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愛、それは……バレンタイン~ その4

 いよいよ明日がバレンタインデーの本番なわけですが……ちょっと困ったことが起きました。

 ……事態は昨日に遡ります。

 昨日のお休みは、テトテ集落へ行く日でした。
 月に2回行くことにしているテトテ集落なのですが、最近の出迎えのすごさはちょっと半端ないです。
 以前は、パラナミオ1人連れて行っても大歓迎だったのがですね、
 そこに、リョータが加わり、
 今はさらにアルトとムツキが加わったわけです。

 元々お年寄りが多いテトテ集落なもんですから、子供のパラナミオが訪ねてくるのを楽しみにしてくださっていた皆さんは、これにリョータが加わっただけでも大歓迎の度合いが増してですね、集落の入り口にある物見櫓に垂れ幕を下げて歓迎してくるほどになっていきました。
 もともとこの物見櫓2つもですね、元は僕達が乗ってやってくる電気自動車のおもてなし一号の到着を確認するためだったところに、垂れ幕をセットするという役割が加わったわけなのですが……
 今までは、スアとパラナミオ、そしてリョータの名前がでかでかと見える形での垂幕だったんですけど、「歓迎」の文字を加えて、3人の名前を書き加えると垂幕二枚がいっぱいになってたんですよね。
 ……あぁ、少し捕捉しておきますと……この垂幕には一応僕の名前も入っています。
 ですが、垂幕の高さが足りなかったらしく、今ある物見櫓にこれをぶら下げるとちょうど僕の名前の部分だけが地面の上に横になっちゃってですね、おもてなし一号からはまったく見えないんですよね。
 そんな状態のところに、新たにアルトとムツキが加わったわけです。
 この事態に対し、テトテ集落の皆さんの対応はびっくりするぐらい早かったんです。
 昨日出向いた際には、もう垂れ幕にアルトとムツキの名前が書き加えられていたんです。
 で……物見櫓が1つ増えていたんです。
 その新しい物見櫓から垂れ下がっている真新しい垂幕に「アルト」と「ムツキ」の名前が加わっていたんです。
 ……もうわかりですね?
 アルトとムツキ用に、新たに垂幕が作成され、なおかつその新しい垂幕用に物見櫓が新設されたわけです。
 ……はい、僕の名前は相変わらず地面の上に横たわっているわけです。
 べ、別に悲しくなんかないんですよ……ただ、なぜか無性に目から汗が出てしまうだけです。

◇◇

 テトテ集落ではいつものように子供達の周囲にお年寄りの皆さんが集まっています。
 で、やはりさすがの人気なのがパラナミオなわけです。
 ヨチヨチ歩きが出来るようになったリョータや、笑顔で愛想を振りまいているアルト、愛らしい寝顔のムツキといった3人のところにもですね
「おうおう可愛いのぅ」
「めんこいめんこい」
 お年寄りの皆さんはデレデレしながら歩みよっているのですが、すぐさまその場を離れると、パラナミオの前に移動して行くんです。
 えぇ、毎度お馴染みの「パラナミオあ~ん」をしてもらうためです。
 これ、僕が毎回持って来ている温泉饅頭をですね、お年寄りの皆さんがパラナミオに食べさせてもらうことなんですよね。
 最初は、お年寄りの皆さんがパラナミオに食べさせて上げるために購入していたんですけど
「じゃあ、お返しに私が食べさせて上げますね、はい、あ~ん!」
 って、パラナミオがやり始めたのが最初なわけです。
 今では、僕達がこのテトテ集落に行商に来ますと、皆さんは、まず何を差し置いても温泉饅頭を1袋購入して、それからパラナミオの前に並ぶのが慣例になっているんです。
 列に並んでいる皆さんもですね
「いやぁ、パラナミオちゃんに「あ~ん」してもらわないと、落ち着かなくてな」
「パラナミオちゃんに「あ~ん」してもらったら寿命が延びる気がするしね」
「あぁ、まったくだ、俺は10年は確実に寿命が延びたな」
「何? なら俺は11年だ」
「あぁ、間違えた、俺は12年だったか」
「何? なら俺も間違えた。俺は13年だ」
 ……とまぁ、よくわからない言い争いまで発生しちゃうほどに大盛況なわけです、はい。
 ちなみに、こういった言い争いはですね、すぐにパラナミオが
「皆さん、喧嘩はダメです!仲良くです!」
 そう言うと、言い争いをしていた方々だけでなく、その周囲にいた皆さんまでもがパラナミオに向かってビシッと気をつけをしましてですね。
「「「「はい! ごめんなさい」」」」
 一斉にそう言って、一斉に頭をさげて解決するわけです。

 で、その光景を、リョータとアルト達も
『パラナミオお姉ちゃん、すごいですね』
『お年寄りの方にもきちんと注意なさるなんて、素晴らしいですわ』
 そんな思念波での会話を交わしながら感動してる様子でした。
 
 パラナミオはですね、リョータとアルトが自分のことを見ているのに気がつくと
「二人とも、一緒にやりましょう!」
 そう言いながら笑顔で手招きしています。

 で

 ここからの「パラナミオあ~ん」はですね、漏れなくパラナミオ・リョータ・アルトの3人から温泉饅頭を口に入れてもらえるようになりました。
「こっちがリョータです。こっちがムツキです。二人とも大好きな弟と妹です!」
 笑顔でパラナミオがそう言うと、
「ねーたん、ちゅき」
「あ~」
 リョータとアルトも笑顔でパラナミオに抱きついていきます。

 で

 その姿を見たテトテ集落のお年寄りの皆さん
『萌え~』
 って文字がでっかく浮かび上がったんじゃないのかってくらいに、デレンデレンになりながら三人の仕草を見つめているんですよね。

 あ、ちなみにムツキは完全熟睡モードのため、スアが抱っこしています、はい。

 で、まぁ、そんなわけで、三人による温泉饅頭あ~んが進んで行きました。
 魔法で空を飛べるアルトですが、いきなりそんな姿を皆さんに見せてびっくりさせてしまってはあれなので、パラナミオに抱っこしてもらって、皆さんに温泉饅頭をあ~ん、しています。

 で、そんな時でした……

「パラナミオちゃん達は本当に仲良しだねぇ」
 そう、お年寄りの1人が笑顔でお話したときでした。
 お年寄りに、パラナミオは笑顔で言いました。
「はい、みんな仲良しです! 今もパパにあげるばれんたいんでぇのチョコケーキを、ムツキも加えた四人で作っているんです」

 ……はい

 この瞬間、僕達のいる広場の空気が一変しました。

……チョコケーキ?
……ばんあれんたいでい?
……パラナミオちゃんとリョータくん、アルトちゃん、ムツキちゃんの手作り?
……それをタクラ店長に?

 皆さんはですね、呪文のようにそんな言葉を繰り返しながらですね……あれ、おかしいな……なんで皆さん、僕を取り囲んでいるんですかね? あは、あはは……

 い、一応このテトテ集落にもおもてなし商会がありますのでバレンタインデーのポスターは貼っています。
 ですが
「今更爺さんにあげてもねぇ」
 みたいな声が大半でして、売れ行きは正直いまいちだったわけです。

 で、以前のパルマ聖誕祭ケーキの際のようなドタバタが起きないように、と、極力パラナミオ達を前にださないようにしてたんですけど……さっきのパラナミオの純真無垢な一言で……
 で、いつもはのんびりした口調のネンドロさんまでもがですね
「……タクラ店長さん、折り入ってお話があるんですけどね」
 と、まぁ、シリアスモード全開で僕に詰め寄ってきた次第です。

 で、話し合うこと1時間

 パラナミオ達が作成したチョコレートケーキをいくつかこのテトテ集落の皆さんにもプレゼントすることになりました。
 ただし、個数は未定。
 何しろパラナミオ達は1つもチョコレートケーキを成功させることが出来ていないのですから、安請け合いが出来ないわけです。
 その上で、パラナミオ達から集落の皆さんに、コンビニおもてなしで予約受付中のバレンタインデーチョコを手渡ししてもらうことにもなったわけです。
 、まぁ、こうしておけば最悪チョコレートケーキが1個も出来なかったとしても、一応格好はつきますんでね。

 で、話合いが無事妥結し、意気揚々としているテトテ集落の皆さんにやっと開放された僕を見て、パラナミオが困惑した様子で僕に駆け寄ってきました。
「パパ、パラナミオはまた何か失敗したのでしょうか?」
 少し泣きそうになっているパラナミオ。
 僕は、そんなパラナミオに笑顔で言いました。
「いいや、テトテ集落の皆さんを元気にしたんだ。パラナミオは良いことをしたんだよ」
 僕がそう言うと、パラナミオはぱぁっと笑顔になりました。
「よかったです! パラナミオはまたパパに迷惑をかけちゃったのかと……」
 なんか、こないだの一件以降、パラナミオさんは心配性な状態が過度過ぎな気がしないでもないんですけど……うん、そこは僕がしっかりフォローしないとね。
 僕がそんなことを思っていると、僕の腕をスアが引っ張りました。
「……私も、頑張る」
 そう言ってニッコリ笑うスア。
「うん、頼りにしてるよ」
 僕がそう言うと、スアは嬉しそうに笑いました。

 で、そんな僕達を見ながらテトテ集落の皆さんも
「いやぁ、ホント、タクラ店長さんとこは一家揃って仲良しだねぇ」
 そう言いながら、さらに笑顔になってくださってたわけです、はい。

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