第百三話
「……一応言っておくが、俺はオジサンじゃない。まだ37だ」
彼女は目を細めてケラケラと笑った。
「37なんて、もう立派なオジサンじゃん! でも、オジサンはイケメンだから大丈夫だよ」
何が悲しくてこんな小娘に励まされなければならないんだ。
よりによって和歌の姿をした彼女に。
俺は思わず舌打ちした。
完全に彼女のペースに飲まれている。
「…………ルーク・ウィルソンだ」
「へえ、そんな名前なんだ。ルーク・ウィルソン……ルーク…………じゃ、ルーくんって呼ぶね」
ルーくんだと!?
親にもそんな甘ったるいあだ名で呼ばれたことのないこの俺が……。
反論しようと口を開けたが、俺を見上げる純粋な瞳は和歌そのものだ。
(く……くそぉ! こんなの反則だぞ!)
「はぁ……もう好きにしてくれ」
肺に詰まった空気をはあっと吐き出し、俺は思考を投げ出した。
げんなりとしている俺とは対照的に、彼女はウキウキとした様子だ。
「はいはーい! じゃ、次は私の番ね。……私の名前は立花ワカ。ワカっていう漢字は、和歌山県の『和歌』って書きます! 宜しくね?」