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第81話 でっちあげの救国の聖女

 宰相がブレンダンに向かって、冷ややかな視線を送った。

「おやおや。お久しぶりですな、ミットフォート公爵。顔が真っ黒ではないですか。服装も変わったものをお召しですなあ」

「日焼けですよ。おかげさまでね。砂漠を横断するなんて人生初めてのことでしたから。服ですか? いやあ、キャラバン隊の一員に見せかけるためですよ」

「ほう、それは、それは。なかなか、しぶといおかたですなあ」

 何食わぬ顔でそう返してくる宰相に、ブレンダンが目をすがめて睨みつける。

「私はおまえらの不正の証拠を握っている。国庫から勝手に金を抜き出し、贅沢の限りを尽くしていただろう。それに気がついて証拠を集めていた私を、冤罪で陥れた。その……」

 怖いものなしといった風情で脚を組むアリスを凝視すると、忌々しい口調で言い捨てる。

「救世の聖乙女などといった、でっちあげの聖女を使ってな」

 ブレンダンが紙束を胸のポケットから取り出しすと、アリスと宰相に見せつけるようにして突き出した。

「ここにすべて金の動きを詳細に書いてある。証拠としてミストリア王室に提出し、出庫明細と照らし合わせたら、おまえらの不正は暴かれる。覚悟しろ」

 証拠の紙束を目にして、アリスが腹を抱えて笑い出す。

「あはははは……だから、なに? 私のお金を私がどう使おうと自由でしょ? 私はもうすぐ王妃になるのよ? 国庫の金を使ってなにが悪いの?」

 ジャファルが呆れた声で、言葉を差し込んだ。

「ミストリア王妃はご存命で、健康そうに見えるがな」

 アリスが、肩を竦めてこともなげに言い返す。

「フォーチュンナイトたちに殺させるわよ。ユージンあたりにやらせようかしら」

 簡単に「殺す」と口にするアリスに対し、ローゼマリアは頭にカッと血が上ってしまう。

「親を殺させるなんて言う、あなたのほうが傾国の悪魔だわ!」

 ローゼマリアの激怒に、アリスはしらっとした顔をするだけだ。
 そんな人間としての心のなさが、ローゼマリアには虫酸が走ってしまう。

「親より私のほうがだいじなはずよ。私の命令はなんでも聞くんだから」

 そこまで言われて、ローゼマリアは怒り心頭になってしまう。

「……なぜ、あなたのように凶悪な女性が、救国の聖乙女なのです? いったいなにを救うというのですか? あなたには、誰も……なにも救えませんわ!」

 ローゼマリアの激情をともなった怒りに、アリスは唇を尖らせて、手のひらををひょいと見せた。

「知らない。気がついたときは、そういう役目だったのよ。しょうがないじゃない?」


 気がついたときには――?

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