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9話 first job

「悠斗、君に聞きたいことがある。」

話しかけて来たのは幹部の1人吉川だった、彼は和希と大学で同じサークルのメンバーらしい。

「何でこの世界に踏み入れたの?」

誰か1人は聞いてくると思っていた、だが答えられない。

「それは…まだ言えないです。すみません。」

自分の友人が敵対するblasting crewの幹部だとは言えなかった、このタイミングで知られるとここでの関係性に大きく溝が入るだろう。しかし誤魔化すわけにはいかない。

「ふーん、どうしても言えない?」

「時期に話すことは出来ると思います。すみません」

「入る理由は色々ある、僕にもね。あと君、詰め寄られても答えないのは正解だよ、この世界で生きていくにはね。まあ俺だって監禁されたりしたら口割っちゃうかもしれないけど。」

吉川は笑い飛ばした。彼は悠斗に疑いの目を持っているのではなく、ここでの振る舞い方を見定めていたようだった。

「そうそう、僕たちは情報収集をしているんだよね、気になることがあったら聞いて。ちなみに、君のことはもう調べてあるよ、入った理由もね。」

知った上で悠斗に話を降っていた。聞くと彼を含めて5人が情報係、市内の状況を調べ上げて幹部達に報告。今後の行動を決めているらしい。

「自分でチームを作り上げないといけないから困ってるでしょ?良さそうな人がいたら紹介するからね。」

非常に助かると悠斗は彼等に礼を言い、他のメンバーに再度声を掛けられたところで仁に肩を叩かれた。

「悠斗、そろそろ行こうか。」

今日やることはまだ終わっていないようだ。仁は和希を起こしにソファへ向かった。悠斗が1階に上がると、店主が仕事に取り掛かっている手を止めて呼びかけてきた。

「兄ちゃんまた来なよ、何でも聞くけん。俺の名前は金丸、よろしく。」

初め会った時より穏やかな表情で悠斗を送り出してくれた。

「悠斗、早速活動始めよっか。」

「じゃあまずはメンバー探しっすかね、まだ自分1人ですし。」

「そう!けど、その前に挨拶回りに行こうぜ。これから色んな人と関わっていくんやけん。」

「いや仁、今日はあの日やけん。一仕事せんといかんよ。」

「え?あ、そっか今日か。」

「悠斗も着いておいで、俺と和希さんなら何かあっても大丈夫だからさ。」

「鍵渡しとくから先に車に乗っとって。」

仁と和希はそう告げ、店内に戻っていった。車に乗り暫く経つと、仁と和希はジャケットを着て現れた。つまり2人は今からチームの一員で行動する。

「悪くないでしょ俺達のジャケット、悠斗もチーム結成後は作ると良いさ。」

ジャケット姿を3人で車に乗り込み走り出す。

「悠斗、家に連絡はしなくていい?あ、一人暮らしだったな。遅くなっても大丈夫?」

「朝起きれるぐらいの時間までなら。」

悠斗が言うと仁は指で丸印を作り、ナビに住所を入力する。目的地は東区貝塚。

「なんか斜め後ろの車着いてきてない?」

「なんか怪しいっすね、誰が乗っとるか見えんやろか。」

「悠斗、そこのセダンおるやろ。ジャケット着てるとか、どんな雰囲気の人かちょいちょい見てくれん?」

和希から言われた通り、相手側から気付かれないように覗き込む。2人乗っているのが見えるがジャケットは着ていない。仁に伝えようとしたところで後部座席に移ってきた。

「あの2人、翼園会の人間やね。」

「blasting crewから依頼されて車を探していたら、あいつらのシマを通りかかって見つけられたってわけね。」

翼園会といえば東区に事務所があるヤクザだ、地域柄blasting crewと付き合いがあるのは周知のこと。

「今じゃヤクザよりもblasting crewの方が立場は上やけんね。信じられんかもしれんけど、ヤクザも仕事が無くてさ。」

「てかどうするよ、このまま目的地着いたら俺ら不利やぜ。」

「あいつらに任せようか。」

仁はスマホを取り出し複数のメンバーに連絡を取る。

「亮太か?今博心会に着けられとるんよね。そうそう、今だとまずいからさ、相手してやってくれん?」

これでOKと、仁は紙の地図をバックから取り出し確認し始めた。貝塚にある団地、地図にはメモが書かれており情報係が事前に下見をしていたようだった。

「団地とか、通路よく確認しとかんと出られんことなるけんね。」

車から降り団地内を歩き回る。棟数は多いが住んでいる者が少ない為か暗く不気味、ベンチにはカップ酒片手に震えている爺さんもいる。

「悠斗、気引き締めとけよ。」

「怖いのは俺らの敵だけやないけんね。」

ゴミ捨て場の影から建物を見ていると、3人大学生ぐらいの男が団地の階段から降りてきた。

「今日のターゲットはあの3人、とりあえずあいつらの行動を捉えて抑えること。まあ尾行やね。」

和希はビデオカメラを持ち、タイミングが来るまで待っていた。
彼等はそのまま車に乗り込み移動し始めた、3人も車に乗り跡をつける。

「さっきのアイツらみたいにバレたらつまらんっすよ。」

和希はうっせえなと呟きハンドルを握る、昨日もそうだが2人は運転中茶々を入れ合っている。彼らを付けるとアイランドシティにあるマンションの駐車場に着いた。周囲を確認後降りてきた3人は、車内から工具を取り出し車を一台一台見て回る。

「よう見よるねあいつら。」

「ターゲットはあの車じゃないですか?」

止まっているのは高級スポーツカー、彼等は近づき慣れた手付きでタイヤを外し始めた。

「車上荒らし?」

「そういうこと。俺らがやることはこいつらの現場を抑え、ついでにお仕置きもね。」

仁は少し笑い手に持った警棒を手で叩いた。

「和希さん、もう全部撮れましたよね?」

「おう、吉川にも送ったし。後は警察が来るだけやろ。」

「あとは逃げられないように、よし!」

そう言い放ち2人は車の裏側に回り、彼等が4本目のタイヤを外し終えたタイミングで飛び出して羽交い締めした。

「お前ら何やってんのー、人のもんやったらいかんよね。」

「逃げても無駄ばい、もう全部抑えとる。」

「くっそmellowsの奴らか、まだ気付かれてないと思っていたのに。」

「これがニュースにならんように止めてたの俺達やしね。悠斗!逃げた1人はお前に頼んだ!」

逃げた奴は駐車場を飛び出し大通りにいることを確認し、悠斗は走り出した。

「クッソ、追いつけねえ!」

必死に手を伸ばすが2、3歩足りない、悠斗は体力がある方ではなく少しずつ離されていく。最初の仕事を成功させたい思いに体が着いていかない。諦めかけていたところ横を一台のバイクがすり抜け、追いかけていた奴の前で止まる。

「仁さんから連絡があって来たよ。これで挟み撃ちだね。」

目の前に現れたバイクの男はクラスメイトの澤村だった。

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