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叔父の乗った車が見えなくなるまで見送っていると、背中からするりと逞しい腕が身体を包み込む。
包まれるような暖かさを感じて、寒かったことに気づいた。
こめかみに彼の頬が触れて、やんわりと耳たぶにキスをされると真理はくすぐったさに顔を竦めた。
「身体が冷えてる、入ろう」
そう言うなり、お姫様抱っこで抱き上げられて、真理はくすくす笑った。
解放されてから、何度言っても歩くことを許さない。
筋力が落ちるから歩くと言っても、骨がつくまではダメだと言ってきかないのだ。
クロードからは、まぁ付き合ってやってくれっす、と呆れられながら言われてる。
「結構、長く話してたな」
誰もいなくなったリビングに運ばれて、ソファーに降ろされる。
アレックスはロナルドの事を結構気にする。
王子との交際を叔父が反対してることを知ってるからだ。
しかも、日本に自分が逃げた際に、彼は罵詈雑言を浴びせられている。
アレックスのそんな気弱さが分かっているから、真理は安心させるように言った。
「早く写真を納品しろって。一枚のギャラは変わらないからなって言うから、ギャラアップの交渉してたの」
へぇと安心したような面白そうな顔をやっとすると、彼は床に膝をついて、丁寧な手つきで真理の靴と靴下を脱がすと、優しく擦る。
そして、脹脛に唇を這わせた。
これはここ最近の彼のお気に入りの行為だ。医者とクロードの言いつけを守って、抱きしめることをかなり彼は我慢してくれている。
もちろん真理も抱きしめて欲しいが、いかんせん、肋骨のヒビは思った以上にやっかいで、ふとした拍子で痛くなる。
朝起きたり寝返り打ったり、屈んだりができない。
強く胸周りから背中にかけて抱きしめられるのも、まだ無理だ。
一度、我慢しきれず思わず抱きしめられたことがあったのだが、それからしばらく痛みが続いてしまい、アレックスはクロードに部屋から追い出されたことがあった。
そんなこんなで、王子が妥協案?として始めたのが恋人の脚と手に触れることだった。
真理的にはそれはそれでちょっと困ってしまうのだが、頑張って我慢をしている。
アレックスはひとしきり、膝頭や脛にもキスをすると満足したのか顔を起こして真理を見つめると思わぬことを告げた。
「長かったから疲れただろう、ちょっと微熱もあるから少し休んだほうが良い」
微熱と聞いて驚く。
「そう?」
自分では感じてない体調の変化に、アレックスはやたらに敏感になっている。
「ああ、額が熱い」
彼の大きな手のひらがうなじに回ると、顔を引き寄せられる。
おでこに彼のそれがぴたりとくっつくと、真理はむぎゅっとアレックスの鼻を摘んだ。
「んにゃっ!いってっ!!」
とっさに顔を離したアレックスを見て真理は吹き出すと、膝立ちのままのアレックスの頭をやんわりと自分の胸に抱き寄せた。
「心配しすぎ、私は丈夫よ。それに・・・ロニー叔父様のことも気にし過ぎ」
そう言うと、アレックスの腕がおずおずと腰に回り、ギュッと抱きしめられた。
「そうか・・・でも君の身体の心配は、過保護とか過干渉と言われても俺はし続ける。あと、君の叔父さんは俺には鬼対応だから、ちょっと心配になる」
ごめん、そう呟くとアレックスは顔を上げた。
不安げに揺れるアレックスの琥珀色の瞳は翳りを帯びている。
彼こそPTSDが心配だが、聞いてもアレックスは大丈夫としか答えない。
先ほどの叔父との会話のすべてを伝えるのは難しいが、少しでも安心出来ればと真理は続けた。
「叔父は、アレクが私を守り通してくれるんだと思えるようになったって言ってたの」
「そうか?!」
パッと明るい表情になって真理も嬉しくなる。
やった!と、無邪気に喜びを露わにするアレックスに真理もにこやかに答えた。
「そう言われて私もとても嬉しかった。何度でもあなたに感謝する、あなたのおかげで、私は今生きていられる。私をいつだって守ってくれるから」
ありがとう、そう言うとアレックスははっと息を飲むと、すぐに瞳を眇めて被りを振った。
「違う、真理、違う」
彼女の言葉を否定すると、熱のこもった口調で続ける。
「俺の方が何度も感謝している。君に、そして神に感謝してるんだ」
言いながら真理の両手を握りしめて指先に口づけると、背を伸ばして顔を近づけてくる。
真理も彼の顔を見下ろした。
明るくなった琥珀色の瞳に自分のうっとりしたような顔が映っていて。
唇が触れそうな距離で王子は呟いた。
「真理と出逢えた嬉しさを・・・君を愛することが出来る幸せを・・・君が無事だったことの奇跡を・・・今、真理と一緒にいられる喜びを・・・」
繰り返し、繰り返し、繰り返し君と神に感謝している・・・熱に浮かされたようなトロリとした熱情を纏ってそう言われて・・・すぐにアレックスの熱を帯びた唇が、静かに真理の冷えたそれに押し当てられた。