海難事故の漂着者達
階級やら宗教やらと人の社会はとかく複雑である。それでも自然に出ればそんなしがらみは無くなり、生きるか死ぬかの弱肉強食の単純な世界となる。
男達が漂着したのは、そんな自然が拡がる世界であった。
「ここは何処の砂浜だろうな」
船が高波に呑まれてしまってからの記憶が無いが、目を覚ました男達は周囲を見て、自分達が生きて陸に漂着できたのだと実感する。しかし、そこが何処の砂浜かは見覚えが無かった。
とりあえず生存者を探した後、全員で一ヵ所に集まる。流れ着いたのは全部で六人だった。
生存者で集まり落ち着いたところで、改めて男達は周囲に視線を向ける。
そこは何処までも続く砂浜と、砂浜に隣接する森という場所であった。森に入れば食料や水が確保できるかもしれない。しかし、同時に魔物も居るかもしれない。
現在の男達は武器になりそうなものは持っていなかった。所持していた剣などは漂流した時に海に落ちたのだろう。
そんな状況で魔物に出会えばひとたまりもないかもしれない。かといって、その場で待っていれば都合よく誰かが通りかかって助けてくれるとは思えない。なにせ、砂浜には誰かが使っているような痕跡が無かったのだから。
では船が通りかかるのを待つという方法もあるにはあるが、それもまた望みは薄いだろう。男達が目覚めてから既に数時間が経つが、船の姿は一度も目にしていなかった。そもそも現在地も不明だ。
「もしかして、ここは話に聞く別大陸じゃないよな?」
一人の男が不安げにそう口にする。
別大陸。それは男達が暮らしていた場所でまことしやかに囁かれていた噂話で、何でも男達が暮らしている大陸とは別に大陸が存在していて、そこでも人が暮らしており、そこではまた違った文化が発展しているという。出所は不明だが、そこそこ古くからある噂話ではあった。そこから派生した話も多く、中には人食いの暮らす大陸が在るという話まであったほど。
なので、男が不安げに口にしたのもしょうがない部分があるのだろう。普段はそんな与太話を信じていなくとも、いざその可能性が在る渦中に放り込まれてしまえば、普段の冗談も真実味を帯びてしまうというもの。
「「「「「………………」」」」」
その言葉に男達は一斉に黙ってしまう。それを否定する証拠も無いのだ。それに、全員それを信じたくないというのもある。もっとも、仮に本当に別大陸だったとしても、そこが酷い場所とは限らないのだが。漂流したという不安のせいで、全員がネガティブな思考に傾いてしまったのだろう。
しばらく全員で黙っていたが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、男達は今後の方針について話し合ていく。話し合いの結果、まずは二手に分かれて可能な範囲での森の探索と、砂浜に何か使えそうな物が漂着していないかを探すことにした。
そうして組み分けも済ませると、男達は不安そうにしながらも、生き残るために早速行動に移っていった。早くしなければ日が暮れてしまうのだから。