10
全身を真っ赤に蒸気させて、呼吸を乱しながらうつ伏せのままベッドに沈み込む彼女はひどくそそられて美しい。
何度も絶頂に追い上げられて息も絶え絶えな真理の身体を背中から抱きしめたまま、アレックスは、また首筋に歯を立てた。
「くうっ」
敏感になっている身体は、素直に反応する。お互いの呼吸が落ち着くまで、こうして真理の温もりを確かめながら、ひと時を親密に過ごすのがアレックスは好きだ。
抱いても抱いても、初心《うぶ》な反応をするのが、男の欲望を煽るのを彼女は知ってるのだろうか、とアレックスは今度は耳の裏にキスをしながら考える。
真理の肩から滑らかな背中の窪み、そして先ほどまで健気に揺れた腰をさわさわと撫でる。彼女の肩が恥ずかしそうにビクビクすると、なんどでも欲しくなってしまう。
真理はアレックスを際限なく煽る。
今夜が終われば、次はいつこの愛しい身体と1つに溶けあえるか分からない。そう思うと、劣情はおさまらない。何度でも果ててしまいたくなる。
ゴムを変えようと、アレックスは真理の体の上からサイドテーブルに手を伸ばすと、それまでぐったりしていた彼女がアレックスの手を抑えた。
「真理?」
ころんと身体をアレックスの方に向けると、蕩けた顔のまま彼を見る。躊躇っていたが、抑えたアレックスの手をギュッと握ると、愛しい人は言ったのだ。
「私、今日は大丈夫だから・・・取材に出るからピルを飲んだの・・だから・・・着けないで」
彼女もアレックスの出発に思うことがあったのか・・・。
恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、瞳を潤ませる恋人のお願いに、アレックスの理性もここまでだった。
力の抜けた身体を抱きしめて、唇を荒々しく重ね合わせる。
角度を変えながら互いの舌を擦り合わせ深く口づけを繰り返す。欲望が強まり、アレックスの身体も心も熱くなってしまう。
大丈夫じゃなくたっていいのだ、本当はいつだって着けずに彼女を貪り、孕ませてしまいたい。
奥の奥まで犯し尽くしたい。
そうすれば一生、彼女を自分の側に繋ぎとめられる。そんな危険なことを思いながら、キスを解くと、アレックスはベッドボードにもたれて真理の体を自分の上に抱き寄せた。
「アレク・・・?」
戸惑った真理にアレックスは彼女の頬を撫でながら、少し意地悪な顔をして告げる。
「真理、復習だ」
彼女は真っ赤になりながら、途方にくれた顔でアレックスを見下ろす。
「大丈夫、そのままおいで」
そう言われて真理はプルプルと頭を振った。
仰向けになった自分の腰に跨らせて、欲望の証しを握らせる。
彼女の火照った手のひらが、微かに震えながら頼りなく動くのも気持ちが良い。
その手にアレックスは自分も支えるように手を添えていた。
空いてる方の手で腰を支えてやると、少し急かすように言ってしまう。
「ほら、今日ウィンザーノットに跨ったのと同じだろ」
それを聞いて真理の全身が、ただでさえ赤いのにさらに紅を引いたように真っ赤に染まった。
潤んだ瞳でアレックスを睨む。
「そんな風に思ってたなんて、エッチ過ぎる、破廉恥だわ」
「男なんて、好きな女の前じゃエッチで破廉恥な生き物だろ。ほら、ここに」
真理の手に添えてた手を離して、指で彼女のそこを知らしめる。
「はぁ、んっ・・・」
入り口を知らしめるように、優しく触れると、真理の身体が弛緩した。
頃合いだ。もういい加減、この欲望も我慢の限界で。
腰を下ろすことを躊躇う彼女に変わって、アレックスは真理の腰を掴んだ手のひらに力を込めた。
「お願いだ、真理。俺を君の中に入れて」
強い欲望を孕んだ目つきになってるのはわかってる。恋人を欲をあらわにした目つきで見つめて願えば、彼女はおずおずと腰を下ろし始めた。
「あぁっ・・・んっ、んっ・・・くぅっ・・・」
「ううっ・・・!」
少しづつ、灼熱の中に自分が包まれて、アレックスは思わず腰を突き上げた。
「はぁんっ!あっ!・・・待って、待って・・・アレク」
真理が身体を震わせる。無体は出来ないとなんとか自制すると、アレックスは真理の腰を支えてやった。
ゆっくり全てを納めると真理がほおっと吐息を漏らす。
うっとりしたような表情に変わって、アレックスの欲望は収まらない。
「真理、手綱を握って」
「?」
言われた意味が分からずキョトンとした彼女に、アレックスは自分の言葉が親父過ぎると苦笑するが、気にしない。
それまで真理の胸から腰を撫でていた両手を差し出すと意味が伝わったのだろう。
真理が「もうっ」と睨みながら、手を繋いできた。指をすべて絡ませあってギュッとにぎり合う。
「真理の好きなように動いてごらん。きみが気持ち良いようにするんだ」
アレックスの強い言葉に根負けしたように、真理はギュッと目を閉じて、恐る恐る、身体を揺らしはじめる。
「あ、ん・・・ふぁっ」
彼女の熱が昂まり、男の熱を欲しがっていく。
「んん、上手だ、真理」
アレックスがはうっとりと堪能する。
ゆったりとしたもどかしい動きなのに、彼女の中はアレックスを甘く貪ってえもしれぬ快感をアレックスに与える。
アレックスの言葉に励まされたように、真理は身体の動きに力を込める。
「アレク、気持ち良い?」
目を閉じたままアレックスに問う唇が愛らしくてキスをしたいが我慢する。代わりに掠れる声で答える。
「あぁ、最高に気持ちがいい。ウィンザーノットのリズムを覚えてるんだな」
馬のリズムと同じだと卑猥に言えば、恋人の全身が更に赤く染まるが、動きは止まらない。
真理は眼を開けてアレックスを見下ろした。
お互いの欲にかられた視線が絡んで、たまらない気持ちが募る。
握り合った指先に力が篭って、もっともっとと思うのは愛しさか。
「・・・アレクっ・・・アレクっ!」
自分で快感をコントロールできずに辛いのか、真理が切なげに自分を呼ぶ声に、とうとうアレックスも我慢できずに身体を起こした。
「真理っ!」
「あっ!あぁんっ!!」
繋いだ手を引っ張っり、真理のしどけない身体を抱きしめると、今度は自分が彼女を押し倒し覆いかぶさる。
頭を抱き込んだまま、唇を合わせて唾液を交わす。唇を貪ると真理が自分の首に腕を回し、しなやかな足を自分の腰に絡みつける。
本能のまま、ただ彼女が欲しくて。
どうしてこんなに愛しいのだろう。
愛してると言うだけでは足りない。
彼女の全てに溺れて、全てを手に入れたくてたまらない。
雁字搦めにして、片時も離さず側にいたい。
これまでずっと戦地に行くことは平気だった。
死ぬことが怖くなかった。
中途半端な第二王子・・・国のため、国民のために死ねるなら、存在する意味もあるだろう・・・そんな風に思っていた。
だが・・・真理と出会った今は・・・
彼女と未来を見たい・・・彼女と一緒に生きたい・・・
絶対に生きて帰る・・・真理のもとへ・・・
愛してる・・・愛し過ぎてるんだ・・・
アレックスは脳髄が蕩けるような快感の中に雄の本能を感じる。
唇を合わせたまま、力の抜けた彼女の身体を抱きしめて、ただただ、恋人の熱の中に溺れていた。