第65話 ニュー攻略キャラ『難攻不落のジャファさま』ですかっ?!
恐怖に怯えた色を浮かべるモブ盗賊たちに向かって、ジャファルが楽しそうにニヤリと笑った。
「薄布一枚を狙って切り裂くぐらいわけがない。次はきさまらの皮膚を剥いでやろうか」
「ひっ……なんという手練れだっ……」
モブ盗賊が逃げ腰で、一歩、また一歩退いていく。
「ジャファルさま!」
感極まったローゼマリアが彼の名を呼ぶと、モブ盗賊たちがあっという顔をした。
「ジャファル……? どこかで……もしかして、『砂漠の黒い鷹』かっ……!」
(『砂漠の黒い鷹』……? 砂漠の……どこかで聞いたような……どこで?)
「あ、兄貴ぃ……ど、どうしやすか」
もうモブ盗賊は泣き出しそうになっている。
「に、逃げるぞ!」
「待ってくださいよ~兄貴ぃ~」
下穿き姿で逃げ出すモブ盗賊を追いかけることなく、ジャファルが半月刀を腰のホルダーに戻した。
「私のとおり名だけで逃げ出すとはたわいもない。無事か? ローゼマリア」
「……あ」
突然ローゼマリアの脳内に、前世の自分が浮かびあがった。
ノートパソコンをカタカタと叩き、一生懸命ゲーム情報を収集している、もっさりした女性。
キャッキャウフフしながら、ブツブツとひとりごとを言う姿は、完璧に限界突破したオタクそのもの。
「……もうすぐ、最後の攻略キャラのトゥルーエンドが見られる。そうすると例の課金ダウンロードコンテンツが遊べる……うふふふふ……楽しみ……」
(そうよ。わたくしは根っからの乙女ゲーマー。ハマりにハマった乙女ゲーム『救国の聖乙女と10人のフォーチュンナイト』の、まとめサイトから攻略サイト、掲示板すみずみまで網羅していた……)
「ふわっ! 嘘! 浅黒い肌系のシークですか! おおう……尊い……萌え死ぬ……」
公式で発表されたばかりの新しい攻略キャラに、ユーザーはみな浮足立っていた。
『砂漠の黒い鷹』と呼ばれるイケメンシーク。
そのスチル画像をひとめ見たいがために情報を探し求めたが、まったく入手できなかった
ニュー攻略キャラを出現させる条件があまりに厳しく、ネット上にほとんど画像が上がっていなかったのである。
ニュー攻略キャラの出現条件――
それは、フォーチュンナイト10人のトゥルーエンドをクリアした証である聖鏡水晶を入手し、なおかつ課金ダウンロードしてやっと加入する。
そもそも、攻略キャラ全員のトゥルーエンドを攻略できたガチ勢が少ないのだ。
(思い出したわ! 確か……掲示板の中では『難攻不落のジャファさま』と呼ばれていたのよ。彼を出現させるだけ途方もない時間と手間がかかり、なおかつ課金キャラで、そのうえ攻略するのも涙が出るほど難しいと……!)