った。


暖房が効いて中は温かかった。


部屋は落ち着いた雰囲気で、出演した映画のポスターが何枚も綺麗な額に入れられて飾られていた。


私のアパートより何倍も広かった。


衣装部屋という一室もあって、過去に出演した作品に出演した時に着た衣装が飾られていた。


テーブルを挟んで、二人向かい合った。

暖かいココアを出してくれた。


全身が温まった気がした。




「私があらわれなかったらどうするつもりだったの?」



「わかりません。ずっといるつもりでした」


「カナって・・・おかしい。風邪ひいちゃうよ」




ふふっと朝比奈さんが笑った。




久しぶりに見た彼女の優しい笑顔。



「一人になるのが嫌だったから」




「私も・・・・・・会えなくなって、寂しかった。何度も連絡して、出てくれなかったから。もうあなたには会えないんだと思って・・・・・・」




「すいませんでした。朝比奈さん」


「ねえ、アヤカって呼んで」


「いんですか?」



私と彼女は5つも年が離れていることを思い出した。


「もちろん」

彼女の瞳が黒い瞳に戻っていた。


あの映画に出ている彼女にそっくりになっていた。



「カラーコンタクト、外したんですね」


「もう付けている必要なくなったから」




「お店のこと、聞きました。私のせい、ですよね」



「違うの。もうお店はやめようと思ってたから、逆にこうなってよかったの。もちろんあなたと会えないだろうってことは悲しかったけど」



「なんでなんですか?」

「男のマネをしたこと? そうね・・・・・・。ずっと映画を休んで、女性が好きな自分を、セクシャリティを見つめ直していた時に・・・・・・」



「あ、それで映画に出なくなったんですか?」


「ええ。映画業界にいた時に男性に求婚されたり、セクハラされたりすることが多くて、もう嫌気がさしていたの。それと、レズビアンであることを公表しようとしたことで事務所とも対立しちゃって・・・」


そんなことがあったとは知らなかった・・・・・・


「それで、休むことにしたの。全てを」


「だから映画に出なくなったんですね」


アヤカはうなづいた。


「そんな時にコロナが始まって・・・・・・。家で過ごすことが多くなって。そんな時に私の得意な演技を生かして、ホストになって女の子に出会おうって思ったの」



すごい・・・・・・ 私ならそんなこと、思ってもできない。


「でも、これって思える女性と出会えなくて。ホストとして成功はしたけどね。女性の感情を読むのは得意だから。女性だから。それで、紹介されて店を変えたの。ガイアに」


「そうだったんですか・・・・・・」


「店長さんは知っていたの。私が女だってこと。でも面白いってことで雇ってくれた。あなたは何人目だったかな。忘れちゃったけど」



アヤカはココアを一口飲んだ。


「あなたが私の映画が好きだって言ってくれた時、嬉しかった。よっぽど、私がその映画に出てる本人だって、言ってしまおうかと思ったこともある」


「私、そんなこと言われたら心臓発作で倒れてしまったかも!」


またアヤカが笑った。


そんな彼女の笑顔を見ていると、何時間も寒空の下でいたことを忘れさせてくれた。




それからどれだけ長い間話しただろう。


窓辺に立って、外を見ると、朝日が登ろうとしていた。


あの東京タワーもここから見ることができた。


アヤカは私の後ろに立って、そっと抱きしめてくれた。


とてもいい匂いがした。

全てが柔らかく、心地よかった。

「アヤカ、また付き合ってもらってもいいですか?」

「それはこっちのセリフ」と怒ったように言われた。


「え・・・・・・あの・・・・・また付き合いましょう、アヤカ」

アヤカは返事代わりに私の首筋に優しくキスをした。


「実はね、また女優に戻ろうと思うの」

とても良いアイデアだと思った。





一週間が経って、また日常が戻ってきた感じがした。


あれから何度かデートした。


アヤカは本格的に映画業界に戻るために動き出したようで、最近は送られてくる脚本を呼んだり、新しい移籍先の事務所との打ち合わせで、一緒の時間を作るのが大変で、前にようにずっと長いこと一緒にいることはできなかったけど、それなりに楽しく過ごせた。

彼女の特徴的な銀髪は美しい黒髪に戻って、肩まで伸ばすようになった。


レズビアンであることも世間に公表して、一時マスコミを騒がせた。


そうさせたのも、私のおかげだと言ってくれた。


ヤスシのことについても話しておかなければいけない。


彼には電話で、もう会うことはできないと伝えた。


記憶に残っているのは2回のデート。


一つ目は彼女の誕生日。


12月21日だった。


彼女のマンションに行って自分が作ったケーキを一緒に食べた。

俳優仲間たちも彼女の復帰祝いに駆けつけた。

ミカコと彼氏も呼んで、彼女に紹介して、一大パーティーとなった。

もちろん、密になりすぎないように、少人数に抑えて気をつけたよ。


彼女もとても喜んで、良い思い出になった。




二つ目は・・・・・・

ラブラブなデートだった。


言うのも恥ずかしいけど。



クリスマス・イヴに、ホテルをサプライズでプレゼント。


東京のトップ20に入る高級ホテルの一室に彼女を招待。



タクシーを降りた時から、彼女は驚きっぱなしだった。


招待した自分もだけど。


ホテルの内装は超豪華で、彼女は「超キレイ!」とずっと驚いていた。


ここだけの話、かなりお金を出しました。



何だってするよ。彼女のためなら。


喜んでくれたみたいで、すごく嬉しかった。


エレベーターで2人で30階の部屋に上がる時もドキドキしっぱなし!

彼女の手を握る私の手は汗まみれで、不快に思っただろうなあ、彼女!



「カナ、嘘でしょ! こんなにすごいホテルって・・・・・・! 私、食事に来ただけと思ったよ!」


もちろん食事もサプライズの一部だった。


ホテルの腕利きのシェフが作ってくれた特製クリスマス・フレンチディナーはとても美味しかった。私が人生食べたものの中で5位には入るうまさだった。


ドアを開けて入る部屋はとても広々で、言葉で言い表せないくらい綺麗だった。


まるでハリウッド映画か、ディズニーのお姫様映画の1シーンのようだった。


「めっちゃ広いやろ!」

思わず、関西弁が出てしまった。



最後のサプライズはベッドルームにあった。


ベッドの上にはバラが散りばめられて、ハートの形を作っており、さらにその中心には二つの黒い小箱が置かれている。

開けると、彼女が欲しがっていた時計が。

彼女用と、私用。おそろい。


「ちょっと早いけど、クリスマス・プレゼント!」


「ありがとう・・・・・・! こんなによくしてくれて・・・・・・!」



彼女の言葉を、私の唇でふさいだ。

「アヤカ、愛してる」


彼女も深いキスで答えてくれた。

「うん、私も愛してる、カナ」



その夜、私たちは裸で一つになった。 お互いの初めての夜。



最高のサプライズデートとなった。


もちろん、次の日のクリスマス当日も楽しんだ。


ふたりでイルミネーションを見に行ったのだ。


最高のサプライズができた。



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