振り向けばドンタコスゥコがいる(本編とはまったく関係ありません) その3
狂乱の宴が終了したわけですが、ドンタコスゥコ商会の皆さんはいつものようにおもてなし酒場の中で起き出すと、率先して店の中を掃除・片付けをしてからお風呂に入りにいきました。
で、ドンタコスゥコが僕のとこにやってきてですね、
「いつもすいませんですね、賑やかにしちゃいまして」
そう言いながら、ペコペコ頭を下げていきました。
そんなに謝るのなら最初からしなきゃいいのに……とも思いますけど……
まぁ、あれです。
ドンタコスゥコ達って、年がら年中この世界の中を旅しながら商売して、お金稼いで生活してるわけですよ、みんな。
そんな生活なんだし、やっぱどっかでストレス発散しなきゃいけないんでしょう。
と、まぁ、そんな感じで理解出来る部分も無きにしも非ずですので、
「まぁ、わからんでもないですけど、次回からはもうちょいほどほどで頼みますね」
そんな感じの言葉を返した僕なんですが、僕が元いた世界にはこんな言葉があるんです。
それはそれ、これはこれ
昨日ムツキを怖い目に遭わせた悪い人には、ちゃんと報いを受けていただきませんとね。
そんな事を考えている僕の背後から、ファラさんがそろばんをジャラジャラ言わせながら登場しました。
「店長からいつもよりビッシビシいっていいって言われてますので、ビッシビシいかせていただきますわよ。えぇ、ビッシビシですわ」
そう言いながら、眼鏡をクイッと押し上げるファラさん。
そんなファラさんを前にしたドンタコスゥコですが、しばしその場で固まっていたかと思うと……
おもむろに、その場に座り込んでいきまして、ゆっくり頭を下げていきました。
「どうかお手柔らかにお願いいたしますねぇ」
ドンタコスゥコはですね、THE・土下座をしながらそう言いました。
……うん、すでにこれ、勝負ついてますね、戦う前から。
◇◇
というわけで、今月は大騒ぎしたペナルティーで少々お高い仕入をしてもらうことになったドンタコスゥコ商会です。
「でもまぁ、ここの商品はどこでもすっごく評判がいいですからねぇ、頑張って売りますねぇ」
ドンタコスゥコはそう言いながら皆と一緒に馬車の中に購入した荷物を積み込んでいました。
「あ、そうそう」
そんな中、ドンタコスゥコはおもむろに僕のところに寄って来ました。
「実はですねぇ、この書類にサインをお願いしたいんですよねぇ」
そう言いながら、ドンタコスゥコは1枚の紙を僕に差し出してきました。
よく見ると、それには『推薦状』と書かれています。
「私達ドンタコスゥコ商会がですねぇ、王都で商売出来るように一筆お願いしたいんですよねぇ」
ドンタコスゥコはそう言いながら僕の前で揉み手を繰り返していました。
で、まぁ、その書類の内容を読んでいきますと……
つまり「ドンタコスゥコ商会は不正や偽物を扱ったりしないいい商会ですよ」っていうのを、王都に対して証明してあげればいいみたいです。
このガタコンベの領主としてってことみたいですね。
一応僕、このガタコンベの領主代行務めてますんで。
ただ、こんな書類にサインしていいのかどうかなんてわかりません。
と、いうわけでこのガタコンベにおける領主業務を実質的にすべて行ってくれている組合のエレエに来てもらいました。
「はいはいなんですなんです?」
「エレエ、忙しい時にごめん、これなんだけどさ……」
僕から推薦状を受け取ったエレエはですね、フンフンと首を振りながら書類を読んでいきました。
で、一通り内容を確認したエレエは僕へ視線を向けてきました。
「このドンタコスゥコ商会さんと、タクラ店長さんはコンビニおもてなしとしてお付き合いがあるんですね?」
「うん、そう」
「で、特に不正とか、偽物販売するような業者じゃないと、思われてます?」
「しないしなし、しようと思ったことは何度かあるですけどやったことはないですねぇ」
「いや、ドンタコスゥコはちょっと黙ってて、っていうか、ちょっとぶっちゃけ過ぎだろ、おい」
まぁ、そんな感じで話が進んでいきまして……
とりあえず不正はしないだろうってのは、今までのつきあいでわかってるんで
「じゃ、ここにサインしたらいいんだね?」
「ははぁ、店長さんには感謝感激ドンタコスゥコ感激ぃ!ですねぇ」
サインをしている僕の横で、なんか親指立ててるドンタコスゥコ。
で、そんなドンタコスゥコにサインした書類を手渡しました。
「いやぁ、ホント、マジ、ありがとうですねぇ」
ドンタコスゥコはそう言いながら何度も頭をさげていました。
しかし、王都ってとこでの商売かぁ……ドンタコスゥコも頑張ってるんだなぁ。
僕がそんなことを呟いていると、
「コンビニおもてなしは、王都には進出なさらないんですです?」
エレエがそんなことを聞いて来ました。
で、僕はその言葉を聞くと腕組みしながら考え込んでいきました。
現在のコンビニおもてなしは、コンビニとしての店舗を4店経営しています。
どの店も順調に利益をあげていて、店としての体力もかなりついてきているのは事実です。
……ですが
「そうだなぁ……この世界一番の都市に店を出すっていうのは興味あるけど、今はまだまだ足元を固めないと」
「足元を、です?」
「うん。今さ、このガタコンベの近隣で言えば、ブラコンベとララコンベには出店したけどこの近隣には辺境都市があと2つあるわけで、そこにはまだ出店してもいないしね。まずはそこへの出店を考えつつ、この地域一帯での営業基盤をしっかり固めておかないとね」
まぁ、これは爺ちゃんの経営見てた僕なりの教訓でもあるわけです。
爺ちゃんは宝くじを当てて、その金でコンビニおもてなしを開店しました。
最初は潤沢にお金があったもんですから、爺ちゃんはイケイケドンドンであっちこっちと手当たり次第に出店しまくったんですよね。
爺ちゃんの時代ってまだコンビニが今ほど普及してませんでしたので、そう言った意味での物珍しさもあってコンビニおもてなしはどんどん儲かったわけです。
ですが……コンビニって、あっという間に増殖していったわけですよ。
父さんの代になると、コンビニおもてなしの支店の周囲にはライバル店が目白押し状態。
僕の代になってですね、地元密着型経営を始めて、近くで畑やってる人から野菜を仕入れて、それを使って弁当作ったりしたら、市役所から表彰されたりもしていたわけです。
この地元密着型経営に、もっと早くから着手していれば、元いた僕の世界のコンビニおもてなしも、もう少し持ち堪えたのかもな……
まぁ、この世界にくる寸前の時にコンビニおもてなしは、もう手遅れ状態だったんですけどね。
そんなわけで、この世界でのコンビニおもてなしは地元密着型経営を徹底しようと心に決めている僕なんです。
「なるほどなるほど、タクラ店長さんは、とても慎重派なんですです」
エレエはそう言うとニッコリ笑いました。
「そう言う経営者、私大好きです」
「エレエにそう言ってもらえると、僕もなんか嬉しいよ」
そんな感じの会話を交わしていた僕とエレエ。
すると、なんか僕の足の裏側に圧力が……
振り向くと、そこにはスアがいました。
転移魔法でやってきたらしいスアはですね、僕の足に抱きつきながら頬をすり寄せています。
「……旦那様が、エレエとラブくてジェラ、なの」
スアはそう言いながら、拗ねたような顔を僕に向けて来ました。
なんて言いますか……伝説の魔法使いだっていうのに、スアってばこういう時にはホント子供っぽいんですよね。
特に恋愛関係といいますか、僕のことになると……
やきもちや嫉妬、ジェラシることもしょっちゅうなスアですけど、それもこれも、スアが今まで恋愛をしてきたことがないからだと思うわけです。
なんせ200年以上生きて……
「……20代」
……自己申告20代のスアですからね、こと恋愛に関する経験値はまだまだ足りないんだろうと思っています。
だから、こういうのはスアと一緒に結婚生活を送りながら、恋愛経験値も一緒に積み重ねていけばいいんじゃないかなって思っているんですよね。
僕がそんな事を考えていると、スアってばその顔どころか体中真っ赤にしながら、アウアウ言ってます。
そんな顔で僕を見上げているスア。
「……だ、旦那様……す、素敵すぎ、よ」
ようやくそう言うと、スアは僕に抱きついて……そのままプシュ~ってな感じで頭から湯気を出しながら大袈裟でなく茹で蛸のようになって気絶してしまいました。
で、そんなスアをお姫様抱っこした僕は、ドンタコスゥコ達を見送っていきました。
ドンタコスゥコは、僕の横に立っているファラさんを見ながら、
「次回こそリベンジですねぇ」
そう言って中指を立てていたのですが、一方のファラさんは、
「は、どの口で物を言ってますのかしら?」
そう言いながら、冷笑しています。
なんか、横に立ってる僕まで冷気を感じそうです、はい。
ま、とにもかくにも、ドンタコスゥコ頑張ってな!