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愛、それは……バレンタイン~ その2

 チョコの予約を開始した途端にですね、ポスターの前にすごいひとだかりが出来たんです。
 そのほとんどは若い女性でした。
 なんかですね、男装しているゴルアを見つめて、みんなぽーっとして顔を上気させているんですよ。
 で、これ、びっくりしたのが、本店だけじゃなくて、2号店から4号店、すべての店で起きていたんですよね。
 魔法使い集落の皆さんまでもがポスター前に集合してたもんですから、僕もちょっとびっくりだったわけです、はい。
 で、そんな中、一人の女の子が言いました。
「あの……この画像の方にちょこれぇと? と言うものをお渡しして、愛の告白をすることは可能なのでしょうか?」
 そう言いながら、ポスターの中のゴルアを指さしていったんです。
 で、
 その周囲の女の子達も、すっごい気合いの入った目で僕を見つめているわけです。

 あ~……こりゃゴルアを男と間違えてる感じだな……
 そう判断した僕は、みんなを前ではっきり言いました
「あ~、悪いんだけど、その子、女性が男性の格好をしているだけなんだよ」
 うん、何しろ下手にごまかそうとしたり、はぐらかそうとしてもその場しのぎにしかなりませんからね。
 もうこういうのは最初からホントのことを言うに限ると思った訳です。
 すると、ポスターの周囲に集まっていた女の子達ってば、軒並みショックを受けた顔をしていました。
 まぁ、そうなりますよねぇ……ポスター見て一目惚れした相手が女性だったってなっちゃうとねぇ……

 で、

 2号店店長・シャルンエッセンス
「もうしわけございません。この方は女性なのでございますわ」
 3号店店長・エレ
「もうしわけございません。この画像の人物は生物学上女性に分類されておりますので」
 4号店店長代理・クローコ
「マジもうしわけありませ~ん。これ、女だし!」

 と、各店舗でも、責任者にしっかり説明をしてもらっておきました。
 そのおかげで、どの支店でも、お客さん達は皆、引き潮の勢いで帰宅していきました。
 うん、これでこの問題も解決したでしょう。

 ……そう思っていた時が僕にもありました。

 翌日です。
 昨日、すごすごと帰宅していった女性達なのですが……今朝ですね、その大半がまたポスターの前に集合していたんですよ。
 で、その中の女の子がいいました。
「一晩じっくり考えました……わ、私、このお方がじょ、女性でもかまいません!」
「え?」
 目を丸くして固まった僕の前で、ポスター前に集合している女性達は、一斉に
「私も!」
「私もです!」
「私もよぉ!」
 と、顔を赤らめながら宣言し始めたんですよ。

 これは、本店だけではありませんでした。
 2号店から4号店まで、すべての店で同じ事が発生していたんです。
 全ての店に、
「女性でも構わないから、チョコレートを渡して思いを伝えたい!」
 っていう若い女の子達が集合してたわけです、はい。

 この事態を受けまして、僕は急遽各店の代表を本店に集めて緊急会議を開きました。

「とりあえず、この事態をどうしたらいいと思う?」
「もう、いっそのことチョコを渡させてあげたらいかがでございましょう?」
「そうは言うけどさぁシャルンエッセンス、ゴルアには結構無理言って写真撮らせてもらってるし、そこまでしてもらうのはどうかと思うんだけど……」
「でしたら、ご本人の意向を確認してみてはいかがでしょうか?」
「やっぱエレの言うそれかなぁ……でも、それで断られたら……」
「そんときゃそんときだってば! うじうじ考えててもチョベリバだってば」
「やっぱそうかねぇ、クローコさん……」

 ……とまぁ、そんな感じのやりとりをしていった僕は、ゴルアの意向を確認すべく、翌日辺境駐屯地を訪れました。
 以前この辺境駐屯地がゴタゴタしてた時には、コンビニおもてなしの弁当なんかを、電気自動車のおもてなし一号で届けたりしてたんですけど、ゴルアが隊長になって以降は部隊内がしっかり整備されまして、調理係とかしっかり任命されているらしく、最近はコンビニおもてなしから配達しにこなくても大丈夫な状態になっています。
 お酒なんかが必要な時も、誰かが店までやって来て買って帰っています。
 そんなわけで、僕がこの辺境駐屯地までやってくるのも久しぶりでした。

 で、僕は、隊員の女騎士に案内されて隊長室へと異動していきました。
 そこには、この辺境駐屯地の隊長であるゴルアの姿がありました。
 ゴルアは、僕の顔を見るとニッコリ笑いました。
「タクラ店長じゃないか。歓迎いたしますよ」
 そう言って、僕を応接セットに座らせたゴルアはその顔に笑顔を浮かべていました。
「で、タクラ店長殿、ここまでお越しくださったのは、私に何か用事があったからなのでしょう?」
「あぁ、それなんだけど……」

 と、まぁ、そんな話の流れで、僕は今の状況を説明していきました。

「……ほう……男装した私のポスターを見た若い女の子達が、私に愛の告白をしたい……と……」
「あぁ、そうなんだ。なんかさ、男装してるゴルアに一目惚れしちゃったらしくて、是非ってみんな言ってるんだよ」
「……それで、タクラ店長殿は私にどうしろと?」
「ん~……もしよかったらなんだけど、店の前に立ってチョコを受け取ってもらうイベントをさせてもらえたら嬉しいなぁ、と思ってはいるんだけど……やっぱ迷惑だよね?」
「そうですね……辺境駐屯地の隊長としては、迷惑なお話ですね」
 ゴルアは、きっぱりそう言いました。
「あぁ、まぁそうだよね。ごめんごめん、忙しいのに邪魔しちゃって」
 僕はそう言うと、立ち上がっ……

 あれ

 立ち上がろうとした僕の服を、ゴルアが必死に腕を伸ばして掴んでいます。
「……ど、どうしたのゴルア?」
「あ、い、いや、タクラ店長殿、いくらなんでもあっさり諦め過ぎではありませんか?」
「は?」
「あ、いえ……ごほん。わ、辺境駐屯地の者達はですね、辺境にあります都市で暮らされています人々のために尽くすのが仕事であります……となればですよ、そんな辺境の土地で店を営んでいるお方が『ど~してもお願いしたいんですが』と、強く申されればですな……」
「あ、いや、そこまで無理言う気はないから……」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってほしい、タクラ店長殿! だ、だから頼みもしないで諦めるのはよくないのではないかと思うわけでして……」
「だから、無理はいわないって。ゴルアにはいつもお世話になっているんだしさぁ」

 と、まぁ、僕はあっさり引き下がろうとしているんですけど、

「だ、だから、そんなにあっさり諦めないでですな……」

 そんな僕を、ゴルアはなんか必死の形相で引き留めていくわけです。
 で、そんなやりとりがしばらく続いた後、
「やりますから! やらせていただきますから! どんなことでもやりますから、女の子達の相手をさせてくださいませ~」
 って、なんか頼みに来た僕に対して、ゴルアの方が土下座しながら懇願してくるというわけのわからない状況になったわけです、はい。

 まぁ、あれです。
 この女だらけの辺境駐屯地の隊長のゴルアです。
 隊員の女の子に慕われるのがすごく好きなゴルアです。
 以前、ガタコンベの護衛任務を行っていた際に、イエロのことを「お姉様」といって慕っていたゴルアです。
 
 女の子達にチヤホヤされることになるこのイベント……本来であればドンとこい!だったのかもしれません。
 ただ、一応辺境駐屯地の隊長という立場があるだけに、すぐに受諾したら問題になるかもしれないと思ったゴルアは、わざと一回断っておいて、そこで僕がさらにお願いしてきたら、
「まぁ、そこまで言われるでしたら、致し方ありませね」
 とかもっともらしい事を言いながら、この話を受ける気満々だったのでしょう。
 ですが、僕が予想外に早く諦めて帰ろうとしたもんですから、ゴルアは慌てに慌てて、最後には土下座ませして懇願するにいたってしまった、と……

 とにもかくにも、コンビニおもてなしでは、
『ポスターの男性にチョコレートをプレゼントしよう!キャンペーン』を開始しました。
 コンビニおもてなしでチョコレートを購入した方で、そのチョコレートをポスターの男性に手渡したいと希望される方は、14日のバレンタインデー当日に、男装しているゴルアにチョコを手渡せるイベントを「行うことにしたわけです。 
 対象はあくまでも14日の前日までにコンビニおもてなしでチョコを購入した方限定ってことにしています。

 で、この告知をバレンタインデーのポスターの横にはったところ、早速若い女性達がレジに殺到してチョコの予約を申し出て来た次第です。
 その勢いたるや、普通の弁当を買おうとしてレジに並ぼうとしている人達をはじき飛ばす勢いでして……

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