第八十九話
強弱のついた口調に心がざわめく。
「……さあな」
「ウィルソンのこと考えてる」
女で積極的に言い寄ってくるのは渡辺アミだけだと思っていた。
太股の間に牧野の手がすり入ってくる。
「ねぇ……キスして」
酒のせいで頭がボンヤリする。
俺も酔っているのか。
牧野は俺の膝上に跨り、首の後ろに腕を回す。
分かっている。
和歌じゃない。
ちょっと似ているワンピースを着ているだけの、会社の同僚だ。
でも想像してしまうんだ。
これがもし彼女だったらって。
彼女もこんな風に俺の首に腕を回してくれたんだろうかって。
……ただ服が似ているだけなのに。
「………………」
ゆっくりと顔を近づけてくる牧野を遠ざけることも忘れている。
香水の甘ったるい匂いが更に思考を鈍くさせた。
グロスでぬらぬらと光っている唇が半開きになっている。
「あぁ……早く」と吐息を漏らす牧野。
俺の中で、男の欲望が顔を覗かせようとしていた。
「ウィルソン……」
酒で弱った心が甘い誘惑に溺れていく。
牧野の背中をさするようにして抱けば、彼女は恍惚とした表情を向けた。
(和歌……)