振り向けばドンタコスゥコがいる(本編とはまったく関係ありません) その2
僕の後方にいきなり出現した僕よりやや小柄な男の子。
痩せマッチョで、かなりイケメンなこの男の子は、僕のことをパパと呼んだんですけど……
ん?
よくその男の子の顔を見るとですね、誰かの面影があります。
目元や口元……それをよくよく見ていた僕は、おもむろに口を開きました。
「……ムツキ?」
僕がそう言うと、その男の子は嬉しそうに微笑みまして、
「さっすがパパぁ!男の子に変化してもわかってくれたにゃしぃ」
そう言いながら僕に抱きついて来ました。
え~、つまりこういうことです。
僕がドンタコスゥコに頼まれて独身男性を探していたのを、思念波で探知したムツキがですね、自分の体を男の子に変化させて、こうしてやってきたってことなんです。
で、僕の服を着ているムツキ少年バージョンはですね
「えへへ、パパの服にゃしぃ」
と言いながら、シャツの袖の匂いを嗅いでいます。
スアの検査で変化系魔法に適正有りって言われていたムツキですけど、もうこんな変化魔法を使用出来るんだなぁ、と、僕は感動しきりだったわけです。
そんな事を思っている僕の前で、ムツキはですね
「……パパの匂い……なんか、変な気持ちになってきたにゃし……」
よく見たら……頬を赤くしてはぁはぁ言い始めてまして……ってか、よく見たらムツキが着てる僕のシャツって、まだ洗濯する前のやつですよ……
若干、ムツキの性癖に危険性を感じつつも、僕はムツキを連れて巨木の家に向かいました。
「ムツキ、気持ちは嬉しいけどさ。ムツキはまだ赤ちゃんなんだから、そんなに気を使わなくてもいいんだよ」
「でもぉ……」
僕の言葉に、ムツキはあからさまに不服そうな表情を浮かべています。
「その気持ちだけで嬉しいからさ。ありがとうムツキ」
「いしし……褒められたにゃしぃ」
僕がムツキの頭を優しく撫でていくと、それまで不服そうな表情をしていたムツキはようなく笑顔をうかべてくれました。
さて、これでこのままムツキを巨木の家に送り届けたら、ドンタコスゥコ達が待ってるおもてなし酒場へ向かうとしよう……
僕がそんな事を考えているとですね、
「店長さん! そ、その美少年はどうされたのですかねぇ!?」
なんか後方から、ドンタコスゥコによく似た声が……
で、嫌な予感とともに振り向くとですね……そこには、ドンタコスゥコがですね、酩酊モードで立っていたんですよ。
すでに顔が真っ赤のドンタコスゥコ。
この短時間でよくもまぁ、そこまで真っ赤になるほど飲んだなぁ、と感心している僕の前でですね、フラフラと近づいて来たドンタコスゥコは、
「さぁ、ぼっちゃん、一緒におもてなし酒場にいきましょうですねぇ」
「え?あれ?ぱ、パパぁ!?」
なんかですね……ドンタコスゥコってば、一体どんな手品を使ったのかわかりませんが、僕が頭を撫でていたムツキ少年バージョンを一瞬で奪い去り、そのまま御姫様だっこすると、おもてなし酒場に向かってすごい勢いで駆けているんですよ。
「お、お前!? 何してんの!」
僕は、大慌てでドンタコスゥコの後を追いかけました。
ですが、ドンタコスゥコってば酩酊状態で、なおかつ千鳥足で、なおかつムツキ少年バージョンをお姫様抱っこしてるってのに、すっごい早さで移動していくもんですから全く追いつけません。
*ここで、異世界コンビニおもてなし繁盛記のイエロお姉さんからのお願いでござる*
酩酊状態での御姫様抱っこ&ダッシュは大変危険でござる。絶対真似してはいけないでござるよ。良い子の皆とイエロとの約束でござるよ。
で、ドンタコスゥコってば、ムツキ少年バージョンを御姫様抱っこしたままおもてなし酒場になだれ込んでいきました。
「みんな、美少年が登場ですねぇ」
ドンタコスゥコは、そう言いながら自分が御姫様抱っこしているムツキ少年バージョンを皆に見せていきます。
すると、おもてなし酒場の中で酒盛りを行っていたドンタコスゥコ商会の皆さんから大歓声が上がっていきました。
「なんて可愛いんでしょ」
「もう、たまんない」
「お姉さんと遊ばない?」
「あ、こら! 抜け駆けダメ絶対!」
ムツキ少年バージョンに群がったドンタコスゥコ商会の皆さんは、思い思いに言葉を発しながらムツキ少年バージョンを取り囲んでいます。
その目は皆、若干目が血走っています。
獲物を見つけた虎の目です。
虎だ、虎だ、お前は虎……あ、いや、そんな冗談を言ってる場合じゃありません。
僕は、ドンタコスゥコ商会の皆さんの人垣をどうにかかき分けて中に入ろうとしたのですが、まるで肉のカーテンのようにびっちりと詰まっているその中に入ることが出来ません。
……かくなる上は
僕は、おもてなし酒場の入り口の方へ視線を向けると、
「はい、ドンタコスゥコ商会の皆さん。お待たせしましたぁ。表にイケメンの騎士様が到着してますよぉ」
そう、大声で言いました。
すると
「イケメンの騎士様ですって?」
「それはいわゆる玉の輿ですか!?」
「やだ、素敵!」
ドンタコスゥコ商会の皆さん、口々にそう言いながら一斉に酒場の外に出て行きました。
気がつくと、店の中には、イケメンなどお構いなしに酒を飲み続けているイエロとセーテン、それにファラさんの姿とですね……なんか、力尽きて床に倒れ込んでいるツメバとテンテンコウ♂の姿がありました。
酒を飲み続けている3人はともかく、ツメバとテンテンコウ♂の2人は、どうやらさっきの様子でドンタコスゥコ商会の皆さんに迫られたうえ、散々玩具にされた後のようです。
2人とも、微妙にズボンが……あ、いえ、これ以上は武士の情けですね、はい。
「パパぁ、怖かったにゃしぃ」
ツメバとテンテンコウ♂の様子を見つめていた僕に、女の子バージョンに変化したムツキが抱きついてきました。
かなり涙目になっています。
そりゃそうですよ……見た目は少年になってても中身は赤ん坊なんですから。
僕は、ムツキをしっかり抱きしめると、
「とにかく逃げよう、巨木の家に戻るよ」
「はい」
僕は、返事を返したムツキをお姫様抱っこすると、そのままおもてなし酒場を駆け出しました。
何しろ、さっきイケメンの騎士様なんて言いましたけど……あれ嘘ですからね。
それに気付いたドンタコスゥコ商会の皆さんが戻ってきたら、僕だけでなく、ムツキまでどんな目に遭わされるかわかったもんじゃありません。
今は女の子バージョンになってますけど、酔っ払ってるあの連中ですからね……
なんて、思っているとですね、何やら店の外から声が聞こえてきます。
「は、離せ、お前達! 何をするか!」
「私達は酒場に飲みに来ただけでですね、呼ばれてきたイケメンじゃありません!」
どっかで聞いた声です……しかも女性の声です……
僕は、ムツキを御姫様抱っこしたまま、物陰からこっそり声の方をのぞいて見ました。
すると、そこにはドンタコスゥコ商会の皆さんに重囲されている、辺境駐屯地のゴルアとメルアの姿がありました。
どうやら、イケメンの騎士様を求めて、店の外に出て来たドンタコスゥコ商会の皆さんと、おもてなし酒場に飲みに来たゴルアとメルアが偶然出くわしたらしく……で、女性であるにも関わらず、かなり凜々しい顔立ちのゴルアとメルアの事を、ドンタコスゥコ商会の皆さんってば完全にイケメン騎士様と勘違いしている様子ですて、その周囲に群がっているんですよ。
「イケメン騎士様ぁ、私と飲みましょう」
「いえいえ、私との方が楽しめますわよぉ」
「ちょっと、抜け駆けは禁止だかんね」
とまぁ、ゴルアとメルアの周囲ではすさまじい会話の応酬が繰り広げられているわけです。
ですが、僕にとっては超好都合です。
僕は、
「ゴルア、メルア、悪く思うな、全部僕とムツキのためなんだ」
そう心の中で2人にお詫びすると、すたこらさっさと巨木の家に逃げ込んでいきました。
「パパ……パパって、ホントに大変なお仕事してるのね。ムツキ、すごくパパのこと尊敬にゃし」
そう言うと、ムツキは僕に御姫様抱っこされたまま、僕の頬にブチュっとキスをしてきました。
まぁ、過分に勘違いが含まれてますけど、あの状況を正確に説明するのは今のムツキにはまだ難しいので、それはおいておくとして、僕はムツキを降ろすと2人して家の中へと入っていきました。
◇◇
この初日の馬鹿騒ぎさえなければ、悪い人達じゃないんですけどねぇ……ドンタコスゥコ商会の皆さん。
まぁ、でも今回は、ムツキを怖い目に遭わせたので……
「ファラさん、今回の値段交渉はいつもの5割増しの厳しさでやっちゃってください。僕が許可します」
「はいな、了解ですわ」
僕の言葉を受けたファラさん、不敵に笑いながら眼鏡をクイッと押し上げていました。